第24話 少女たちは取り決めを策定する。
千尋さんは、こめかみ部分を人差し指で押さえつつ、深いため息をついたうえで、
「まあ、これは私が優一さんとの同棲を早めた理由にも直結するんですけれど、麻友はあなたの精力もとい精子をちょくちょく飲んでいたということです」
「――――――えっ!?」
ボクが驚いて、視線を麻友に向けると、ササッと麻友は視線が交わらないように逸らした。
ちょっと待って……。これはどういうことなのか……。
ボクはそもそも吸われた記憶がないのだけれど……。
「優一さんは、中学に進級以降で体がだるい日とかありませんでしたか?」
「たまに週末にしんどくて、昼頃まで起きれなかったことはありましたよ」
「ぎくぅっ!?」
「ああ、それだと犯人が自供してますね……」
「ええっ!? じゃあ、もしかして――――」
「はい。もしかしなくても、麻友が夜な夜な忍び込んで吸っていたんだと思われます。そうよね? 麻友?」
「はひっ!? あ、ご、ごめんね……優一。生きるためだったの」
申し訳なさそうに彼女は、ボクに謝る。
しかも、こういわれてしまったら、彼女を攻めることはできない。
ボクが勝手に彼女の命を奪い取ることは許されないのだから……。
とはいえ、さすがにボクも意識のある中では、人生で初めての経験だったこともあって、今後のことに関してどうすればいいのか決めあぐねてしまう。
「それにしても、麻友? せっかく、私が頑張って熟成させた精力をいともあっさりと吸い出されてしまっては、私の生死に関しても問題が起こってくるんですけれど?」
「ああ、大丈夫だよ。今日のはすごく濃厚だったから、当分は飲まなくてもいいかな?」
「いいえ、そういうわけではありません。そもそも、今はよくても、将来的に私が必要としているときとあなたの必要とする時が同じであったならば、これは避けることのできない対立を生んでしまうと思います」
まあ、そうだね。
ただ、ボクの意見は聞いてもらえそうにない空気だけど……。
「まあ、そうだよね。今日はあたしがお腹ペコペコで見境なく、匂いにつられてきちゃったからねぇ……」
「まあ、そうでしょうね。さっきまでの腹部の淫紋と髪の色から判断はできましたわ」
「あはは……そりゃごめんね」
「今回は許しましょう。ですが、次回以降には問題があると思いますから、ここで取り決めを……つまり、搾取のルールを作っておきましょう」
うわぁ。思いっきり今、搾取って言ったよね……。
ボクにはどうやら本当に意見をする場を設けてもらえないらしい。
「じゃあさ、半分ずつでどう?」
「それは承服しかねます」
「うげぇ……!? なんでさ!」
「だって、そうではありませんか。そもそも優一さんは今、私と同棲しているのです。言わば、私の所ゆ……げふんっ! 一心同体のようなものです!」
今、所有物って言いかけたよね?
あれ? 発言の場だけでなくて、ボクって人権そのものを失い始めてない!?
「うっ……そうだね」
麻友にまで納得されてるし……。
「それに、麻友は結構燃費が良いではありませんか」
「まあ、そうだけどさぁ……。あんなに美味しいの飲んじゃったら、また飲みたくなるっていうか……」
「タンパク質の取り過ぎには問題がありますよ」
「え!? そうなの!? お肌がツヤツヤになるから、いいと思っていたんだけど……」
「バランスを悪くすると、太ります」
「ぐぼぁ…………」
何とも形容しがたい声を上げる麻友。
ボクが見た感じでは太っているようには感じないのに、どうやら、本人は少し気になっているらしい……。
「ま、まあ、これから夏休みになるので、海に行く機会もありますからね……。そ、そのときに水着に食い込まれないボディーラインは必須なのは、あたしも理解してるよ!」
「では、飲み過ぎはダメということで……」
「でも、ちょっと待って?」
「どうしましたか?」
「千尋ちゃんはどれだけ飲む気なの?」
そういわれれば確かにそうだ。
千尋さんとボクは同棲という関係になっているので、常にボクの血を飲むことはできる。
だって、一番無防備になる就寝時に、同じベッドで寝ているのだから……。
「私はあなたみたいにたくさん飲めないのです。そもそも彼を失血死させる気ですか?」
「うっ! それは困るね」
「でしょ? ですから、私も週2回くらいしか飲みませんよ。それにしっかりと熟成させたほうが美味しいですからね」
「うん! それは物凄くわかる! 今日のことで熟成が大事だってことは分かったよ!」
いや、そこは瞳を爛々と輝かせながら言うことじゃないんだよなぁ……。
さすがにボクみたいな人間が、淫夢魔と吸血鬼の気持ちを共有することはできないのだろうけれど……。
「ですので、あなたは土曜日のみ。私は月曜日と水曜日でいかがでしょうか?」
「おお……何だか、ちゃんと熟成日があっていいかも!」
「じゃあ、これで決定で」
「あのぉ……ボクの意見は?」
「これは運命みたいなものですから、そのような意見というものは存在しません」
「ひでぇっ!」
「そもそもあたしたちが好きになっちゃう匂いを出し続けている、優一が悪い!」
「えっ!? ボクの責任!?」
どうやらボクは今後も気が抜けない状況が続くようだ。
ボクは「はぁ……」と深いため息の後、
「ボクは疲れたから、もう一度寝させてもらうね。麻友もちゃんと寝なきゃだめだよ。じゃあ、お休み」
「分かったよ! 優一!」
「分かったなら、さっさと帰りなさい! 私と優一さんの夜はまだまだこれからなんだから!」
「いや、もう何もないですよね? 取り決めだってできたんですから……」
「あれは来週からの話ですよ! 今日は関係ありません! さあ、優一さん! 回復してもらいますよ!」
そういうと、布団の中で彼女が掴んだ手が、柔らかい肉の塊に移動させられる。
むにゅん♡
あ、ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!
ここはさすがに悲しいかな、高校生の精神構造と言わねばなるまい。
ボクの下半身は、再び勢いづいてしまうのであった。
ああ、本当に自分の精神的な弱さにはまいっちゃうよ…………。とほほ。
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