第67話 少女たちの密会⑧

「ねえ、私は水着を買いに来たはずなんだけど……」

「いや、こういうのも大事だと思うよ」


 私と麻友はクラスメイトから解放された後、水着の売っているショップに直行するのかと思えば、そうではなく、麻友が直行したのはランジェリーショップだった。

 カラフルな下着が所狭しと並べられている。


「そもそもこういうお店って、あんまりあんた来たことないでしょ?」

「うっ………。あ、あるわよ!」

「はいはい。嘘ね。そもそもあんたが付けてる下着なんて、スポーツブラくらいしか見たことないんだけど」

「あんたって悪趣味ね。私の下着なんか見てるの?」


 私がジト目でにらみつける。


「何言ってるのよ。普通に体育の着替えの時に見えるでしょうが……」

「ま、そうかもしれないけれど、別にスポーツブラで問題なんかなかったんだけど。煩わしさもないし」

「いや、そうかもしれないけれど、今はさすがに宜しくないでしょ!」

「え……? 逆にどうして今、問題なのか分からない……」

「はぁ……。ここまでアホだとは思わなかったわ」

「ムッ! バカにしてるのか?」

「違うわよ。……てまあ、ちょっとはバカにしてるかも。あんたねぇ……考えてもみなさいよ。今、優一と同棲しているわけでしょ? そうしたら、当然、下着姿を見られる瞬間もあるわけよ」

「ええっ!? それはどういったシチュエーションなの?」

「あれ? 想像できないと?」

「ええ。だって、エッチしたいときはお互い準備した状態で対峙するわけじゃない」

「いや、対峙って……。てか、この間の旅行の時はそんな感じだったの?」

「こ、この間は、お風呂上りにそのままだったから………」

「いや、恥ずかしがらないで……。聞いてるこっちが、恥ずかしくなるから……」

「あ、ごめん」


 私は素直に謝る。とはいえ、思い出してしまうと何だか恥ずかしさが込み上げてくる。

 もしかして、あれはあれでエッチな格好だったのだろうか……。

 下着をつけていない寝間着姿……。

 そこで私は、はたと気づいた。

 十分にエロいじゃない! 寝間着に浮かび上がる身体のラインって結構エッチなんじゃない?

 だからかしら、優一さんは私の……胸のあたりを見ていたような……。

 もしかして、おっぱい好きなのかしら。

 いや、それ以上にどうして、それほどまでに見つめられていたのだろうか。

 そこで私はさらに気づく。

 それはスポーツブラの良さであり、同時に女にとっては問題になってくる部分のことに————。

 スポーツブラはどうしても、おっぱいを抑え込んでしまう関係で、おっぱいのサイズがそれほど大きく見えないのである。

 しかし、先日はノーブラ状態で寝間着を着ていたので、自然と私の曲線がそのまま寝間着から浮かび上がってしまう。

 凹凸がくっきりと浮かび上がるということは、同時にそこそこの胸を持っている私のパジャマは当然、胸の部分で布地が持ち上げられてしまうことになる。


「だ、だから、あんなに激しく——————」

「あんたねぇ……。ここは公衆の面前よ。何を想像してるのよ。そんなに腰をクネクネさせてる高校生とかちょっと気持ち悪いんだけど」


 かなり失礼な物言いだ。

 私は別にエロく見られたいから腰をクネクネさせているわけではない。ちょっとばかり、先日のことを思い出してしまい、隷従化した体が反応しただけだ。


「で、でも、下着を彼氏に見せるっていうシチュエーションは何だか不健全な、破廉恥に思えない?」

「あんた、バカぁ? そんな清楚なこと言ってる場合じゃないでしょ」

「いや、普通に学校では清楚可憐で通ってるんだけど?」

「それはあくまで学校の話でしょ? 今は、あんたが優一の前での話よ?」

「いや、それでもおかしいと思うわよ? どうして、下着姿で部屋をうろつくの? 私は露出狂じゃないんだけど?」

「それくらい分かってるわよ。でもね、男っていうのは、女の子の下着一つでも欲情しちゃって、上手くいけば、いい雰囲気でエッチに持ち込めたりするのよ?」

「ど、どうして、下着だけでそんなことが!?」

「あんたはまだ男という生命体に関して、理解度が低すぎるわ」

「ううっ。エッチしたことないあんたに言われるのが、何だか癪に障るんだけど……?」

「はいはい。そんな文句言わないの。男っていうのはね、女の子の下着から、裸を想像して、濃厚な子種を製造してしまえるのよ」

「うわ。もう少し言い方を何とかしようね」


 ランジェリーショップでこんな言葉が出てくる時点で、それはそれで問題なのではないか?

 私はそう思ってしまう。

 しかし、麻友はそんなこと気にもせずに、を続ける。


「そして、その下着から果たして今日はイエスなのか、ノーなのかも訴えてくる」

「そんなに!? それって本当なの?」

「ええ、あたしのママが言ってたから間違いないわ」


 まあ、淫夢魔の女王が言っているのならば、間違いないか……。

 私はなぜか納得してしまう。


「それに、下着のデザインと色から、その日のエッチの激しさも伝える役割を果たしているらしいの」

「下着ひとつでそこまで!?」


 うわぁ……。私の知らない世界が本当に広がっていたのね。

 単に、おっぱいの型崩れを防ぐためのものかと思っていたけど、実は下着というのはそんな役割まで担っていたなんて……。

 わりかし、自分の中ではショックが大きかったんだけど……。

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