第55話 少女は少年とイケない関係になった。(改)

 ザザーン………、ザザザ————ン…………

 朝から爽やかなプライベートビーチでは、親子連れが波打ち際で海水を掛け合いながら、戯れている。

 うん……。家族だといいけど、これを恋人同士ですると間違いなく、リア充爆発しろという視線が突き刺さるんだろうな……。

 て、昨日、十分に刺さったけどね。

 ボクはそんな海を見つめている。

 もちろん、ホテルから貸し出された水着とメンズ用のラッシュガードを羽織っている。

 日傘を設置して、その下にはビニールシートを敷いてある。

 彼女は準備のためにもう少しあとに来るという。

 女の子はきっと日焼け止めクリームとか色々あって大変なんだろうな……。

 ボクは、そんな気持ちで待つことにした。

 が、案外、彼女は早くやってきてくれた。


「優一さぁ~~~~~ん!」


 ロングの黒髪をツインテールにして、走ってくる。

 白のビキニがまぶしく感じる。たわわな双丘が走るたびに弾むのはよろしくない!

 ボクは思わず彼女の胸に釘付けになってしまう。


「お待たせしましたか?」

「…………………」

「あ、あの……?」


 ボクは不安がる彼女のラッシュガードのファスナーを閉じる。


「たとえ、ここがプライベートビーチだからって言っても、周囲には人がいるんだから、あんまり素肌を見せないでほしいかな……」

「え? あ、そうですね……」


 彼女もその意図が分かったのか、少し恥ずかしそうな表情をする。

 周囲の人たちは彼女に対して、釘付けだったのだから。

 まあ、ボクもその中の一人だったけど、それはボクが彼氏であって、別段問題のない話である。

 それ以上に、周囲の人に彼女の肌をいやらしい視線で見られることが、耐えられなかった。


「横、いいですか?」

「うん」


 ボクの横に彼女がそっと座る。

 その時、ツンッと指が触れ合った。


「「———————!?」」


 ボクらは手をさっとお互いが避けあう。

 いや、どうしてこうなってしまったのか……。

 もちろん、昨日の夜のことが原因なのは分かっている。

 これを初心だな……。ああ、初々しいと感じているボクらの周辺の人々よ……。それは間違っているのである。

 実は、これには深いわけがあるのだ……。


「あ、あの……。体調は大丈夫?」

「ふえっ!? あ、はい……。大丈夫です」


 まあ、体調は大丈夫かもしれないけれど、精神的にはなかなかのダメージを負っているのだろうか……。

 かくいうボクは、心に大きなダメージを負っている。もう、黒歴史として葬り去りたい気分だ……。


「ご、ごめんね……」

「いいえ! 優一さんが謝る必要はないですよ」

「あ、そ、そう……? でも、ああなっちゃったのはボクの所為だよね」

「ま、まあ、それは否定できないんですけれど……」


 千尋さんは顔を真っ赤にして、俯いてしまう。

 昨日、あのあと、第二ラウンドが始まり、なぜか第六ラウンドまでヤってしまったのである。

 ああ、本当に自身の性欲の強さを呪いたい……。

 その時に彼女の体に変化が起きてしまった。

 彼女もボクも想像していなかった変化だった。

 第六ラウンドの最後、お互いの体全身に快感が駆け巡り、彼女はそれを受け止めた。

 で、終わればよかったのだが、彼女の腹部からピンク色の光が溢れだし、見る見るうちに全身を覆い、彼女も茫然としている間に、その光が左手に集中して、天に一本の光が走り抜けたかと思うと、その光は消失した。

 そして、そのあと、手に紋様が浮かび上がった。ピンク色の手のあざのような紋様は、彼女の知るものではなかった。

 こういうのは千尋さんのお父さんよりお母さんの方が詳しいということで、写真を撮って、確認を取ったところ、この紋様は「隷従紋」と呼ばれるらしく、その男性に身をもって尽くす(性的な部分も含む)という意味のものらしい。

 つまり、簡単に言えば、千尋さんはボクが求めればいつでも全身で受け止めてくれるわけだ。

 いやいやいやいやいやいや!?

 それって色々と問題ではないか!?

 ボクは彼女にとって、眷属であり、同時にご主人様にもなったのである。


「昨日は、私も驚いちゃいました。それにお母様から教わったこの紋様についても……」

「だよね……」

「でも、私は嬉しいですよ。私の眷属として優一さんがいて、同時に私のご主人様が優一さんなんですから。むしろ、これは夫婦関係としては健全なのではありませんか?」


 彼女は瞳を爛々と輝かせながら、ボクの方に寄りかかってくる。

 ああっ!? 本当に彼女の谷間が目に毒なんだけど……。

 て、そんなこと考えちゃったら、この海パンでは無防備すぎる!


「あー、でも、どうしましょうかね……」

「ん? 何が?」

「いえ、優一さんの血を私がいただいて、麻友が精液をいただいていたじゃないですか」

「え…あ、うん。そうだね」

「この関係にヒビが入ってしまうかも?」

「そ、それはちょっとまずいんじゃないかな……?」

「いっそのこと、麻友とも契約しちゃいます?」

「ええっ!? 二重に契約はさすがに無理でしょ!?」

「いや、あの、眷属は当然、私と結んだので、もう無理ですよ。他の吸血鬼が現れても、特殊なことが起きない限り、無理です。でも、契約そのものは種族が異なるので、OKだと思います」

「何でもありだね……!?」

「うーん。でも、同居は私以外認めませんからね!」


 彼女はそういうと、ボクの腕に抱き着いてきた。

 そして、いつの間にか開いたラッシュガードから露わとなった豊満な果実でサンドイッチする。


「み、見られるって!?」

「いいんですよ! 見せちゃおうとしているんですから……。て、あら? また、いい香りがしてくる……。昨日、あれだけ私に出したのに、まだお元気なんですね!」

「ち、ちがう! これが千尋さんが無理やり………!?」

「あっちのほうに岩陰があるんですよ? どうです? ヤっちゃいます?」

「千尋さん!? まだ午前中ですよ!? そんなこと容易にできるわけじゃないですか!?」

「あーん! じゃあ、昼からならいいってことですか?」

「どうして、そっちのことしか考えられなくなっているんですか!?」

「だって、隷従化わからされちゃったんですもの。優一さんが脳内でイケないことを考えたら、それがおのずと命令されているかのように、私にも流れ込んでくるんですもの……」

「いやいや、それってボクのプライバシーは!? もう、エッチな本を一人で鑑賞できませんよね!?」

「そんな必要はありませんよ。いつでも、お相手いたしますから。だって、私たち、将来の旦那様とお嫁様なんですから!」


 そういうと、彼女は周囲に客がいるというのに唇を重ねてきた。


「うん、いつキスしても、私は嬉しいですよ」

「そりゃボクだって、千尋さんのことが大好きですから」

「ふえぇっ!?」


 やっぱり彼女は突然の甘い言葉には弱いらしい。でも、そこが可愛い。

 可愛いと言えば、麻友もケラケラといつも笑っていて、可愛らしい。ああ、でもどうやって、今回のことを麻友に説明しよう。

 陰キャで何もできなかったボクがまさか、性欲魔人で千尋さんを隷従化させちゃったなんて、口が裂けても言えないよ……。

 ボクの悩みが一つ解決したと同時に、一つ新たに生まれてしまったのであった。

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