第123話 清々しく記憶にない朝———。

 朝は清々しい……。

 たとえ、あんなに激しい夜だったとしても……。

 そう。昨日はボクと千尋さんは身なりこそ小学生そのものだったが、やっていることはいつも以上に激しく大人だった。

 いや、本能に身を任せた大人……と言ったほうが良いのかもしれない。

 彼女は何度もボクを求め、そしてボクは何度も彼女のそれに応えた。

 可愛い幼女姿の千尋さんに欲情してしまい、さらにそのエッチな声にさらに欲情してしまう。

 ああ、実は千尋さんって淫夢魔だったりしないのかな?

 本当に吸血鬼なのだろうか……。

 彼女はというと、幼女に戻ったことで、悪夢だった初めてがリセットされたらしく、ボクとの間でヴァージンを捨てた。

 そして、最後、ボクを眷属にするためにお互いの絶頂の時に彼女はボクの首筋に喰らいついた。

 血を吸われる快感はボクの全身を駆け巡り、彼女の下腹部にありえない量を吐きだした。

 これ以上ない幸せな時間をお互いで共有できた……。

 もう少し余韻に浸りたいが、朝がやってきている。

 妹もいるので、朝食を用意しなくてはならない。

 ボクは彼女の方を見る。と言っても、彼女はボクに背を向けている状態だけれど……。


「———————!?」


 千尋さんが、元の姿に戻っている……。背格好で言うと、昨日までのそれとは大きく異なっている。

 ということは、と思って自分の手を見つめてみると、サイズが幼児サイズではなくなっている。

 

「ち、ちぃちゃん!」

「……ん? どうしたんですか?」


 千尋さんはこちらに寝返りを打つ。

 眠気眼をこすりながら、ボクの方を見つめる、と、ボクと同じような具合で驚きを隠せないでいる。


「も、もしかして、私たち、元に戻りました!?」

「う、うん! そうみたいだね!」

「良かったですね!」


 千尋さんがボクの手を握る。

 その瞳にはうっすらと涙すら浮かんでいる。

 そりゃそうだ。ボクらは突如、呪いをかけられたけれど、どのようにして自分自身に戻ればいいのか分からないままだったのだから。

 それが、こうやって元の姿に戻れたのだから………。

 て、ちょっと待てよ?


「で、でも、こうやって戻れたってことは……」

「真実の愛の深さを証明できたってことになりますね……」

「もしかして、昨日の……」


 ボクが言いかけて、彼女は頬を赤らめる。


「そりゃ、あれだけ目いっぱい注がれてしまっては……」

「あ……はははは………」

「もう、私の赤ちゃん部屋がいっぱいに満たされちゃって……」


 その時、ボクらの布団がもぞもぞと動く気配がした。

 え……。美優がもしかして、朝から狙いに来てるのか!?

 ボクらは不審に思い、掛布団をめくりあげると、


「だぁーっ!」

「「————————!?!?!?」」


 ボクら二人は声にならない悲鳴を挙げる。

 そりゃそうだ。ボクらに挟まれるようにいたのは、赤ん坊だったのだ。

 ボクのような真っ黒なボサボサの髪に、千尋さんのような真っ赤な瞳。

 愛らしい顔は先日までのボクらのような表情をしている。


「ゆ、優くん!?」

「ち、ちぃちゃん!?」

「こ、これは誰の子ですか!?」

「ぼ、ボクは……ち、ちぃちゃんとしかシてないよ!?」

「で、でも……。昨晩、受精していきなり出産していたら、日数が合いませんよ!?」


 そりゃそうだ……。

 赤ん坊は十月十日とつきとおかの間、母体で成長したうえで、出産されると言われているではないか……。

 先日の学校の保健の授業で始動されたばかりだ。

 それがもう生まれているともなると、さすがに衝撃が走る。


「で、でも、確かに私たちに似ていますよね……」

「目元はちぃちゃんそっくりだね」

「お顔の雰囲気は優くんそっくりだと思います」

「てことは、やっぱりボクらの子どもなのかな……」

「で、でも、昨日の行為で生まれるなんてことが……?」

「それこそ、真実の愛を証明しろってことなのじゃないかな……」

「こ、この子が真実の愛!?」


 衝撃的なことに千尋さんは頭を殴られたように驚き、赤ん坊を見つめる。

 と、そこに当然やってくるトラブル…………。

 ガラッと引き戸が開き、そこからはスポブラとショートパンツの運動しやすそうな格好をした妹の美優が入ってくる。


「お兄ちゃ~ん、お腹減った~。って、なにそれ!?」


 当然、妹も千尋さんが抱き上げている赤ん坊が目に入ったのだろう。

 さ、さすがに嫉妬の心とかを燃やすのだろうか!?


「めちょカワっ!」

「へ?」


 ボクが素っ頓狂な声を上げると、美優は千尋さんの傍に駆け寄り、赤ん坊の頬をツンツンと指でつつく。


「うわぁ! メッチャ柔らか~い! お肌ぷにぷにだよぉ~!」

「そ、そうなの!」


 ようやく現実に引き戻されたのか、それとも諦めたように現実を受け入れたのか、固まっていた千尋さんが返事をする。


「ねえねえ、お兄ちゃん? これ、誰の子?」

「うわ。いきなりドストレート!?」

「え? だって、そりゃそうでしょ? あ、それにお兄ちゃんがいつの間にか戻ってる!? それも驚き!」

「そりゃどうも」

「まあ、戻ったことはおめでたいとしても、もうひとつのおめでたはいきなりだよね?」


 と、美優は冷静に千尋さんに抱かれている赤ん坊に視線を送る。


「まさか、おなかは出てなかったけど、千尋さんって妊娠してたの?」

「し、してないって!」

「ふーん。そうなんだ。最近、イライラしてるっぽいし、トイレによく行ってたから、ツワリとか出てるのかと思ってた……」

「最近は、ちょっとお腹の調子が悪かっただけよ! て、優くんの前で言わせないでくれる!?」

「ふーん。そうなんだ……。でも、この赤ん坊、お兄ちゃんと千尋お姉さまにそっくりだよね?」

「や、やっぱりそう見えるか?」

「いやいや、そう見えるか? じゃなくて、どうして自分自身で言い切れないのよ?」

「だって、昨日の今日でいきなり産まれちゃうわけないじゃない?」

「あー、まあ、昨日のあれだけ激しい行為をすれば、受精してもおかしくはないものね……」

「そうなのよねぇ……。て、どうして昨日のことを?」

「いや、普通に音が漏れ聞こえるでしょ!?」

「いいえ! 結界張ってたもの! そんなに音が漏れてない!」

「げっ!?」

「やっぱり見てたのね! もう! 最悪!」

「びえぇぇぇぇぇ~~~~~~」


 千尋さんが美優を叱ると、その声に驚いたのか、赤ん坊が突如として泣きだしてしまった……。

 てか、この子って、本当にボクらの子どもなのかな!?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る