第169話 バレンタインデー狂騒曲(13)
ナアムの歓迎会は滞りなく終わった……ような気がする。
若干、優一さんとナアムの距離感が近かったのが不満と言えば不満なんだけど……。
静かになった私と優一さんは後片付けをしている。
「優くん、置いておいてくれてもいいんだよ。私がするから」
「いいよ。ちぃちゃんばかりにさせるものでもないしさ。それに今日の企画をしたのはボクなんだから、言い出しっぺは良くないでしょ? はい。お皿」
笑顔でそう答えると、私にリビングの方からお好み焼きを取り分けた皿を持ってきてくれる。
そう。こういう優しいところがいいの!
キュンッ! ってしちゃう!
美優ちゃんは一足先にお風呂に入ってもらっている。
彼女は意外と長風呂(本人曰く、科学的知見などの基づいた考察を落ち着いてできるのは、お風呂なのだそうだ……)なので、いつも先に入ってもらうようにしている。
「今日はボクの我が侭でごめんね」
「あ、いいえ! そんなことないですよ。優くんがいつも、みんなに優しいってのは私も知ってることなので……」
「みんなに優しい……か……」
「違うんですか?」
「うーん。みんなと楽しい時間を過ごしたいとは思うかな」
「あー、そう言われれば、そうかもしれませんね。優くんはいつも周りのみんなも楽しんでいるように思います」
「もちろん、一番一緒にいたいのは、ちぃちゃんだけどね」
「———————♡」
も、もう! 何なの!?
どうして、こう下半身にキュンキュン♡させるようなことを簡単に言えちゃうのかしら……。
それに今の私は、先ほどまでの歓迎会でのナアムの優一さんベタベタ事件(勝手に私が命名)で少しばかり怒ってるんだけど……。
食器やホットプレートも洗い終えると、私たちは先ほどまで賑やかだったリビングのソファに腰を下ろす。
「何だか、こうやってると本当に夫婦みたいだね」
「ゆ、優くん!? そ、その発言は、私でもさすがに………」
「ん? どうしたの?」
目の前には爽やかな笑顔の優一さんがいる。
今日はまだキスをしていない……。だって、麻友とかナアムがいたんだもの……。そんなに気軽にキスをしている姿を見せびらかすつもりはない。
というか、そんな時間すらなかった……。
キスしてもいいよね………?
私は無意識のうちに、優一さんの唇が触れるところまで近づく。
そして、そっと瞳を閉じて、唇が触れ合おうとす————、
「あー、本当にいい湯加減だったよぉ~~~~!」
突如として、美優ちゃんがバスタオルを体に巻いて、お風呂場から出てくる。
そのバスタオルからは溢れんばかりにおっぱいの柔肉が余るところなく見せているかんじがする。
私は慌てつつも、ソファに一緒に置いてあったスマホの画面を見ている素振りをする。
優一さんもソファで伸びをして、誤魔化そうとしている。
ば、バレてないよね……。
「えーっと、もしかして、タイミングミスっちゃったかなぁ~」
そう言うと、美優ちゃんは冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出すと、そのまま自室の方に向かう。
そして、自室に入る直前に、
「ご、ごめんなさい! 千尋お姉さま! あ、あのぉ……このあとはお楽しみください。ちなみにスマホ、逆ですよ……」
と、言うと部屋に引きこもるかのように消えていった。
リビングには何とも言えない静寂に包み込まれる。
た、確かにスマホが逆向いてる……。
私の使っているスマホのリンゴのマークが逆を向いている……。
ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………。どうやらバレていたらしい……。
て、さすがに不穏過ぎたからバレるか……。
「バレていましたね」
「まあ、美優はそういうのに敏感な妹だから……」
「そうなんですね……。まあ、でも、さすがに私がキスをせがんでる姿なんて見たくないでしょうから……」
「うーん。でも、いつもなら我先に奪おうとするのに、今日は大人しかったのは、もしかしたら、ナアムのことで思うところがあったのかもね……」
「そうですよ! 私も正直、イライラしてましたよ」
「あはは……ごめん!」
「べ、別にいいです。あ、そうそう。これ、学校では色々と噂されちゃっていて距離を取ってたんですけど、バレンタインデーのチョコレートです」
「え! ちぃちゃんから貰えるんだね!」
「そりゃそうですよ。私の本命チョコです!」
私は包装した手作りチョコを渡す。
優一さんは、それを開けると、
「あっ! すごいね。手作りなんだ!」
「はい! 麻友ばかりに手作り系を持っていかれるのは嫌だったので、今回はチャレンジしてみました。味はお母様からのお墨付きです」
「そうなんだ! 嬉しいなぁ……。そういえば、麻友もくれたよな……」
「あー、あれは『麻友の日』に食べておいてあげると喜ぶと思います」
うん、それは間違いない。
だって、淫夢魔の愛液とか超高濃度の媚薬だから……。
「じゃあ、早速、一つ頂くね」
「どうぞ」
優一さんはドライフルーツのチョコレート掛けを一つ手に取り、口に運ぶ。
「うん! 美味しい!」
「良かった~」
私はそう言うと、優一さんの肩にもたれかかるようにする。
優一さんの体温が感じ取れる。温かい……。
脈拍の音が聞こえる。ドクドクドクゥッ、て、何だか早くない?
「ちぃちゃん!」
「は、はいっ!?」
急に声を掛けられて、私は驚いて、優一さんの顔を再度見つめる。
ほんのりと優一さんの顔が朱に染まっているような気がする。
「美優も出たことですから、一緒にお風呂に入りませんか? チョコレートのお礼に背中を流します」
「は、はいっ!!!」
私は優一さんの積極的な様子に断れるはずもなく、頷くのであった。
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