第28話 少女と一緒にドキドキ!

 1学期期末考査は何とか無事に終えた。

 もちろん、訳アリ同棲中の千尋さんと苦手教科をお互いで埋め合わせることができたのが大きかったかもしれない。


「うふふ。何だか、合格発表みたいでドキドキしますね」

「そうですね。やっぱりドキドキしますね」

「まあ、私たちの場合は、100位から下がるということが難しいですけれども、どの位置にいるのか、というのは気になりますし……。こうやってお付き合いすることになったんですから、どちらが上か、ということも気になりますよね」


 千尋さんは笑顔でボクにそう呟く。

 それはボクも同じ気持ちだ。

 ウチの学校では、各定期考査ごとに上位100名に関しては掲示が行われる。

 個人情報が……という人もいるかもしれないが、そもそもこの掲示の実施に関しては、学校入学時に同意書を提出したうえで行われている。

 つまり、こうやって掲示をすることで、子どもたちのやる気を引き出し、国公立大学や難関私立大学への合格実績へとつなげる狙いがあると思われる。

 学年ごとに大講堂へと続く長い廊下に、奥から順番に第一学年、第二学年、第三学年といった感じで貼り出されるのである。

 もちろん、この100名に載っていないものに対しては、追加の課題が各家庭に郵送されることになっているので、生徒本人が家に言い逃れをすることも許されないというマジヤバ目のシステムだったりする。

 ボクらは入学当初から上位をキープしており、そのおかげで学級委員を二人でしているという経緯がある。


「もうすぐ発表の時間になりますね」


 千尋さんは可愛い腕時計で時間を確認すると、そっと指で唇をおさえる。


「もしかして、緊張しているんですか?」

「んふふ。さすが、私の彼氏さんですね。隠していても騙せませんね。そうです。緊張しています。だって、同棲し始めて初の定期考査ですからね。同棲が原因で、成績が下がったなんてことになったら、元も子もありませんもの」

「そういわれれば、そうだよね」


 ボクも苦笑いをする。

 言われてみればそうだ。せっかく、同棲を始めたのに、ここで現を抜かして、成績なんか下げてしまったら、東京にいる両親も黙ってはいない。

 即部屋を引き上げて、東京の学校に来いなんて言い出しかねない。

 そうなれば、彼女との関係もなかったことにされてしまう。

 なんやかんや言って、ボクはすでに彼女のいる生活が当たり前のようになっていた。

 でも、ボクは彼女にとって、価値のある人間になりたい。

 吸血されるだけの存在ではなく、彼女がボクを親身に頼ってくれて、安心できるそんな場所を提供できる人間でありたい。


「あ、そろそろ時間ですね」

「え? あ、もう?」


 ボクが物思いにふけっていると、その時間がやってきたらしい。

 生徒たちはぞろぞろと貼りだされている大講堂へと続く廊下に向かって、歩み始める。

 前のほうはすでに目的の場所に到着できているようで、載っていたことに対する喜びの声や自身の名前がなかったことに対するむせび泣く声が廊下に響く。

 うーん。今思うと、なかなか阿鼻叫喚の図かもしれない。


「100位から順番に見ていますけれど、なかなか見つからないものですね」

「知り合いかなんかですか?」

「まあ、そんなところです。と、言っても、私もそれほど交友関係が広いわけではないので、知り合いなんて片手で数えれる程度ですけれどね」

「ま、ボクもです」

「あ、あれ!」


 千尋さんがそう声を上げ、指さす場所には、麻友の名前があった。

 順位は46位。

 部活動も忙しくしている彼女にとっては上出来なほうなのではないだろうか。

 そして、そこには腕組みをした麻友が立っていた。


「おめでとう!」

「おめでとうございます!」

「うーん。あたしより上位者であるアンタたちに褒められると、何だか悲しくなっちゃうところもあるけれど、まあ、素直に受け取っておくわ。それにしても、新人戦前の練習とかで結構部活が忙しくて、勉強がカッツカツだったけど、前回よりもランクアップを果たせたわ。それにしても、部活動の時間なんとかならないかしら……。ウチのバレーボール部、マジできついし……」

「そっか。だから、最近、来れてなかったんですね!」

「い、いや、あれは…………」


 千尋さんはきっと最近麻友が夕食を一緒に食べに来ないことを心配していったのだろう。しかし、麻友はそういう意味でいかなかったのではないらしい。

 それはあのチケットをもらったときに言われた。


 ―――あたしは夏休みにあんたが千尋に、返事をするまであんたの家にはいかないことにするわ。

 ―――どちらの返事でも構わないけれど、あんたはまず、しっかりと千尋のことを見てあげてよね。

 ―――あの子も色々と抱えていたりするんだから………。


 あの麻友の顔は、冗談ではないということくらい伝わる。

 ボクは自分のことという問題だけでなく、彼女の中にも何か抱え込んでいるということを麻友から聞かされた。

 詳しいことは何も教えてくれなかったけれど………。


「さ、あんたたちはもっと上位のほうなんだから、見に行ってきなさいよね!」


 麻友はそう言うと、ボクの背中をパンッと叩いた。

 ボクは思わずつまずいて、そのまま千尋さんに受け止められる。


「ゆ、優一さん……ここではみんなの目もありますから……」


 少し恥ずかしがる千尋さん……。くそっ! 可愛いなぁ……。

 周囲は嫉妬の表情でボクを睨みつけているのが、伝わってくる。

 ボクは無言で振り返り、麻友を睨みつける。

 が、麻友は意に介さず舌を出して、アッカンベーとしてくるだけだった。

 お前も嫉妬してるのか――――?

 ボクにはやはり乙女心は難しかった………。

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