第168話 バレンタインデー狂騒曲(12)

 一体、私は何を見せつけられているのだろうか……。

 そう。私、錦田千尋の目の前でこの娘は一体、どうして、このような愚行を及んでいるのだろうか。

 私はそれを考えさせられ続ける。


「ね、ねえ……優一くん、もっともっと…………」

「え、ええ!? これだけじゃあ足りませんか!?」

「あたしのを真っ白になるくらい、掛けてほしいの!」

「で、でも……も、もう……」

「いいのぉ♡ あたしはこれが好きなの♡」

「だ、ダメだよ……こんなに出したら……」

「え~~~~、まだ出せるよね……♡」

「そ、そんな言い方したら、加減が分からなくなるんですよ!」

「ああっ! 優一くんって見た目以上に激しい!」

「ええっ!? だって、もっと出せって……」

「言ったけど、そんなにいっぱい出されちゃうなんて思わなかった♡」

「お前ら何やっとんじゃい!」


 思わず私は怒りの鉄槌をナアムに対して、突き出した。

 勢いよく吹っ飛んでいくナアム。あー、少しだけスッキリした。


「ちょっと! 痛いんですけどぉ!?」

「そりゃ殴りたくもなるわ! 突如、人ン家で夕食をご相伴しようとしているだけでなく、さっきの子芝居は何なのよ!?」


 私が問い詰めると、ナアムは私から殴られた頬をさすりながら、


「えー、お好み焼きにマヨネーズを掛けてもらってるだけだけど?」

「いや、そりゃ見ればわかる……」

「じゃあ、何に不満なわけ?」

「色々とあるわ! マヨネーズくらい変な色声出さずに掛けなさいよ! てか、私の彼氏を勝手に使わないで」


 そう。今日は優一さんの提案で、ナアムに対する歓迎&親交を深める会をすることになったのだ。

 当然、私は学校のこともあるので、乗り気ではなかったのだが、優一さんが仲良くしておいた方がいいよと言われたので、仕方なく会を開くことにした。

 で、麻友も呼んでするならば、お好み焼きパーティーにしようということで、やってみたのだが、そこで起きたのがこの子芝居だ。

 たかがマヨネーズを掛けてもらおうとするだけで、これほどまでにエロく言えるのは、やはり淫夢魔の所業というべきなのだろうか……。

 いや、そればかりか、さっきから何だか、優一さんに対して、距離が近すぎませんか?

 何なら、さっき、マヨネーズを掛けてもらっているとき、胸が優一さんの腕を挟んでませんでした?

 どうして、優一さんはそれを抗おうとしないの?

 え? もしかして、ちょっと気持ちよかったのかなぁ……?


「麻友? ソース掛け過ぎよ」

「はっ! しまった!」

「なんか、千尋らしくないわね」

「うーん。だって、やっぱり目の前であそこまでされちゃうと、何だかムラムラするっていうか……」

「そこはイライラしたり、モヤモヤして欲しかったわね……」

「あー、そうね。そうとも言うわね」

「いや、普通に動揺しすぎじゃない?」

「そんなわけないわよ……」

「いや、十分に動揺しているから、ソースをかけ過ぎたんでしょ?」

「うう………」


 私は半べそをかきそうになってしまう。


「ねえ、やっぱり胸が大きい方がいいのかな?」

「そりゃいいでしょ」

「がぁ————————————んっ!!!」


 私は思わず口に運んでいたはずのお好み焼きを落としそうになってしまう。

 麻友ぅ……。もう少し私をいたわって欲しいんだけどぉ……。

 私はそんな瞳で麻友を見るが、麻友はクピッと麦茶を一口含むと、


「まあ、それにしても凄いよね……優一も」

「何がよぉ……」

「いや、本当に気づいてないの? あれだけ、ナアムに抱き着かれているのに、優一から匂ってこないでしょ?」

「ん? そ、そういえば……」

「アイツなりにアンタのこと考えてくれてるんでしょ。頑張って耐えてるんだと思うわよ、ああ見えて……。でも、ナアムの歓迎会だから、気分を害さないようにもしないといけないから、あの娘のノリにも乗っているって感じでしょうね。本当に根っから優しいやつなんだから」

「……………」


 私はお好み焼きを切り分けて自分の口に運ぶ。

 優一さんの様子を見ながら……。

 優一さんはナアムに優しくしてあげている。でも、ナアムだけではなく、きちんと美優ちゃんに対しても、声を掛けたりしてあげている。

 そうだよね。誰にでも優しい……。

 優一さんの良さってそこでもあるんだよね。

 奪われちゃったって、どうして思っちゃったんだろう……。


「ま、それなら仕方ないっか」

「お。何だか理解しちゃった感じ?」

「うん。まあね。ああいう優しさも優くんのいい場所だって私も知ってるからね」

「そ。まあ、あたしの方が優一とは長い付き合いだからもっと知ってるけどね。てか、優しくしてもらってきたからね」

「ん? どうして、今、良いところなのに、そこで私にマウントを取ろうとするのかしら?」

「あー、まあ、幼馴染の隠れた戦いってやつ?」

「あ! そういえば、あんた、チョコレートでボディコーティングするって話はどうなったの?」

「あれねぇ……。いや、思いのほか熱かったのよ。魔法は使ってみたのよ? でもねぇ、チョコレートって思いのほか、熱いわ……。だから、ちゃんとの手作りチョコレートを上げたの! まあ、でも、朝一でナアムが上げてたみたいだから、私は二番目だったけどね」

「普通……ねぇ……」

「あ! 疑ってるね! 大丈夫よ! 体に悪いものは入れてないわ!」

「もっと怪しいわ! 何か入れたでしょ? むしろ、処方箋付けておいた方がいいんじゃない?」

「あたしのチョコレートは医薬品かよ!」

「医薬品よりも怪しいわよ! 脱法ドラッ●並にね!」

「ふっ! まあ、そう思うなら、あたしの日にだけ食べさせるわよ」

「やっぱり怪しいもの入れてるんじゃない……。で? 何を入れたのよ……」

「ふふふ。あたしの愛液♡」

「何てもん食わせんのよ! このアホ———————っ!!!」


 私は思いっきり、麻友を張り倒したのであった。

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