第42話 清楚可憐の少女は大胆な行動をする。
ボクのドキドキがそんな簡単におさまるはずがない。
いや、逆に周囲の人にも悪影響を及ぼしたのではないだろうか?
周囲の人には聞こえないとはいえ、リア充満喫中な様相を呈しているのだから。
「いうのは簡単ですけれど、でも、恥ずかしさはありますね、やっぱり」
いや、普通に恥ずかしかったの!?
それよりも腕に抱き着いている方が恥ずかしいと思うんだけれど!?
ボクは彼女の恥ずかしさの基準がわからず困惑気味になってしまう。
「でも、本音を伝えるのって私は大事なことだと思います。好きな人の前では嘘偽りで取り繕うのではなく、正直でありたいというのが私の本当の気持ちです」
「それはボクも同じです」
「へぇ~」
「な、なんですか?」
「じゃあ、私の今の姿を見て、素直な気持ちを述べてくださいよ」
むにゅむにゅ♡
あううぅぅぅ。これって圧力だよね? ボクの隣にいてる美少女のことを今どう思うかなんて、千尋さん自身だってわかっているんじゃないだろうか!?
ボク自身、今の彼女が可愛いという気持ちは変わらない。と、いうより、付き合い始めてからこの方、ずっとその気持ちは変わらない。
最初は裸エプロンとか、ボクの彼女像の斜め上に行くものを見てしまった気がするけれども、今思えば、それは彼女なりに自分に気を引いてもらおうという行為だったのだろう。
でも、ボク自身、恋愛経験値“0”の男子高校生なんだ……。
そんな気軽に可愛いとか言えないよ……。だって、ボクだって恥ずかしいんですから……。
「あれ? 気持ちには素直になって欲しいなぁ……」
むにゅ、むにゅにゅん♡
「まあ、でもやりすぎはウザいって思われちゃいますかねぇ……。あざとい系は目指してはいないので……。でも、優一さんの口から聞きたいのは嘘ではないですね」
むにゅむにゅ♡
「で、本当のところはどうですか?」
むにゅむにゅむにゅむにゅん♡
「か、可愛……い……です……」
「きゃっ♡」
「ボクには勿体ないくらい可愛いですよ。入試の日に出会った時から一途って言ってましたけど、ボクだって千尋さんみたいな子が彼女だったらって思いながら、生活してましたよ。でも、ボクにはそんな恋愛経験はないからきっと千尋さんの彼氏になっても千尋さんに飽きられてしまうかもしれないって思ったから……いえ、その前に玉砕するって思っていたから、声すらかけられなかったんです。でも、同棲するようになってからは、夢がかなったようで幸せでいっぱいですよ! それくらい君のことを可愛いと思ってます!」
「は、はひっ!?」
ボクが勢い余ってまくし立てるように言ってしまった。
しまった……。彼女が引いてしまったのではないだろうか……。気持ち悪い男だと思われたのではないだろうか……。
ボクは恥ずかしさに身悶えしつつも、彼女の方を見る。
腕に抱き着いている彼女は、顔を耳まで真っ赤に染め上げて、まるで熟れたリンゴのようだった。
「あ、あの……ゆ、優一さんにそう言ってもらえると、わ、私も、う、嬉しいです……」
彼女の声は急にか細くなった。
あれ? ボクはまた何か彼女に対して羞恥を湧き上がらせるようなことをしてしまったのだろうか……。
「ゆ、優一さん! そ、その……あ、そうそう! アイスでも食べませんか? 今日も暑いですし!」
「そうですね」
彼女は顔を真っ赤にしたまま周囲をキョロキョロと見渡し、近くにあったジェラートなどのスイーツ専門のお店を見つける。
「Gelat‘ottimo」という名前のそのお店は、日本人の奥さんがイタリアに留学中にイタリア人の旦那さんと出会い、そのまま現地で結婚して、日本でお店を開きたいという旦那さんの希望で、日本にやって来たらしい。最初は知名度が低くて大変だったそうだが、そのときに麻友のお父さんから相談があり、このモールで店を開かせてもらえることになって、InstagramなどのSNSで有名になって、今では国内でネット通販なども手掛けているらしい。
もちろん、そこには麻友のお父さんが一枚嚙んでいるらしいが……。てか、商売上手すぎるぞ、麻友のお父さんって……。
「どうぞ! まずはこちらが、『ブルーベリーヨーグルトとリッチミルク』になります」
奥さんから千尋さんが受け取ったジェラートにはブルーベリーの色合いが綺麗でさらにジェラートの上には冷凍のブルーベリーが数個載せられていた。
「続いて、『山葡萄のベリーラテと塩バニラ』になります」
ボクが今度は差し出されたジェラートを受け取る。
ボクらは店舗の前に置かれた日よけ付きのテラスに腰を掛け、スプーンですくいつつ舌鼓を打つ。
ボクの山葡萄のベリーラテは、山葡萄のソースを使ったカフェラテに、フリーズドライのストロベリーがトッピングされている。山葡萄とコーヒーが一体となった華やかな香りが一口目から広がる。そして、その後味を残したまま、塩バニラを堪能すると、程よい塩味の中にしっかりとバニラの香りと生クリームの甘さがあり、こちらも美味しい。
「うーん。美味しいですね!」
「本当に! こんなお店もあるんですね! なんだか、ほかの店を見るのも楽しみになってきましたよ!」
「本当ね! パンケーキのお店もあるみたいよ!」
「え? 食べてばっかりですか? ちょっと体重が気になってしまいますね」
「うぐっ!? レディーの前で体重の話はしないでね。確かに明日は水着を披露するんだもの、今日のが残らないように考えて食べないとね」
「あ、食べるのは食べるんですね」
「もちろん! こんな機会ないもの! 優一さんも一緒に楽しみましょうね」
「はい。できる限り付き合わせていただきますね」
ボクは彼女の喜ぶ表情にほっと安堵する。
そして、この旅行がもっとお互い深い関係になれればと、ボクは小さく決意するのであった。
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