第177話 バレンタインデー狂騒曲(21)
ボクが学校に到着して、校門を通り過ぎるとき、耳にぽそりと誰ともなく漏らされた言葉が聞こえてきた。
「アイツ、やっぱり錦田さんと付き合ってんのかな?」
まあ、ボクは学校で彼女との約束ということで、付き合っていることは公にせず、誰にも公表していない。
それどころか、学校では一緒に行動するのはあくまで学級委員として行動しているだけだ。
とはいえ、今日は千尋さんからの提案で学校の校門近くまで一緒に登校した。
けれども、それはべったりとイチャイチャしながらというわけではなく、高校生カップルとして適切なそれである。
決して、家でしているようなそんな姿ではないことだけは、ここで伝えておきたい。
校門前で、彼女は学級日誌を取りに行くために職員室に行くことになっていたらしく、そこで別れた。
別れたあと、すぐに言われたのがこの一言である。
どうやらボクは千尋さんと付き合っているという噂(まあ、事実なんだけどさ……)が広まっているおかげで、監視対象となっていたのだ。
ああ、可愛い彼女を持つのってすごく大変なんだな……。
昇降口、廊下………教室に来るまでに幾度とそのような視線と呟きに遭遇しながら、自教室まで到着する。
と、そこにはクラスメイトの男子が待ち伏せをしていた。
「………えっと………どうしたの?」
「俺たちはお前に話がある!」
男子たちの……いや、「錦田千尋を愛する会」とでも呼んでおこう。この「錦田千尋を愛する会」のリーダーと思しき、牛田くんがボクの前に立ち塞がる。
はぁ……。やっぱり学校付近で普通に会話するだけでも、こういう風になるんだね……。
これで「付き合ってます」、「同居してます」、「エッチもしたことあります」、「何なら種付け済みです」なんてことがバレたら人生が終了してしまうんだろうな……。
まあ、ボクが「錦田千尋を愛する会」にボコボコにされる前に、彼女がデコピンだけで会員を全員ふっとばしてしまうだろうけれど……。
「えっと、まあ、それは分かったんだけど、まずは自分の席まで荷物を置きに行ってもいいかな?」
ボクの願いはすんなりと通り、ボクはひとまず自分の席で荷物を置く。
で、振り返ると、そこには牛田くんをリーダーとする陣形が再び整列していた。
おおっ!? なかなかの連携プレイ!
と、ボクが感心している状況ではあったが、周囲の女子クラスメイトは気が気ではない様子だ。
そりゃまあ、朝っぱらから喧嘩なんかされた日には、一日が憂鬱な気分で過ごさなければならないだろうから。
とはいえ、ボクもここで喧嘩をしたいわけではない。
「今朝、錦田さんと一緒に登校したみたいだな」
「え? あ、ああ、そうだよ」
「付き合ってるのか?」
ストレート過ぎないか!?
一緒に登校したら付き合っていることになるの!?
「錦田千尋を愛する会」の皆さん!? 千尋さんの自由はないってこと!?
何だか、彼女のことをアイドル視しすぎていて、結果的にこの会がある意味、ストーカーのような状態になっているのではないかとすら考えてしまう。
「すっごく、間が飛んだような気がするんですけれど……」
「ああ、そうかもしれない」
自覚があるんかい!?
てか、少々焦りすぎではないだろうか。
まあ、自分の推しだったアイドルに付き合っていたとかそういうことがバレたらこういう気持ちなんだろうか。
「と、とにかく! 錦田さんとはどういう関係なんだよ!」
「どういう関係とは、お付き合いしているという関係ですけれど?」
凛とした声は教室の前扉の方から聞こえてくる。
「錦田千尋を愛する会」の面々が声のする方に振り向く。
そこには手に学級日誌を持った千尋さんの姿があった。
「もう、何なんですか? 朝から騒々しいクラスですね……」
「牛田くん、どうかしたんですか?」
牛田くんとは距離を置きつつ、状況を伺う。
牛田くんは、突然のことで対応ができないように慌てふためいている。
「千尋ちゃん、男子たちが竹崎君と付き合ってるんじゃないかって、詰め寄っていたの」
「はぁ……。そんなことですか……」
「……そ、そんなことって……」
「だって、そうでしょう? 私が誰と付き合ったとしても問題はないのでは?」
「え!? いや、まあ、そうなんですけれど……。これまでかなりの告白をされてきて、すべてを拒否されているようだったので……」
「ええ、そうですよ。私のお眼鏡にかなうような人がいらっしゃらなかったので、当然ながら、お付き合いをするべきではないと思って、いわば振ってきたのです」
「じゃ、じゃあ、今回も……」
「今回? 私は竹崎くんから告白されたわけではないですよ」
そう彼女が言うと、周囲がホッと安堵の声が漏れる。
そして、千尋さんは続け様、
「竹崎くんには私から告白したのですから」
はっきりとそう言い切ったのである。
クラスメイトは一瞬沈黙する。
そして———————、
「「ええぇぇ~~~~~~~~~~~~っ!?!?!?」」
クラスメイトの男子だけならず、近くにいた女子たちも驚きを隠せない様子でいる。
そうなんだよねぇ……。ボクは彼女から告白をされて、そして、そのあとでボクが正式にお付き合いをするという返事の意味で、今度はボクから告白したのである。
だから、ボクから告白したというのは明らかな間違いなんだよね……。
動揺を隠せないクラスメイト達を他所に、
「あれあれ~~~? どうしたの?」
気のない感じで麻友が現れたのだった。
あ、想定外の状況で千尋さんの顔が少し歪んだような気がするんだけど……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます