第44話 少女は彼と一緒に温もりを感じる。
ボクたちはジェラートを食べ終えた後、お互い恥ずかしさでいっぱいになってしまった。
もちろん、ボクらが恋愛経験値が低いということに起因するのは分かっている。
だからこそ、こうやって経験を積んでいく必要があるということなのだ。
とはいえ、彼女もこういう恋愛の経験がないということに驚きが隠せなかった。
「こうやって手を繋いでいると、すごく心が温かくなるのと同時に、落ち着くのはやっぱり、優一さんだからなんでしょうかね」
「えっ!? それをボクに尋ねます!? ボクの心が落ち着かなくなっちゃいますよ……」
「うふふ。私たち、本当に初心ですね。周りから見られても、まだまだ青い青春しているのかもしれませんね」
「青春ですか……。そうかもしれませんね! でも、ボクはこういうの嫌いじゃないですよ。むしろ、好きかもしれません」
「そう……なんですか?」
「ボクはそもそもこういう恋愛をしたことがないですから、色々と千尋さんと話ができるのも嬉しいし、それに……ボクもこうやって一緒にいると安心できます」
「まあ! それは嬉しいです! 私と一緒にいてると、ドキドキするとか言われちゃうかと思いました」
いや、それはいつでもです。
いつも一緒にいることで少しずつ慣れてきてはいるものの、本当に家では常に一緒なのだ。
もちろん、お互いの時間も大切だと分かりあっているので、リビングにいながらボクは小説を読んだり、彼女はタブレットでコミックを読んだりしている。
お揃いのマグカップにホットカフェオレを入れて、それを啜りながら。
とはいえ、孤独になることはなく、一緒にいる。時間になれば、一緒にお風呂に入ることになるし、そのままベッドで一緒に寝る。
ボクにとっては常にこの瞬間はドキドキさせられる。
その原因はもちろん分かっている。
やっかみを受けることをわかったうえで言うならば、彼女が可愛いからだろう。
幼馴染の麻友も可愛いことは分かっている。クリッとした大きな瞳と常に明るくムードメーカーとなってくれる麻友はクラスでも人気が高い。
でも、麻友は幼馴染として見てきたから、恋人として見たことがなかった。
むしろ、だからこそ距離感も気にならなかったのかもしれない。
でも、今は彼女からボクに告白してきて、恋人としてお付き合いをしているわけだ。
だからこそ、「恋人」として見ているからこそ、ドキドキが止まらないのだ。
「あー、また何か難しいことを考えていますね。もう、私と一緒にいるんだから、私のことを考えてくれているんでしょうね?」
「あ、はい」
「えへへ、嬉しいな」
くっ! 可愛い……。この可愛さを見せられると、ボクはどうしても弱くなってしまう。
「そういえば、このあたりは色々と服も売ってるんですね」
「確かに色々と服がありますね」
「麻友のお父さんのことだから、アパレル関係だけでもかなりのお知り合いがいらっしゃるでしょうしね……」
「そうなんですね。今まで麻友は幼馴染としてしか見てなかったから、実家のことなんて気にもしてなかったですよ……」
「まあ、あの子も自分の家がお金持ちなんていうのを見せたくなかったんじゃないですかね。そういうのを気にされながらの関係ってどうしても変な距離感が生まれたりしますからね」
「まあ、あながち否定はできないところですね」
「だから、彼女としてはこれまで通りの関係でいてほしいということもあったのかもしれませんよ」
「もちろん、ボクとしてはこれまで通り接するつもりですけどね」
「当然です! そうしてあげないと、可哀想ですしね。あ、でも、私が恋人であることは、譲れませんからね!」
彼女はボクの腕を引っ張り、そのまま抱き寄せてくる。
再び、腕は彼女の胸に埋もれた。
「も、もちろんですよ! そこは区別します」
「そうですね。区別してください! あ、でも、差別はしないであげてくださいね。麻友は私にとってもとても大切な友人ですから」
「友人ですか……」
「まあ、人に言えないところではありますけどね。でも、彼女のことは大事にしてあげてくださいね」
「言われなくても、そのつもりですよ。ボクにとって、麻友は幼馴染ですから」
「あ~、いいですねぇ……。そうやって幼馴染ポジションにすんなりと入れる麻友は……」
いやぁ……、それよりもボクの恋人ポジションにこじ開けて入ってきた千尋さんの方が凄いような気がしなくもない。
「でも、私もこうして恋人ポジションを勝ち取ったわけですから、しっかりと優一さんへの愛を魅せていきますね」
「わ、わかりました。見せるのは、お手柔らかに」
「もう! 優一さんは、いつもそうやって奥手なんだから……。でも、そんな優しいところが優一さんの良いところですよ」
そういうと、彼女はさらにボクへの密着度を高めていく。
もはや、周囲からはカップルからは優しい柔らかな視線が、童貞たちからは突き刺すような殺意のこもった視線がボクらに浴びせかけられた。
「じゃ、じゃあ、服を見ましょうか!」
「はいっ!」
その場を後にするためにボクは、服を見ることになってしまった。
もはや、服など興味関心のないボクであるにもかかわらず……。
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