第18話 少女は彼氏を離さない。(錦田千尋・視点)

 私の名前は、錦田千尋。

 父は総合商社の代表取締役社長(CEO)であり、母は料理研究家として名を馳せ、今は各種メディアに引っ張りだこだ。最近は自らのYoutubeチャンネルを開設して、様々な料理のレシピは料理作りのライブ配信などを行うなど新しいものに対しても、積極的に取り組んでいる。

 そんな二人の間に生まれたはずの私は、なぜか吸血鬼だった―――。

 気づいたのは、幼少期、祖母からそのことを告げられた。

 別に食事をしていれば、飢え死にすることはないが、血を摂取しないことには身体の細胞が少しずつ破壊されていくという。

 何てことだ――――。

 考えようによっては、吸血鬼というのは不幸な身体なのだ。私はそう感じた。

 吸血の儀式という初めて、私が吸血行為を行う日に、私は大きな失敗を犯した。

 吸血後に止血液を体液として、注がなかったことによる大量出血。

 吸血した人間は、呆気なく死んだ。私はその子の血を大量に浴びることになった。

 血を見るのが、トラウマになった。

 とはいえ、血を飲まなければ、私の細胞は次々と破壊されていくことになる。

 祖母がとった手段は、輸血用のパックを利用した吸血行動だ。

 もはやそれって何か間違っているんじゃないのかしら……とも思ったが、祖母の考えた苦肉の策だったようだ。それを灯りのない真っ暗な部屋で飲んだ。

 でも、ついに私は出会ってしまった。

 入試当日にまさかの貧血で倒れたところを助けてくれた河崎優一さん。

 肩を貸してもらって、中庭のベンチに運ばれているときに、すでに気づいていた。

 その濃厚な香りを―――――――。

 濃厚で甘く蕩けそうな芳醇な香り。それでいて、私の身体を疼かせる刺激――――。

 思わずその場で肩に歯を立ててしまうかと思った。

 だけど、私はその場は我慢をした。

 だって、この学校に入学すれば、彼を私のつがいとして、手に入れてしまえば、そのは私のものになる。

 私はすぐには告白をしなかった。

 しっかりと時間をかけたほうがいいに決まっている。

 彼がどういう人物なのか、クラスメイトや彼の出身中学だった子たちから、そして親の伝手つてを使って、家族構成も含む様々な情報を手に入れた。

 一緒に学級委員になるように仕向けたのも私。他の子たちから立候補が出ないようにして、私から推薦する形で、彼と一緒に学級委員になって二人の時間が作れるようにした。

 すべては算段のひとつ―――――。

 色々と学級委員の仕事をしつつ、話をしていると、彼の人となりが理解出来てきた。

 事前に情報を入手しておくことが、如何に大切かということを認識した。


 そして、私はいよいよ二人きりになったときに―――――。

 渡り廊下で立ち止まり、私は彼を見つめた。

 サッと両手を握りしめて、


「ずっとずっと優一さんのことが好きだったの。入試の日に助けてもらって以来。学級委員を一緒にするようなって、あなたの人となりをこれでも知れたと思うわ。いつも、あなたの横で私が柔らかな表情をするって言ってくれたわよね? その理由はあなたを信頼しているから」

「え!? え!?」


 優一さんは当然のことながら、驚いていた。

 そりゃそうよね。こんな美少女に告白されたんだもの。


「ねえ、河崎優一さん。私とお付き合いしませんか? きっと最良なパートナーになれそうだから」


 私は彼に告白して、その日から同棲することとなった。

 優一さんはまだ私の愛を完全に受け入れることができていない様子で、私の愛の告白に対して、保留のようになっていたりする。

 こんな美少女に告白されて、同意してくれないなんて、何だか私自身が敗北した感じがしてならない。

 でも、告白即同棲した日に、私たちはキスもできたし、そのまま初めての吸血行動をした。

 失敗以来、久々に直接吸ったけれど、何とも言えない快感を覚えた。

 ゾクゾクとした

 しかも、次の日には麻友から嘘の情報を植え付けられて、彼の前で裸エプロンを披露する羽目にあってしまった。

 でも、彼の血圧、体温ともにぐんぐん上昇するし、あと、下半身がおっきくなっていた……。

 さすがにこういうのは、麻友の専門じゃないのか? とも思ったが、麻友は昨日、夕食を食べ終えると、早々に帰宅してしまっていた。

 とはいえ、吸血鬼である私にとって、精飲などという行為は必要としない。

 そこで思い立ったのが、このような興奮時の血はどのような味がするのだろうか………。

 明らかな興味からくる行動だった。

 私は気絶した彼を抱きしめて、そのまま血を見ないように目を閉じて、首筋にかぶいついた。

 性欲が増したことによる甘美な味わいを含んだとろりとした、まるで精液のような濃さを感じるそれであった。

 飲んだ後、私はぶるりっと身体を震わせた。身体の奥に血が広がると同時に快感が走り抜けたからだ。

 こんなのは初めてだ―――――。

 再び、飲みたいとすら思った。

 彼と私は相性が最高だ。私は彼とは離れたくない。いいえ、離したくないと感じた。

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