第60話 少女たちの密会①

 もう少しイチャイチャしていたかったのですが、さすがに麻友との約束を無碍にするわけにもいかないので、私は駅前のスタバに急ぐ。

 朝食後も、時間が許されるまで、私は優一さんに寄りかかっていた。

 優一さんには別に何かをしてほしいとは言わずに、好きなことをしていてくださって結構ですと言って。

 優一さんは好きなラノベを読み始めていたけど、私としては別にそんなことに対して、気になったりはしません。

 むしろ、こうやって寄りかかって、ぼーっとできる時間があることが凄く幸せな時間なのだから……。

 これも優一さんが眷属になってくれたからに他ならない。

 それまではこういうことをしようとしても、どちらかというと優一さんから距離を取られていたように感じていたから。

 とはいえ、さすがに家を出るときに、


「じゃあ、ゆ、優くん、行ってくるね!」

「うん。楽しんでおいでよ、ち、ちぃちゃん」


 あの会話は今思い出してもなかなか恥ずかしさでいっぱいになってしまいそうになる。

 ドアを出て、閉め終えた後、私はエレベーターの中で人に見せられないような真っ赤な顔をしていたに違いない。

 ええ、もう恥ずかしさでいっぱいでしたよ……。

 変な汗まで込み上げてきそうだったのですから……。

 とはいえ、まさか、麻友がお膳立てしてくれた旅行でこうも上手くいくとは思ってもいなかった。彼女に対しては全幅の信頼を置いているわけではないが、いい仕事をしてくれたなぁ……。褒めて遣わそう。


 そんなことを考えつつ、歩いているとあっという間に駅前の噴水広場までやってきてしまう。

 時計を見ると、言っていた時間の10分くらい前。

 まあ、誰かと待ち合わせをするとなると、ちょうどいいくらいの時間と言ってもいいのではないだろうか。


「それにしても、今日も日差しが強いわね……」


 私は肩から下げたわら網バッグからハンカチを取り出し、汗をぬぐう。

 今日は、先日優一さんとの旅行で購入した肩だしワンピにウェッジソールサンダルを履いている。

 髪もポニーテールにして、うなじに髪がかからないようにしている。

 学校のようにロングストレートにしておくと、こういった服には重たく見えちゃうから、こうせざるをえない。

 うん。女の子のファッションとは大変なのだよ。


「あ、千尋~」


 私は声のしたほうに振り向くと、そこには、ジーンズのハーフパンツにデザインTシャツを着て、その上に麻のアウターを軽く羽織った


「麻友、遅かったわね」

「いやいや、充分に余裕はあると思うよ。まだ待ち時間にもなっていないじゃない」

「でも、こういうのは少しでも早く来た方がいい」

「いや、まあ、そうかもしれないけれど、さすがにまだ時間を過ぎたわけでもないから許してよ」

「仕方ない。じゃあ、スタバの新作で許す」

「いや、それ、許してないからね。て、こんなところで漫才してても暑いだけなんだから、早くお店行こう」

「そうね。私もその方がいいかも、無駄に肌を焼きたくないわ」


 私たちはオシャレな扇子を取り出して、扇ぎながらスタバに向かうことにした。

 ああ、早く新作の桃のフラペチーノが飲みたい……。



 お店は夏休みということもあって、賑わっていた。

 そもそも、駅前にある鉄道会社が運営するモール内にテナントとして入っている店なのだから、人通りが多くなればそれだけ多くのお客が入るというもの。

 私たちは何とか、奥の方の席を確保する。


「ん~~~~~~~~~~~~~~~~っ♡ これ、美味しぃ~~~~~~~~~~~~~♡」

「本当に人間社会に溶け込んでるわよねぇ……」

「まあ、私はあんたのような根暗とは違うからね」

「ね、根暗!? それは聞き捨てならないわよ」

「まあ、根暗ではないとしても、最初からの色付けがあれだけ生真面目さんなんだから仕方ないんじゃないの?」

「うっ……そういわれたら何も言えなくなるじゃない……」

「だって、そもそも人間社会に出てきた段階から、あなたはいつでもそうやって真面目さんだったじゃない。だから、魔術で色も変えたでしょうに……」

「ええ、そうよね。私が真っ黒で、あなたがライトブラウンのね」

「そ。そこでキャラ設定決まったみたいなものじゃない」

「まあ、そうなんだけど……」

「だから、こんな服装しているのを、クラスメイトとかに会ったらそれはそれで驚かれちゃうんじゃないの?」

「そりゃそうかもしれないわね。今のところ会ってないけれど」

「あー、そういうこと言うとフラグが立つんだよ?」

「うっ!? 嫌なこと言わないでよ。本当に会ったらどうしようかしら……」


 私は少し焦って、キョロキョロと周囲を見渡すという怪しい行動をとる。

 それを見て、麻友はケラケラと笑いながら、桃フラペチーノを一啜りする。


「きっと会うと思うよ。だって、今日、あたしと一緒に夕方まで遊ぶんだったら間違いないでしょ」

「そうよねぇ……。ねえねえ、私の服装おかしくないわよね?」

「大丈夫でしょ。まあ、かなりエロカワお嬢様って感じだけどね」

「え、エロ!?」

「そりゃ、それだけ肩を丸出しの格好していたら、そう見られちゃうんじゃないかな……。もしかして、優一の前でもそんな服装しちゃったの?」


 私は小さくコクリと頷く。

 麻友は少し引き気味に、


「うわっ。マジか……。そんなの男を誘惑しているような服装だぞ! ましてや、優一は童貞なんだから、有り余る性欲に対して、無差別殺人を犯しているようなもの」

「そ、そんなに!?」


 今、私は思わず驚いてしまうと同時に納得してしまった。

 あの夜がどうして、あれだけ激しかったのか、ということに………。

 ああ、あれはなるべくしてなってしまった。つまりは、私が無意識のうちに選んだ服装が、誘惑してしまったというわけなのね。

 あの所為で私は————————。


「で? どうだったのよ、旅行は? 今日、あたしはそれを訊くためにあんたを呼んだんだっていうのは分かってるんでしょ?」


 麻友の瞳が怪しく光った。(ような気がする)

 私はどうやらこのあと、すべてを話さなければならないということを、今さらながら自覚させられたのであった。

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