第92話 幼馴染の恋路?

 ムラムラムラムラムラムラ………………

 え? イライラじゃないのかって?

 まあ、イライラもしているけれど、実家に帰ってきてから、私は優一さんと一緒に触れ合いすらあまりない……。

 これは離婚の危機なのでは————!?


「ねえ、何を面白いことしてるの? 百面相みたいね」

「別に遊んでるわけじゃないの。こっちはこれでも深刻なんだから……」

「ふーん。まあ、深刻なんだね」

「うあ。感情入ってないわね……」

「まあ、あたしはどちらかというと幼馴染ポジションだから、そこまで肌の接触をしなくても、ムラムラすることなんかないもの……」

「それはいいですわね」

「それにしても、清楚可憐というマスクはもうはがしちゃったの?」

「あんたの前では素でいてた方が楽だからよ」

「何それ……」


 そういって、麻友はコップに入ってある麦茶でゴクリと喉を潤す。

 今日の麻友の服装はは短めのパンツにデザインTシャツだ。軽めの服装であると同時に肌の露出が多く、並みの男であれば誘惑されることは間違いない。

 だが、その対象となるべき「男」はここにはいない。


「だって、今日も朝起きたら、すでに優くんはいなくなっていたんだよ!?」

「あはは……。そりゃ、実家に戻ってきたら、実家の付き合いというものがあるんじゃないか? 優一がその辺を上手く、やりのけるとはあたしは思わないけれどね」

「そうなんだけどさぁ……」

「今日は、美優ちゃんとお母様で出かけてるんだよねぇ」

「仕方ないじゃない。お盆には早いけれど、ご先祖様の供養だって大切なことでしょ?」

「まあ、そうだよね……。私たちにはあまりない考えだけど……」

「人って難しい生き物なのよ。理解しようとすればね……」

「……………………」

「で、しんみりしてるけれど、ムラムラは収まらないの?」

「あー、無理! だって、こんなに優くんの匂いは近いのに、肌に触れられないなんて、生殺しなのかなって思えちゃうくらい」

「いや、もう、完全に病気だからね、それ……」


 いや、そこで頭抱えてんじゃないわよ……。

 思わず私はツッコミそうになってしまう。


「それにしても、あんたって本当に恋愛に関しては不器用よね」

「ふんっ! 恋愛もしてない麻友に言われたくないもん」

「何それ? あたしだって恋くらいはしているよ」

「え……? そうなの?」


 私は思わず目を点にしながら、麻友の方に目をやる。

 麻友はちょっと大人びたような微笑みを浮かべてくる。

 何それ……? 私なんかより恋愛経験値が高そうな微笑みを浮かべてるんだけどぉ~!?


「もしかして、ほ、本当に付き合ってる人いるの?」

「え? いるよ?」

「い、いや、だって、いつも優くんのところに来て………」

「あれは生きるため……。でも、そのうち、あんたが本当に優一のことを独占しちゃうでしょ? あたしも優一のことは好きだけど、さすがに二股させるわけにはいかないじゃない?」


 何だか、麻友が少し寂しそうな……、でも悟ったような顔をする。

 な、何よ……。何だか、私だけ遅れているみたいじゃない!


「あ、でも、優一とのエッチは気持ちいいから、搾精する日は、エッチもしちゃうね」

「いや、それが一番納得できないわ……」

「まあ、そう言わないでって。あたしたちの仲でしょ?」

「う、うん……。そうだけど……。ちなみに相手はどんな人?」

「うーん、それはまだ言えないかな」

「え? 同じ学校なの?」

「いいや、違うよ。でも、同い年」

「そうなんだ……」

「あら? 気になるの?」

「そりゃね。私にとってはあなたしか、仲の良い人はいなかったもの……」

「ま、腐れ縁だけどね~」

「腐れ縁でも嬉しいんです。私にとっては………」

「ま、過去は過去ってことにはできないっか」

「まあ、そう思おうとは常に思ってはいるんですけどね……」


 私は天井を見上げる。

 別に何かが見えるわけではないけれど、何だか、そらを見上げたい気持ちにはなった。

 その時、ポフッと麻友の手が私の頭をなでる。


「どうしたんです? 麻友らしくないですね」

「んふふ。それはお互い様だよ……。あんたがこんなに感慨深げに何かを考えるなんて久々だからさ」

「仕方ないじゃないですか……。精神的に不安定なときに、あの頃の話を持ち出そうとするんですから」

「おっと! 言っとくけど、あたしが話し出したんじゃないからね」

「分かってます」

「で、優一にも言わないの?」

「言うわけないじゃないですか……、あの頃のことなんて」

「ま、そっか。そりゃそうだよね」

「でも、私としては、やはり麻友の恋人は気になりますね」

「あー、その話をぶり返すんだ」

「そりゃそうじゃないですか! 気になって仕方ありませんよ! 乙女は恋バナが好きですからね! お相手の方はどんな方なんですか? カッコいいんですか?」

「うーん、そうだねぇ……。カッコいいよ、間違いなく」

「なるほど! やっぱりお相手の方に甘えたりするんですか?」

「まあ、どちらかというと、甘えてくるって感じかな?」

「え? それはそれで……」

「おいおい。顔が放送コードに引っ掛かりそうなくらいやばいぞ?」

「ちょっと待ってください! こんな清楚可憐な美少女を捕まえて、放送コードに引っ掛かるはないでしょ!」

「いや、マジで恐ろしい顔だったんだけど……」

「と、とにかく、また紹介してくださいね」

「分かってるって。そのうち、出会うこともあるだろうしね。その時は仕方ないから、紹介してあげる」

「そうですか! それは楽しみです」

「で、ムラムラは収まったの?」

「それと、これとは別の話です!」


 いや、本当に優くんエキスが欲しくてしかたないんだけど……!

 私の優くんはいつ、私の方に向いてくれるのかしら……。

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