第19話 少女は放課後の教室で甘えたい。

 放課後、誰もいない教室。

 そんな西日が少しずつ影を伸ばしつつある教室の中に、ボクと千尋さんの姿はあった。

 ウチの学校では、18時が最終下校となっていて、それまでは教室が解放されていて、勉強をしてもいいことになっている。

 もちろん、解放されているからといっても、おやつパーティーを開いたりするものはいない。

 だって、ウチの学校は県内屈指の進学校で、東京大学、京都大学など名立たる国公立大学や、医学薬学系の大学への進学率も良い。それだけ、しっかりとみんなが勉強をするという志を持って、入学してきているという証拠だと思う。

 だからかもしれないが、全国統一模試などが高校1年生から受験することになっている。まあ、さっそく入学早々落ちこぼれになっている者もいるようだが、そこは先生のという名のスパルタ補習が行われることで、最低限の結果が出せるようになっている。

 かく言うボクは入学時からトップ10には入っていて、その上には千尋さんもいてる。

 まだまだライバルは多い、といったところかもしれない。


「どうですか? 私は今日の課題と明日の予習が終わりましたよ」

「さすがに早いですね。ボクももう少しで終わりそうなので、あと少し待ってもらえますか?」

「構いませんよ」


 そういうと、彼女は勉強道具をカバンの中に押し込み、おもむろにボクの近くの椅子に腰かけ、足を組んだ。

 そして、制服のポケットから取り出したスマートフォンに目をやる。

 ササッと画面をタップしたり、スライドさせつつ、何かに見入っているように見える。

 ボクは明日の授業の予習としてノートをまとめていた。アナログなやり方かもしれないが、これが一番いいのだ。

 これまでの中学生活で慣れ親しんだ方法に改良を加えつつ、継続していく。

 この方法が一番、自分の糧となってくれる。


「よし! 終わりました」


 とボクは満面の笑みで彼女のほうを見る。

 カシャッ………

 その刹那、シャッター音が静かな教室に響く。


「え?」


 ボクは理解ができないといった表情をする。

 彼女は、ハッとして、スマートフォンを自身の背に隠す。


「い、いいえ、違うの……。べ、別に盗撮というつもりはなかったの……」

「あ、はい……。まあ、付き合っているので、そこは問題ないですけど……。どうして、今のタイミング?」

「あ、うん……。すごく自然な微笑みだったから、つい………」

「てか、ずっと狙っていたんですか!?」

「真面目な表情の優一さんを見ていると、何だかドキドキしてきて……。つい……」

「いやいや、そんなにじっくりと見つめないでくださいよ。ボクのほうが恥ずかしくなりますから」

「た、確かにそうかもしれないね」

「そうですよ。それにいつでも言ってもらえたら、写真は撮らせてあげますよ」

「ありがとう。……でもね、自然な雄一さんのほうが好きなの」


 そういって、さっき撮った画像を見せてくる。

 そこには自分で言うのも恥ずかしいが、課題を終えて解放された清々しい笑顔をしている自分の表情があった。


「自然体……ですか」

「うん。優一さんはもっと私のことを知ってほしいと思うんだけど、それと同じように私ももっとあなたの自然体を知りたいの。情報だけじゃない、本当のあなた自身を」

「本当のボク自身ですか……」

「うん。私はあなたのことをより知ることで、もっと好きになれる。そして、そうすれば優一さんに私のことをもっと知ってもらって、きっと好きになってもらえると思っています。恋のお試し期間が終わることには、きっと……」

「こ、恋のお試し期間ですか?」

「はいっ! 優一さんと私の付き合いなんて、まだまだ短いですからね! まあ、短いですけれど、なかなか濃厚な気はしますけど……うふふ♡」


 まあ、確かにそういわれたらそうかもしれない。

 付き合い始めて、初日にいきなりキスをしてしまったし、それに吸血もあった。

 最初は痛そうで怖かったけれど、噛みつかれた後は快感しか走らないので、まるで自慰行為で達した時のような気持ちよさを感じる。

 とはいえ、そんな表現を女の子の前ではしてはいけないから、ボクとしては判断に困ってしまう。


「優一さん?」


 ボクが少し考えていたら、彼女はボクの顔を意地悪そうにのぞき込む。

 そして、そのままボクに抱き着いてきた。


「ちょ、ちょっと!? 学校では……」

「もう、みんな帰って誰もいませんよ。別にエッチをするわけじゃないんですから、大丈夫です」

「ま、まあ、そうですけれど……」

「それにまた欲しくなってきちゃったので……」


 その表情はさっきまでの意地悪な表情から打って変わっての妖艶な表情となっていた。

 真っ赤な舌をぺろりと出して、紅蓮の瞳はまるで魔力でも宿っているのではないかと感じるように、怪しく光った。


「とろっとろで濃厚なのはにいただくとして、今は普通にいただきますね」


 そういうと、彼女は眼を閉じて、噛みつくところをペロッと舐め上げる。

 思わずエッチな感覚が走りそうになるが、理性で押さえつける。


「はむっ」


 プスッ。

 チュルチュルチュルチュル…………。


 誰もいない放課後の教室で、ボクは千尋さんとエッチ以上に、イケないことしているような気がしてならなかった。

 でも、吸われて走る快感は今日もいつもと変わらず気持ちよかった。

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