第75話 妖艶な裸体少女は、積極的に襲撃する。

 ボクの目の前には、湯けむり漂う浴室からタオルすら羽織らずに、千尋さんの艶めかしい裸があった。

 ボクは当然ながら動揺して、後ずさりしてしまう。

 だって、千尋さんがいきなりこんなことをする人じゃないし……。やったとしても、夜のベッドの中で……とボクは何を勢い余ってみんなに言いふらしてしまっているんだ……。

 とにかく、突如として、こんなエッチなことをしでかすような人ではない、ということだけは言っておきたい。


「ち、ちぃちゃん!? どうして、そんな姿で!?」

「あれ? ここはお風呂ですよ? 裸なのは当たり前のことじゃないですか……」


 いや、まあ、そうなんだけど、心の準備というものがなくてですねぇ……。

 千尋さんはひたり、ひたりとボクの方へ近づく。

 滴り落ちる雫は千尋さんの肢体をさらに艶めかしく浮き立たせる。


「優一さんも一緒にお風呂に入りましょうよ」


 彼女はボクの耳元でそう囁く。

 ボクがちらりと下に視線を送ると、豊満な彼女の双丘が彼女の動きに合わせて、たゆんと弾む。

 ああ、待って!?

 そんなの見せつけられちゃたら、ボクのナニが吠えちゃうじゃない!?


「まあ、すごくいい匂い!」


 あ、しまった。

 ボクは興奮すると、フェロモンのようなものを出しちゃうんだっけ……?

 それは吸血鬼や淫夢魔にとっては、媚薬のように身体に疼きを起こすのだという。

 いや、普通にボクは何もしていないのに、バッドエンドに向かってないか!?

 あれ? もしかして、可愛い彼女の裸体に抱きしめられるのなら、実はハッピーエンド!?

 て、ボクは昼間から何を考えているんだよ……!

 おかげでボクのナニはすでに吠えていた。わん! わんわんわんっ!!


「あらあら~、早速元気になってますね♡」

「ちょ、ちょっと待ってよ!?」


 彼女がボクに抱き着こうとした瞬間、ボクは何とかそれを食い止める。


「どうしたんですか? 私たちは恋人同士なんですから、抱きしめることは問題ないじゃないですか」

「いや、そうなんですけど……。ホラ、このまま抱き着かれちゃったら、ボクの服が濡れてしまうじゃないですか……」

「まあ、そうですね。優一さんがそうおっしゃるのならば、優一さんの服を脱がせますね」

「ええっ!? ボク、自分で脱げますけど!?」

「いいえ! これは妻として当然の務めです!」


 いやいや、えらく古風なところにこだわりを持つんだな……。

 てか、さっきから感じている違和感は何なんだろう……。

 この人は彼女なんだけど、ボクの直感がこの人を抱いてはいけないって、伝えてきているんだけど……。

 そんなことを考えている間に、彼女の手はボクの上着を脱がしてしまう。

 て、どれだけ器用なの!?


「それにしても、すでに下半身は立派になっちゃってますね♡」


 妖艶に微笑む彼女の表情にボクの直感で抗おうとする。

 が、千尋さんの指先は、ボクの体を撫でるように敏感な場所を刺激してくる。


「ねえ、二人きりなんだから、いいよね?」


 そういうと、彼女はボクを押し倒して、馬乗りになる。


「うーん。やっぱり、この子の体と優一さんの相性は抜群ってところね」

「……こ、この子?」


 やっぱり違和感しかない……。

 とはいえ、何だか、術に絡められたように、思考が安定しない。

 そう。今、彼女の瞳を見た瞬間に、脳内に何かが流し込まれたような……。

 意識の乗っ取りのような何かが…………。


「キスをして、私と交われば、眷属の権利を私は上書きできる……」

「ど、どういう……」

「ああ、こっちの話です。今は、この立派なもので、私を突き上げてくだされば、それでいいのですよ」


 いや、正直お断りなんだけど……。普段の千尋さんならば、こういう攻め方はしてこない。

 むしろ、彼女はされたい側だから……。


「では、キスをしましょうね……優一さん?」

「い、いやです!」

「どうして? 私のことが嫌いになったのですか?」

「あ、いや……そういうわけでは……」

「では、いいではありませんか。私はいつでも優一さんのことが好きなんですから……」


 彼女はそういいながら、体同士を密着させる。

 柔らかい胸の感触が直に伝わってきて、どうしようもない興奮を起こしてしまいそうになる。


「では、始めましょう?」

「そうはさせないんだから!!!」

「ちっ! もう、帰ってきちゃったの?」


 忌々しそうに舌打ちをすると、馬乗りの彼女は、バッと後ろに飛びのく。

 そして、ボクが声がした後ろの方を見やると、


「ええっ!? ちぃちゃんが二人いる~~~~~~~~~!?」

「え? あ、そういう風に見えるんだね……」

「ええっ!? どっちが本物?」

「安心しなさい。こっちがあなたの千尋よ」


 全く、と、ため息をつきながら、麻友がそう教えてくれる。


「も、もう……優くんの私って、ちょっと恥ずかしいなぁ……」

「ああ、こっちが本物ですね」

「でしょ?」

「いや、今のどこにわかる要素があったの!?」


 ボクと麻友の納得した表情に、解せないといった表情の「千尋さん(裸体)」。


「全く、私がいない間に好き勝手してくれちゃって……! 人のものを奪うのは犯罪って教えられなかったの、お母様!」

「お、お母様!?」


 そう。ボクの目の前にいた裸体の千尋さんは、千尋さんのお母さんだった……て、いや、瓜二つなんだけど!?

 ボクは両方に視線を交互に向けて、見た目では分からない間違い探しをし始めたのだった。

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