第17話 朝から少女は機嫌が悪い。

 教室にやってきて、いきなり絡んできたのは他でもない、麻友だった。


「あ、おはよう! 麻友」

「お・は・よ・う!」

「あれ? えらく、ご機嫌斜めだね?」

「あー、なぜご機嫌斜めかを判断できないっていうのね?」

「あの日?」


 ボクの腕に抱き着いたままの千尋さんが節操のない発言を繰り出す。


「違うわよ! バカにするのもいい加減にしてよね! あなたたち、朝からバカップル状態よね」

「ふんっ! 褒められちゃいましたね」


 肩にかかった黒髪をさらりと、後ろに流して、凛とした声で応える。

 とはいえ、相変わらず学校での千尋さんは、普段のボクの前で見せるようなデレデレしたところはなく、清楚可憐かつ頭脳明晰な学級委員というスタンスに変わりはないようである。

 まあ、それに関して言うと、付き合い始めたからと言って、ボクが突如、陽キャになることもない。


「いや、褒めてないから……。それにしても、千尋、あんた、えらく肌の艶がいいわね」

「当然よ。いつもスキンケアのお手入れに関しては、バッチリですから。私のお肌に合うように特注仕様のスキンケア商品でしっかりと寝る前には保湿をしていますし、それに朝からタンパク質成分たっぷりの………を頂きましたから………」


 いや、最後で頬を赤らめたら、何があったのか麻友にバレるでしょうが……。

 どうやら、周囲のクラスメイトには聞こえていないようだが、麻友は目じりを釣り上げて、ボクを睨みつける。


「ゆ、優一!? あんた、まさか、朝から…………」

「あ、あはは………」

「ちょっと! そこは愛想笑いで逃げないでほしいわ! 朝からこんな女に吸われてくるなんて! 朝は一番搾りと言って、最高に美味しいのに!」

「ちょ、ちょっと!? 麻友!? 朝からみんなに語弊の与える言い方するのは止めてほしいんだけど!?」


 明らかに周囲がざわついている。

 男子生徒からは、


「ま、まさか、あの錦田さんに……!? あの野郎、生かしてはいけねぇ……」

「なんで突然、あんな野郎なんかの彼女に……!? くそぉ! 俺も一番搾り、吸われてぇ~!」

「付き合って、いきなりとか、あいつ、容赦ねぇな……!」


 と、まあ、明らかにボクへの殺意、そして願望が駄々洩れのような気がする。

 女子生徒からは、


「あの錦田さんに朝からとか……性癖やばいよね」

「錦田さんはおとなしそうだから、絶対にあの陰キャが無理やりさせてるのよ……。マジで訴えてやりたい」

「でも、あの二人って住んでるところ違うくない? もしかして、朝、駅のおトイレで!?」


 あー、これは良くない。非常に良くないですよ。

 明らかに、ボクに対する誹謗中傷じゃないですか……。

 てか、性癖とか……。ボクは普通です! 健全かどうかは分からないけれど、一般的な男子高校生くらいにエッチなことにも興味があるだけです!


「あ、ごめん。何か、周囲にいらない視線を食らうようになっちゃったね」

「ま、まあ、いいよ。どうせ、ボクはクラスでは陰キャという扱いだから、そこまで尾ひれがついて広がることもないでしょう」

「まあ、それだといいんだけど……」

「とにかく、私としては優一さんとお付き合いさせていただいているということを、学校中に知れ渡ってしまったほうが、変な男が近づかないので安心できるのですけれどね」

「逆にボクは千尋さんを狙っていた男どもから声を掛けられそうで、怖いよ……」

「ま、それは仕方ないわよ。あたしと千尋の二人にこうやって話しかけられているだけで、ヤッカミを言う人はたくさんいるからね」

「まあ、私たちが美少女過ぎるのが問題なのでしょうね。そして、そのお相手が中のにあたる優一さんですから」


 彼氏に対して結構辛辣な評価を突き付ける千尋さん。

 本当にあなたはボクのことを愛しているの?


「中の下って言わないで。結構グサリと来るから……」

「まあ、優一もこれまでのキャラが明らかにマイナスポイントになっているわよね」

「ええ、これまで休み時間に、誰とも話をせずに可愛いエルフの女の子が出てくる少しエッチなラブコメばかり読んでいるから……」


 どうしてボクがこっそり読んでいた本の内容を知っているの!?

 もしかして、集中して読みふけっていた時に、後ろから見られていた!?


「そうね……。あたしたち、淫夢魔と吸血鬼は明らかにエルフとは異なるものね……」

「まあ、共通点といえば、エルフの女の子が、どのも巨乳だったということでしょうか」

「あ、それはあたしたちと一緒ね」


 いや、ちょっと待って!? まるでボクがおっぱい星人のように思われてる!?

 断言するよ!

 ええ、おっぱい好きですよ! 今朝、千尋さんに挟まれたとき、ボクの性欲が暴発しそうになったんだからね……。結局、吸血で収まってしまったけど……。


「まあ、とにかく、優一と千尋はあまり学校内では、イチャイチャしないほうがいいかもね。すでにクラスメイトからだけでも、これだけの殺意の籠った視線を受けているんだから……」

「うん。そうだね……」


 ボクは素直にうなずく。


「ところで、優一さんは昨日から私の彼氏なんだけど、どうして麻友が付きまとうの?」

「そんなの決まってるでしょ! 幼馴染として、横取りを狙っているからよ」

「うあ。略奪愛? もう、ドロドロね……」

「ま、あたしも、生きていくためには、優一が必要になるんでね……。こ、行為をしなくても、こうやって近づいて、溢れ出るを吸収しないと、あたしも死んじゃうから……」

「たまには貸してあげてもいいわよ? 私は上から、あなたは下から………」


 恐ろしき美少女二人が、「ふふふ……」と不穏な笑みを浮かべる。

 もしかして、ボクはとんでもない二人に好かれてしまったのでしょうか……。

 二人で来られたら、間違いなく精力が持たない……。

 ボクは美少女二人に挟まれながら、ガクガクと震え上がるのでした。

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