第21話 少女は熟成させるのがお好き。

 スーパーでお互い、恥じらいつつも手を繋ぎながら、買い物をした後、帰宅したボクらは夕食を手際よくつくり、ダイニングテーブルで一緒に食べた。

 食事に関しては、これまでも麻友と一緒に食べていたこともあって、彼女とは……ごめん、緊張した。

 これまでも麻友と一緒に食べることはかなりあった。ただ、麻友とは幼馴染ということもあって、お互いの距離感を理解していた。だから、女の子といっても緊張することなく、食べることができた。

 だが、千尋さんとの時間は違った。所作が美しいのは当然だが、なぜか、そこに艶やかさも含まれていた。

 あれ? どうして、ボクは彼女のことを考えると、こんなにドキドキするんだろう。

 そう。向かい合わせに座る彼女の瞳と視線が交わると、ドキドキが止まらなくなってしまう。

 目を逸らそうとすると、なぜか彼女の唇を見てしまう。プルンッとした瑞々しさを感じる唇に釘付けになってしまう。

 さらにドキドキが高まってくる。


「優一さん、どうかされましたか? 私の顔に何かついていますか?」

「え、いや、何だか、千尋さんに見とれちゃって」

「本当ですかぁ? それはそれで嬉しいですね」

「はい……。何だか、千尋さんが凄く魅力的で……」

「この私服が色っぽいからですかね?」


 色っぽいと言えば、色っぽいかもしれない。

 彼女は白のTシャツに黒のハーフパンツという物凄くラフな格好をしている。

 ラフと言えばラフだが、ボクは彼女の瞳に釘付けにされていたのだから、服装の問題だけではない。

 言われて、服装を見ると、白のTシャツからはうっすらと下着の色が透けている。

 ――――ピンク!?

 可愛らしさの中にエロさが混合されているような印象を受けてしまう。


「何でしたら、今日もたっぷりととろっとろの性欲まみれた血を頂いてもいいのですよ?」


 彼女はおかずのポトフに入っていたウィンナーをフォークで刺したまま口元に近づけて、それを舌でレロレロッと舐め上げる。

 その時の表情は、スーパーで見せた可愛らしい表情のそれではなく、吸血鬼モードのそれであった。

 てか、性欲を好むとか、淫夢魔のほうじゃない!?


「そ、そんなに朝の時の血は美味しかったんですか?」

「はい♡ それはもう、何ともいえない美味さでしたよ」


 とはいえ、なんだろう……。彼女を見ていると、本当に心の奥底から、ドクドクと気分が高まってきて、よこしまな考えが溢れ出てくるような感じになってしまう。

 ボクは股間に血液が流れているのを感じる。

 あ、これはまずいやつですね。


「何だったら、食後の準備運動をしますか?」


 と、言いつつ、両腕で胸を挟み込むような素振りをする。彼女の胸がくっきりとそのシルエットとして現れる。

 ああ、止めて! おっきくなっちゃう!


「なぁ~んてのは噓ですよ♡」

「嘘ですか?」

「ええ、朝イチの特濃をいただきたいので」

「朝イチですか……」

「はい。寝ている間に、血液が熟成されるんです。そのときに、私と一緒に寝ることで、性欲が体の中を駆け巡って、爆発しそうになるんです。よく朝に勃っていたりしませんか?」

「そ、そんなこと、女の子の前で言えるわけないじゃないですか!」

「それって答えているようなものだと、気づかないんですか?」

「…………うぐぅ」


 ボクは頬を赤らめて黙り込んでしまう。それを見ながら、千尋さんはケラケラと笑う。


「私は吸血鬼なんですから、エッチな話も気にしないで構いませんよ? あ、でも、私を襲いたいのであれば、両想いにならないといけませんよ。まだ、優一さんからはお返事をいただけていませんからね。私は、こうやって優一さんの性欲を漲るように努力していきますね」


 そういいながら、両腕によってお胸を寄せたまま、少し前かがみになる。

 な、何ですと―――――!?

 清楚可憐な女子高生の谷間がTシャツの首元から覗いているではないか……。

 いや、あともう少しで………て、ボクは誘惑に負けそうになっているじゃないか!

 ボクが勢いよく顔を横に振ると、千尋さんは頬をぷぅっと膨らませて、


「男の子なら、見たいって言ってくれればいいのに……。こっちもその気だから見せているんですよ?」


 あー、その言い方はずるい! ボクの下半身に大打撃だ!

 ダイニングテーブルの下だから見えないので、少し安心していた。


「こうやって優一さんの性欲を極限まで高めて、朝に吸わせていただきますね」


 ニコリと微笑んでいるけど、よくよく考えれば、なかなかえげつないことを言われているのだとボクは自覚した。


「じゃあ、もっと性欲まみれな血液を作るために、これから一緒にお風呂タイムですね♡」

「い、いや、お風呂は一人で入りますから!」

「さっき、節約するって決めたではありませんか。だから、一緒に入りましょうね。一生懸命、かつ優しく洗って差し上げますから」


 そういいつつ、彼女は指に着いたソースを舌で舐め上げる。

 いや、ソースを舐めただけなのに、どうしてこんなにいやらしさを感じるのだろう。

 彼女は吸血鬼ではなくて、淫夢魔なのでは……?

 いや、そのほうがもっと良くないことが起こりそうだけどね……。

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