第95話 妹はボクと彼女の出会いを知る。
そっと千尋さんは、妹の美優の前にコーヒーカップを差し出す。
美優は、おずおずとしつつも、
「あ、ありがとうございます……」
ちゃんとお礼が言えてるってことは、かなり冷静さを取り戻したということだろう。
ボクは普段着に着替え、千尋さんも夏用の薄手のパーカーにデニムのショートパンツを履いている。
いやぁ、今日も絹のような白いおみ足が綺麗で肌触りを思わず妄想してしまいそうになる……。
美優はその視線に気づいたのか、ボクに対しての視線はさらに厳しいものになっている。
「お兄ちゃんはいつからそんなにエッチになってしまったのですか」
「うおっ!? ストレートに訊くね」
ボクが大袈裟に驚いて見せると、美優は相変わらずの睨みを殺さずに、
「当然じゃないですか……。これまで彼女どころか、女の気配すらほぼなかったに等しいお兄ちゃんがこんな黒髪ロングの清楚可憐な美少女を手籠めにするなんて!?」
「美優……。もう少し、言葉を選んで……」
「そうだよ! 美優ちゃん! 女の気配がないって! あたしだってずっと優一の女だったんだよ!」
「あ、それ、候補ってことでしょ?」
麻友と千尋さんは出来れば黙っていて欲しい……。
ややこしいところをさらにかき混ぜるような行為だからね……。
「それにしても、千尋さんって本当に美人ですよね。あ、もちろん、麻友さんも美人ですけど」
「あー、フォロー的に言われるの辛いわ~」
「あ、本当にそういうのじゃなくて……。まあ、そもそも毛色が違うという感じなんですよね」
「ま、あたしはどっちかというと元気いっぱいな健康女子って感じだもんね」
「ええ、まあ、そういう感じです」
「じゃあ、私は何か違ったの?」
「千尋さんは、本当に清楚な美少女って感じで……。学校でもモテませんか?」
ボクが少し焦るような表情で千尋さんの方に視線をやる。
それに気づいてか、彼女はふふっと微笑んだうえで、
「もちろん、告白はされることもありますよ? でも、私はどちらかというと高嶺の花って感じに見えるのかもしれませんから……。だから、変な輩が冗談半分で告白してくることは正直ありませんね。とはいえ、運動部のエースと称される先輩方からは、何度か告白されましたよ」
ええっ!? そうなの!? て、そりゃそうだよねぇ……。ボクでも見惚れてしまうような美少女を先輩方が放っておくはずもない。
それも、黒髪ロングの清楚可憐な美少女だ————。
部活動の後で、一緒に帰ってる姿なんかを見せつければ、他の男どもは黙り込んでしまうだろうね。
「そんな千尋さんがどうして、こんな素っ気も減ったくれもないお兄ちゃんを選んじゃったんですか?」
「美優……。だから、言葉を選んでよ……。もう語尾からは、悪意しか感じないよ……」
「当然じゃない! 悪意を込めてるもん!」
込めとんのかい! 本当に最悪だな……。ウチの妹は……。
「千尋さんはいつも、あんな感じでお兄ちゃんと一緒に寝てるんですか?」
「え? うん、そうだよ? どうして?」
「そ、その……不潔だと思いませんか?」
「え……どうして? お風呂にもちゃんと入ってるよ?」
「お、お風呂まで一緒に入ってるんですか!?」
あー、この勘違い女は……。て、あまり勘違いでもないか。
確かに千尋さんは光熱費削減という目的でボクと一緒にお風呂に入ることが多い。
とはいえ、それはあくまで表の目的だけど……。
「ど、どうして、お兄ちゃんと一緒にお風呂に入ったり、寝たりしてるんです!?」
「え……、どうしてって……言われてもねぇ……」
ねぇ……ってボクの方に視線を向けないでください。
勘違い女の美優のことだから、なんでもボクの所為になるに決まっている。
美優はボクに対して、キッとキツイ視線を向けてくる。
あー、ほらね。
「やっぱりお兄ちゃんに脅されてるんですか?」
「あー、違うよ! そもそも、付き合いたいって告白したのは、私からだから……」
「…………え? 何でですか? 本当に何の得もありませんよ? デメリットのオンパレードのようなお兄ちゃんに?」
その発言は無条件でボクも傷つくんだけど!?
千尋さんも少し呆れたように、「あはは……」と微笑むと、
「美優ちゃん? 美優ちゃんがそんなに冷たく言っちゃうお兄ちゃんは本当はすごく心優しい人なんだよ?」
「そうなんですか?」
確認するようにボクを睨みつけるんじゃありません。
そもそも、ボクのことをそんな軽蔑的に見てたのか!?
ボクのことすごく好いてくれていたというのに……。
「そうだよ。受験の日に私が立ち眩みをしたときに、私の気持ちを落ち着かせてくれたんだよ?」
「そ、そうなんですか……?」
「うん。突然倒れたんだよ……。あの時は、他の子たちはみんな、自分のことしか考えていないような感じでさ……。顔色が凄く悪かったから、ボクが少し離れた場所に連れて行って気持ちを落ち着かせてあげたんだ」
「それにそのあと受験会場に入ったら、まさかの番号が並びだったんですよね!」
「そうそう! 思わず受験会場で緊張している人たちの前で笑っちゃったよね」
「そんな奇跡的な出会いがあって、それ以降、付き合うならこの人がいいって思っていたんですよ?」
「……………………」
美優は黙ってしまう。
ムムム……と硬い表情をしている。
それはどういった感情から起こっているんだ?
その様子を見ていた千尋さんが両手をポンッと叩き、
「そっかぁ~。美優ちゃん、優くんのことが好きなんですね?」
「「うえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?!?!?」」
ボクと美優は驚きの声を上げてしまう。
ど、どうしてそういう思考に行き着くの!?
ボクには全く解釈不能なんだけど————!?!?
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