第20話 ボクと少女はお互いズルい。
「同棲」という言葉をネット検索に掛けると、真っ先に出てきた言葉にボクは驚く。
―――同棲する上での8つのルールを紹介!
な、何ですと!? 同棲するにはルールがあるのか!?
ボクと千尋さんは今、地元のスーパーに向かっているところだ。
彼女もスーパーのチラシとにらめっこをしているので、どうするか悩んでいるようだ。
ボクも料理はできるほうなので、もしも相談されたら何かお手伝いできるかもしれない。
そんなことを思いつつ、ふと検索したことで自身、衝撃が走ったのだ。
そのサイトによると、
ルール①お金の管理や生活費の支払いについて
ルール②分担する家事について
ルール③お互いの生活リズムとスタイルについて
ルール④ケンカ時やトラブル発生時の対処法について
ルール⑤お互いのNG要素について
ルール⑥帰宅時間(門限)と連絡について
ルール⑦同棲をする期間(期限)について
ルール⑧プライベートの時間について
うわぁ……、何とも細かいなぁ……と。
お金の管理や生活費に関しては、お互いで一定量を出し合うことですでに話はついているし、そもそもボクと彼女はお互いの生活費がそれ相応に各々の口座に振り込まれている。
しっかりと節約すれば、十分に貯金もできる金額だし、むしろ食費に関しては、1人分つくろうが、2人分作ろうが、金額的にはそれほど大きく変わりはないので、同棲の方がもしかするとお金がさらに貯まるかもしれない。
家事の分担も一応はできている。お互いができるものは一緒にやればいいし、千尋さんが忙しいときはボクが代わってやるという話にしてある。
お互いの生活リズムはそれほど大きな問題ではない。だって、お互い、学生で同じ学校に通学しているのだから。それに彼女とボクは部活動への参加もしていない。彼女は各部活ともに女神様のような扱いで、入部を期待していたようだが、どうやら部活動に関しては興味はないらしい。
ケンカやトラブルに関しては、まだ分からない。まあ、そもそもまだ付き合い始めてすぐということもあるし、すでに吸血されるというトラブルは起こっているので、流動的な対応にならざるを得ない。
NGもそうだ……。ボクらは付き合い始めて、まだこれからというところで、お互いのことを知り合うための重要な期間の位置づけなのだから……。とにかく、ボクのほうからラッキースケベとかが起こらないように注意だけしておかなければならない。
帰宅時間もほぼ一緒だと思うし、彼女は基本、ボクと一緒に通学するらしいので、このあたりの心配も大丈夫だろう。それにお互いLINEで何かあれば伝え合うということで決めてあるので、問題ないだろう。
同棲をする期限に関しては……。きっと彼女の場合は「ずっと」と考えていると思う。どうやら、このまま結婚まで持ち込みたいというのが彼女の希望なのだから。
プライベートに関しては、ボクと彼女に関しては、お互いで必要な時に取ればいいと考えている。あまり制限をつけるものでもないかと、考えているのだ。
こう考えると、ボクと彼女はまだまだルールを決めれる段階でもないことに気づく。
そりゃそうだ。まだ付き合い始めて二日目なのだから。
「何か悩み事ですか?」
千尋さんがボクの顔を覗き込む。
「え? ああ、なんか、こういうサイトを見てしまいまして」
ボクはスマートフォンの画面を見せる。
彼女はそれを覗き込むと、目を丸くする。
あれ、もしかして、見せてはいけなかったかな……。
「あ、すみません。何だか、気分を損ねちゃいましたかね?」
「いいえ! そんなことありません! むしろ嬉しいです! 優一さんが私との同棲生活を真剣に考えてくださっていることが分かっただけでも、その……私自身との時間を大切にしてくださっているんだと感じますから……」
そう言って、ボクの手を握ってくる。
「あ、あの、周囲の目もありますから……」
「あ! そうですね。ごめんなさい」
ボクの指摘に彼女は、照れながらその手を引っ込める。
でも、何だかもったいない気がしてしまう。折角、手を握れるチャンスだったのに、ボクはみすみすその大切なタイミングを逃したような気になる。
「あ、あの……。周囲の目は少し気になりますけど、が、学校ではないので、一緒に手を繋ぎませんか?」
「え? いいんですか?」
「あ、あの、千尋さんがよろしければですけど……」
ボクがそう言いつつ、左手を差し出す。
彼女はそっとその手を取ると、ボクの指に絡めるように手を握る。
あれぇ!? これって「恋人つなぎ」というものなのでは――――!?
ボクは思わずドキッとしてしまうが、千尋さんはあまり気にしているような素振りではない。
「優一さんの手、あったかいですね」
「そ、そうですか?」
「はい。凄く優しいあったかさがあります。こういうあったかさを、あまり経験したことがなかったので……」
「そうなんですか? ボクで良ければ、手はいくらでも繋ぎますよ」
「―――――――!?」
彼女は顔を真っ赤に染める。
あれ? ボクはそんな恥ずかしがらせることを言っただろうか。
「優一さんって、時々、そうやって私を喜ばせにくるから、ズルいです!」
彼女はボクの耳元でそう囁くと、周囲をチラリと見た後で、ボクの頬に軽くキスをしてきた。
ボクが「えっ?」と彼女を見ると、
「咄嗟的に嬉しくってつい、キスしちゃいました」
その彼女の顔はふんわりとした優しい笑顔で、恥ずかしさを隠しているようにも見えた。
ボクは彼女こそ、ズルいと感じた。
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