第45話 少女は……の存在に気が付いた。

 ボクはアパレルショップというものには、本当に無縁な生活だった。

 いや、服くらいは買いに行くけれど、ユニクロなどのファストファッション(最近知った……)と呼ばれるお店がほとんどで、アパレルブランドにどういったものがあるかなんて言うこと自体気にも留めていなかった。

 だから、基本的にはお店に行こうと言い出したものの、ボク自身はあまりわからなかったということもあって、千尋さんにコーディネートをしてもらうことになった。

 彼女が自分の横に立っていてほしい男子の服装を考えるのだ。

 一緒にいたい男子がどのような服装でいてほしいのかを学べる良い機会だとボクも思った。

 そもそも今着ている服だって、彼女のコーディネートなのだから、色彩など含めて、為になることが多い。


「そうですねぇ……。これから夏休みなんですから、夏休みの間に普段使いできるタイプのものがいいですね。それでいて、お出かけにも使えるくらいにしておきたいですね」

「え、どうしてですか?」

「もう! 夏休みといえば、私と優一さんと二人で一緒にいる時間が増えるんですよ? いつも、家にいてるわけにもいきませんから、ショッピングモールとかに行くのもありですし、図書館とかで一緒に出掛けるのもいいじゃないですか!」


 ああ、なるほど。とどのつまり、学校のある間は、帰宅時に一緒にスーパーで夕飯の材料などを買いに行くのが関の山だったが、夏休みともなると、もっと色々とお出かけをする機会があるので、そのために服装を充実させようという話らしい。


「でも、ボクに似合う服ってあるんですかね?」

「今、着ているのも十分素敵ですよ!」

「そりゃ、これは千尋さんが選んでくれたんですから……。ボクは普段、安物ばかりですよ?」

「うふふ。安物ばかりというのを気にしていてはいけませんよ。そもそも、ここのブランドは安いけれど、それなりにオシャレということで最近、雑誌などでも紹介されていますし、有名なタレントが着こなしている写真をInstagramなどにアップしたりもしているくらいなんですから」

「なるほど……。では、千尋さんのおススメでお願いします」

「いいんですか? 私好みの優一さんにしてしまっても!」

「え? あ、はい。構わないですよ……」


 別に肉体改造されるわけでもないだろうに……。

 ボクは一抹の不安を覚えながらも、彼女に主導権を預けるのであった。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 私は優一さんの姿をじっと見つめる。

 いや、変態なことをしてるわけではありませんよ。ちゃんとどういう服が似合うかを考えているんです。

 うーん。今の姿も素敵なんですよ。

 確かに優一さんはその辺のイケメンといわれる方と比較すると、身なりはそれほど誇れるものではないかもしれません。だからと言って、服でゴテゴテと装飾してしまうと、服が目立ちすぎて優一さんの良さそのものが損なわれてしまうのです。

 だからこそ、優一さんにとっての最適解を導いてあげなくてはなりません!


「そうでうすねぇ。まず、こんなのはどうですか?」


 そういって、私が優一さんに手渡したのは、今履いているコットン生地のパンツに合うかりゆしウェア。落ち着いたパステルカラーのような色合いは、落ち着いていて、インナーのシャツが普段使いのものでも大丈夫だし、デザインものの柄でも合うはずです。

 試着室で着てもらうと、普段使いもできて、かつ近場へのお出かけにも十分に対応できるレベルだった。


「うん! これはいいね!」

「気に入ってもらえて、すごく光栄です!」

「やっぱり、千尋さんはセンスが良いよねぇ」

「本当ですか? 私は優一さんに着てほしいものを選んでるだけですから……。じゃあ、他のものも選んできますね」


 そういうと、私は優一さんに似合いそうなジャケットを選ぶ。

 もちろん、まだ高校生なんだから、若い服装をすべきかとおもうかもしれないけれど、時々、私も大人っぽい服装をすることもあったりする。スキニーパンツにオフショルダートップスなんてのも着たりする。そうすると、大学生のように間違われることもあるのよね。


「夏だから、涼しそうに見えるベージュとか白もいいけれど、ピリッとした色合いにするには黒が良いわね」


 私はそう呟きながら、黒のジャケットを手に取る。

 その時、ふっと視界に人影が映る。


「あれは……お父様の遣いの者……?」


 私は嫌な予感を覚え、見つからないように姿勢を低くしつつ、優一さんが待つ試着室に向かう。

 試着室に向かうと、そのまま私は靴を脱ぎ、それをもったまま試着室に入る。


「あ、あの、千尋さん!?」

「しっ! お静かに……」


 優一さんは顔を赤らめている。

 どうやら、私が大胆な行動をしたように思わせてしまったみたい……。

 でも、私はそれどころじゃなかった……。


「どうして……こんなところで……。それになぜ、今になって……?」


 私は色々と思案しつつ、そうつぶやいた。

 決して、見つかってはいけないと思えてならない不安を抱きながら………。

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