第68話 少女たちの密会⑨

 麻友はショックで少し呆けている私の腕を取り、下着売り場をうろうろと連れて回る。

 最初はパステルカラーの商品が並んでいる場所。

 デザインはどれもがフリルがついていて可愛らしい。まあ、清楚可憐という位置づけにある私にとってはピッタリなデザインなんじゃないかしら。

 そう思っていると、そこはサラッとスルーして、その奥の方に行く。

 そこにはスタッフがいて、麻友はそのスタッフに気軽に話しかける。

 何気に彼女のこういった積極的な点に関して私は脱帽する。

 どうして、そこまで積極的に話しかけることができるのか……。

 麻友はその店員を引き連れて、私のもとへとやってくる。


「お、おい……。ここは初めてじゃないのか?」

「誰もそんなこと言ってないでしょ? ここはあたしが下着を購入しているお店なんだから、スタッフさんとも仲がいいの。どこぞの引きこもりさんとは一緒にしないでよね」

「うう………」


 反論できない私がつらい。

 私はあまりこういった場所に出向くことが好きじゃなかったんだ。

 もとより、必要なものは基本的に、家ですべて揃うような場所だったわけだし。なければ、お母様が購入してきてくれる。

 まあ、麻友はお金持ちの令嬢だが、私もそれなりにぬくぬくと育てられたのである。

 だから、外に出向くことなどほとんどなかったのである。

 とはいえ、人を引きこもりのような扱われるのは、何だか違うような気がするんだけど?


「この人は、あたしの下着選びをいつも一緒にしてくれているスタッフさんなの」

「黒木と言います。よろしくお願いします」


 髪の毛がどピンクな明らかに陽キャテイスト漂うスタッフさんで、私は一瞬たじろいでしまう。

 そこに麻友が感づいて、私の背中に手を添える。

 え? 逃げるなってこと!?


「黒木さん、この子、これまでスポブラしか付けたことないの。最近、可愛い彼氏くんができたから、見せることも必要じゃない?」

「まあ! こんなに可愛いのにもったいないわね! 清楚可憐なお人形さんって感じなのに、スポブラなんて勿体ないわ!」


 へぇ~、そうなんだ。下着でそんな風に考えたことなかったよ。

 どうして、彼氏に見せる前提なんだろう?


「こういう子はギャップなんかもいいわよねぇ」


 黒木さんはぺろりと舌を出す。

 いやぁ、エロい視線で私の体を舐め回すの止めて!?


「でもさ、この子、自分のサイズとかも分かってないと思うわけよ」

「もしかして今も?」

「ええ、一応、肩を出せるタイプの服だけど、これはもともとこの服についていたタイプの下着だと思うわ」

「てことは、単体のランジェリーは持ち合わせていないってことかしら?」

「ええ、家とか学校ではスポブラを着ている感じね」

「それはダメね」


 いや、バッサリと切り捨てられているんだけど、私。

 そんなにスポブラはよくないの!? 付け心地いいよ?


「これだけ可愛いのだから、女の武器を生かさないとね!」

「お、女の武器ねぇ……」


 私は訝し気に反応する。

 それってつまり、セックスシンボルと称されるお胸とかってことよね?

 まあ、この間は、優一さんは嬉しそうに揉んだり、吸い付いたりしていたけど、視線を合わせるのが恥ずかしくて、私は手で顔を覆っていたのよねぇ……。

 あとは、まあ、気持ちよかった……、て感じかしら。

 それにしても、優一さんのおっぱいに対する執念のようなものは、本当に凄かったわ。


「じゃあ、あっちの部屋で測ってもらえるかな?」


 麻友がそういうと、黒木さんと私はそのまま彼女たちに導かれるままに、店の裏側のような場所に連れていかれたのであった。

 て、ここスタッフルームか何かじゃないの?

 私は周囲を見渡しながら—————、


「じゃあ、ここで脱いでもらえるかな?」

「はい?」

「いや、カップサイズとか測りたいから脱いでね」


 黒木さんは軽く言うけれど、私は麻友の方をじっと睨みつける。


「麻友に見られたくないです」

「あれ? あたしの所為?」

「あんたに見られると色々と余計なところに、私の機密情報が洩れそう」

「うあ。信用されてないなぁ……」


 そういうと、麻友は「仕方ない」と言いつつ、その部屋から去っていった。

 私がほっと一息ついたも束の間、後ろの方で殺気のようなものを感じる。


「じゃあ、錦田さん、測りますね!」


 黒木さんは顔こそ笑顔だが、どうもエロい物を見たい一心のクソガキのような卑猥な視線を私に向けてくる。


「ちょ、ちょっと待ってくださいよ……」

「いいえ、待てません!」


 私の抗議も虚しく黒木さんの手にいつの間にか用意されたメジャーで胸を測られてしまう。


「うん! これは凄い! 顔は清楚なのに、すっごくエロいの持ってるわね!」

「あんっ♡ ちょ、ちょっと!? メジャーが引っかかってるぅ♡」

「あら、良い感じで鳴くのね?」


 鳴くっておかしくない!?

 何だか、変態の視線がやばい!?


「も、もう測り終えましたよね?」

「ええ、トップとアンダーはきちんと測り終えたわよ。で、あとは~」

「え? まだ何か測るんですか!?」


 私はそっと後ろを振り向くと、そこには黒木さんが私の至近距離にいた。

 あ、これ、ダメなやつかも………?

 私はその瞬間に悟った。貞操の危機というものを感じ取ったのだった。

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