第61話 少女たちの密会②
私は両手で顔を覆っている。
もう恥ずかしくて、何も言えない。
いや、できるならば、この桃のフラペチーノを飲み干して帰宅したい。
麻友の傍から一秒でも早く立ち去りたいというのが、本心だった。
だって……、私はそっと指の間から前の麻友の表情を読み取ろうとする。
優雅にソファに座り、ガッツリと白い肌が見えている足を大きく組んでいる。
いや、それだけで十分にエッチだと思うのだが、そんなことはどうでもいい。
麻友はニヤニヤとこちらを見つめているのである。
「へぇ~、つまり、デートを楽しんで、千尋のお父さんに優一のことも認めてもらった、と?」
「う、うん。まあ、あの時はどちらかというと、私が早く振り払いたかったから少しばかり、お父様を脅迫したというか……」
「本当にあんたって怖い子よね。あんたのお父さんは吸血鬼の真祖なのよ? よくもまあ、そんな簡単に脅迫できるわね」
「娘のことになると甘いからね、お父様は……」
「いや、そういう問題じゃないと思うんだけど……。それにしても、優一を認めるってすごいよね。だって、見た目だけじゃなくても、普通の人間なんだから」
「うん、そうなんだけどね。でも、それだけじゃないってのはお父様も気づいてはいたみたい」
「へぇ~。それってやっぱり匂い?」
「うん。私たちにとっては最高の匂いなんだけど、お父様にとっては不快な臭いなんだってさ」
「まあ、フェロモンとかは、大体そういうもんでしょ」
「そうなのかな……。で、私と麻友が搾取してるってことも伝えたわ」
「え!? あたしの名前出しちゃったの?」
「ええ、そうよ。別に本当のことなんだから問題ないじゃない」
「でも、普通は一人につき一契約って感じじゃない?」
「あ、そうだったわね」
そうなのだ。実は、淫夢魔や吸血鬼といったものは、血や精液を搾取するにあたって、一種の契約を結ぶのである。
だが、優一さんの場合は、濃厚な血や精液を持っているため、その契約が複数であっても問題ない状態になっていたのである。
とはいえ、今は私と麻友の二人だけなのだが……。
「でも、それが何か問題を生み出すっていうの?」
「いや、まあ、お父さん止まりであれば問題ないんだけどね……。これがあんたのお母さんにまで話が伝わったら何かと問題でしょ?」
「————————!?」
た、確かに……。
私のお母様は吸血姫と言われていて、実は淫夢魔とのハーフなのである。
で、まあ、吸血鬼と淫夢魔の仲介ができる貴重な存在なのだが、問題はそれだけでは終わらない。
だって、そもそも両方共の属性を持っているのだから、人間を誘惑して精飲すら余裕でこなしてしまえるのである。
そんなお母様に優一さんのことが知られてしまったら……。
「優くんが危ない!」
「そうよね……。て、いつの間にか、名前予備に変わっているのにずっと違和感を覚えていたんだけど、どうしてそうなったの?」
「いやぁ、もう、彼も眷属になったし、このままいけば結婚間違いなしだから、距離を縮めようってことでぇ~」
「うあ。すっげぇ、幸せオーラ出してきてるね。で、眷属にするのは失敗はなかったのね?」
「うん! 前の時の失敗はしなかったよ! 優くんが明かりを消してくれて、月明かりだけ差し込むような幻想的な寝室で、で、できたから……」
「うわぁ……。なかなかなシチュエーションね」
「うん。優くんが全部エスコートしてくれたって感じかな……。なんだか、私が安心しちゃって、そのままシちゃった♡」
「うわ。生々しいね」
「い、いや、そんなことないよ。もちろん、ちゃんとお互い初めてだったし、優くんもちゃんと私のこと気遣ってくれたし」
「で、眷属になれたのね」
「うん!」
「それはお幸せなことで。こっちも場所を提供した意味があったってものね」
「あ、でもね……」
「ん? 何かあったの?」
「いや、その……優くんがあまりにもケモノになっちゃって……」
「ちょっと待って……。その話、ここで話しても大丈夫なことなの?」
「うっ……。ま、まあ、この辺、奥まってて、あんまり周囲に聞こえそうにないから……」
私が周囲をコソコソと見るが、ほかの客もみんな自分たちの話で盛り上がっているのと、夏休みの混み合った状況下では、ノイズが生み出されていて、私たちの話が聞こえるようなことはない。
「ま、まあ、大丈夫かしらね」
「そ、そうだよね。じゃあ、話を続けるけど……。実は、眷属にした後、彼が私の体に欲情しちゃって、続けて2回ほど……立て続けに……」
私は再び顔を両手で覆った。
思い出すだけで、あのときの優くんの顔と鏡で見えてしまった私の顔は恥ずかしさが込み上げてくる。
「さ、3回もシちゃったの……?」
麻友の驚きを隠せない声での問いに私は無言のまま、コクリと縦に首を振る。
麻友はふぅ……と大きくため息をついて、フラペチーノを一飲みすする。
「で、それで終えれたのなら、相性バッチシってことでいいんじゃないの?」
「いや、それがね……。こんな紋様が刻まれちゃったの……」
と、私は左手の甲を見せる。そこにはうっすらとピンクがかった淫夢魔の淫紋のような紋様が浮かび上がっていた。
「あんた、これ、淫紋じゃない……。嫌な予感がするんだけど、もしかして………」
「うん。優くんに隷従化させられちゃった♡」
「アホか—————————っ!」
折角、小さな声で話していたのに、麻友の魂のこもった叫びで一瞬で、周囲の視線をこちらに集めてしまったのであった。
あれ? やっぱり隷従化ダメだったのかな……。
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