第27話 少女はボクの話に同情する。

 ボクは包み隠さず麻友に話をした。

 ひとつひとつ頷きながら話を聞いてくれた。


「……………なかなかの惚気だったわね。」


 すべてを聞き終えた一言が、これだった。

 あれ? さっきまでの親身になって、話を聞いてくれる幼馴染は何処へ……?

 麻友の表情を見ると、若干ゲッソリとしているのが嘘ではないことを物語っている。


「の、惚気って……。そんなつもりじゃないよ!」

「ま、まあ、そうなんだろうけれど……。はっきり言って、あたしからしてみれば、本当に羨ましい話だわ」

「そ、そう?」

「もちろんじゃない! いつも一緒に登下校を満喫し、それだけでは飽き足らずに部屋に戻れば一緒に夕食を作って、団欒を楽しみながら食事をし、一緒にお風呂に入って、一緒のベッドで就寝するとか……。あたしもやりたいわよ!」

「ええっ!?」

「何だか、惚気話を聞いていたら、同情の気持ちよりも憤怒の方が湧き上がってきたんだけど……」

「ステイ……ステイ……ステイ!」


 鼻息を荒くする麻友をなだめつつ、


「とはいえ、ボクは麻友のような女の幼馴染はいるけれど、本当に恋愛というものは疎いんだよ」

「まあ、そりゃそうよね。あたしたちは幼馴染の関係であって、あたしがあれだけ素振りを見せても、恋愛にまで発展しなかったんだものね」

「ん? どういう意味?」

「あー、もういいわよ。敢えて聞き返さないで……。あたしの心が壊されそうになるから……」

「そ、そうか……。何だかごめん」

「それにしても、本当に雄一は重症ね」

「そんなに!?」

「ええ、もう、恋愛というジャンルに関しては、及第点以下の落ちこぼれって感じね」

「落ちこぼれ……」

「あー、別に成績じゃないんだから、落ち込む必要はないんだけどね。だって、千尋は優一に告白したんでしょ? それに対して答えを出せてないアンタがいるわけよ……。でも、千尋はゆっくりと待つって言っている……て、普通だったら、速攻で別れを告げられちゃうよ?」

「あ、やっぱりそうですか?」

「だって、自分に魅力がないのかもって、落ち込んじゃうじゃない……」


 そ、そうだよなぁ……。ボクは彼女のことを嫌いじゃないし、好きなんだと思う。

 でも、それだけで付き合っていいのかどうか、というのが分からない。

 千尋さんから告白されて以来、一緒に登下校を繰り返していることもあって、周囲からはすでに付き合っているという認識を持たれている。

 とはいえ、その認識だけであって、千尋さんが言う「結婚」というところまでに至れるかどうかが不安なのだ。


「でも、今は普通に付き合っているんだよ?」

「まあ、そうね。告白された当初に比べたら、一緒に歩いている姿も少しずつは様になっている感じがするものね……」


 そう。ボクと千尋さんは付き合い始めてから、一緒に登下校をするようになったのは、さっき言ったとおりだ。

 ただ、最初は千尋さんがテンションが高くて、抱き着いているのが当たり前だったのが、今では学園の優等生らしいお付き合いをしている二人、という感じで登校している。まあ、たまにそこに麻友が乱入してきて、わちゃわちゃしているので、周囲の男たちからは敵意が一方的に向けられたりするのだが……。


「で? 結局、何に悩んでるの?」

「彼女にとって大切な存在になるのはどうすればいいかなって……」

「え? もう大切な存在じゃない」

「ん? どういうこと?」

「だって、優一は彼女の命の源ともいえる血を提供しているわけだし、彼女にとって安寧の地も提供しているわけじゃない」

「ま、まあ、そうなんだけど……。だけど、ボクから何か積極的に彼女にとって役に立つ人間でありたいっていうか……」

「あー、何だか我が侭ねぇ……」

「だから、眷属にして欲しいってお願いしたんだ」

「マジで!? あんた、それ、本気で彼女に言ったの……?」

「え!? そんなに驚くこと?」

「そ、そりゃぁ……ねえ? だって、眷属にさせる行為って言ったら、吸血鬼にとって成人の儀式みたいなものだもの……」

「あ、そうなんだ……。でも、だからってどうして千尋さんが恥ずかしがったんだろう……」

「あ、そういうレベルなんだ……」

「え? 何か言った?」

「いいや、何も…………」


 麻友はボクの反応に少し頭を抱える。

 何だか、ボクが頭の痛い人間に見えるじゃないか……。恋愛偏差値が低いといっても、そこまで痛い人間なのだろうか……。


「はぁ~、仕方ないわね……」


 麻友は頭をポリポリと掻くと、スカートのサイドポケットから白い封筒を取り出す。

 それをボクに向かってグイッと突き出すように渡してくる。


「え? これは何?」

「今のアンタにとって必要なものよ。本当はあたしが優一と二人で行こうかと思っていたんだけど、気が変わったわ。いくら腐れ縁とは言え、千尋が可哀想になってきたし……」


 ボクが封筒を開けると、紙のチケットが2枚と、クレジットカードのような黒いプラスチックカードが1枚入っていた。


「それはあたしのパパからもらったものなの。アヴァン・クリスティン・ホテルって知ってる?」

「ああ、あの複合施設と併設されている高級ホテルでしょ?」

ちょうよ。超高級ホテル! ウチのパパが経営しているホテルなの。そこの宿泊チケットと、複合施設の優待券よ。これで夏休みに入ったら、二人で行ってきなさい。そこでお互いの関係を理解し合って、進展させるのよ?」

「え? いいのか? こんなにいいものをもらって」

「いつも『特濃』を頂いているからそのお礼みたいなものよ。まあ、まずは期末考査を切り抜けることが最優先だけどね」

「ああ、そうだな。ありがとう、麻友」

「いいわよ。これからもちゃんと飲ませてくれればね」


 だから、指で作った輪っかの上下運動は止めてほしい。折角、良い流れなのに、全然締まらないのだから……。

 千尋さんはどんな反応を示してくれるだろうか。

 ここでしっかりとボクは彼女をエスコートしないと……。そう思うと、心拍数の高鳴りが今から止まりそうになかった。

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