第72話 来訪者は彼女?

 誰か来客だろうか……。

 そもそも夏休みに誰か来るなんてこと自体が珍しいのだが……。

 だって、ボクは友だちもそれほどいない……(少しはいるぞ!)陰キャ生徒で知られている。だから、我が家にわざわざ来るとなると、家族の誰かかな……。

 ボクはぼんやりと考えつつ、インターホンのモニターを見てみる。

 そこには見知った人物が立っていた。


「あれ? どうしたんだろう?」


 モニター越しには、千尋さんの姿があった。

 何やら申し訳なさそうにカメラに向かって、両手を合わせている。


「もしかして、カギを持っていくの忘れたんですか?」

『うん! そうなの! ゴメンよぉ~』

「仕方ありませんね……」


 ボクはそういうと、エントランスへ入る自動ドアのロックを解除する。

 彼女はまもなく、我が家のドアの前に着く。

 ドアを開けると、ふんありと甘い香りが漂ってきた。


「優一さん、ごめんなさい! ドアのカギを持っていくの忘れちゃって……」

「朝はそんなに急いでなかったのに、大事なところでポンコツですね」

「そう言わないでよぉ……」


 何だか突如のポンコツ具合がすさまじい……。

 ボクは先に入り、リビングに合ったものを片付ける。

 さすがに小説を見られても、怒られることはないだろうけれど、あまり彼女に気を遣わせるのも嫌なので。


「あれ? 何かしてた?」

「いえ、ボクは小説読んだりとか、休みを満喫してたって感じです」

「そうなんだ」

「それより、ちぃちゃんはえらく早く帰ってきたね。夕食も食べてくるのかと思った」

「うん……。もともとはそのつもりだったんだけど、やっぱり、あなたのことを思い出しちゃうと……」


 彼女は頬を赤らめつつ、モジモジとする。

 いやぁ、あからさまだけど、やっぱりボクの彼女は可愛い。


「それにしても、色々とお店で買い物をしてきたんですか?」

「え? うん。ほとんど買わなかったよ。今日はウィンドウショッピングって感じかな」

「そうだったんですね? 麻友とは、色々と話もできました?」

「うん! 本当にアイツったらいつも優一さんのモノのことしか考えていないような発言してきて困っちゃうわ」

「あはは……。でも、そこは協定を結んでいるから、おかしなことは怒らないでしょうに……」

「まあ、そうなんだけどぉ……。やっぱり私の優一さんって気持ちはあるしぃ……」


 何これ……。すっごく彼女が甘えてくる件に関して。

 どうしたの? 今日はもう欲求不満が表面化しているってこと?

 いや、でも、何だか積極的すぎるんだけど……。

 おかしいなぁ……。今日のボクはそんなに匂いをもらすようなことを何もしていないんだけどなぁ……。


「ねえ、優一さん? もう少し、近づいてもいいかな……?」

「べ、別に構いませんけど?」

「本当に!? 嬉しい!」


 と、言って彼女はボクに抱き着いてきた。

 むにゅん♡

 飛びつくように抱き着く彼女の双丘は、ボクの胸あたりで大きく柔らかさを伝えてくる。

 ぐはあっ!?!?!?

 思わず血を吐きかけてしまう。

 くそぉっ! くそぉっ! いつも、ボクのがすぐに元気になりやがる!!

 彼女の色気にいつも負けるんだよぉ~!


「あらぁ……」


 あ、やっぱり気づきますよね?

 彼女は目がとろ~んと蕩けたような表情で、舌なめずりをする。

 これは明らかに匂いに感づいている表情。

 というか、今日はどうして、そんなに蕩け堕ちているの?


「ち、ちぃちゃん?」

「もう、すっごく耐えられないんですけれど……」

「だ、ダメです! それにちぃちゃんも汗をかいてるでしょ? まずはシャワーを浴びましょうね!」

「そ、そう? 私、臭う?」

「うーん。何だか、甘ったる~い匂いはしますね……」

「そ、そう……。じゃあ、先にお風呂に入ろうかな」

「そうしてください! あ、バスタオルがボクが持っていきますから」

「はぁ~~~い」


 そういうと、彼女は浴室の方に向かっていった。

 静まり返ったリビングでボクは自分の胸で感じた彼女の双丘の柔らかさに度肝を抜かれていた。

 いや、何だったら、一発ヌかれそうになっていた。

 な、何だか、とてもエロかった……。

 てか、今日、ブラジャー着けてなかったの……?

 ボクは少しだけ邪な考えを脳内によぎりつつも、彼女のためにバスタオルを用意する。

 それにしても、さっきの甘ったるい匂いはすごかったな……。香水なんだろうけれど……。

 普段付けない彼女がつけると、あんな風に見えるんだなぁ……。

 何だか、いつも以上に女という存在を強調していたような感じだった。

 一言でいうなら、本当にエッチだった………。

 バスタオルを届けに行くと、下着が脱ぎ置かれてあった。

 一瞬目を逸らすも、ボクも男の子だから、欲望には抗えない。

 ちらりとそのまま横目で見てしまう。

 黒のパンティーが置かれてあった。そこからはふんわりと先ほどの甘い香りが漂う。


「あ、あの、ちぃちゃん、バスタオルをここに置いておくね」

『はぁ~い』


 反応を見て、ボクはリビングに戻ろうとする。

 その刹那。ガチャリという音がして、ボクの後ろからふわりと湯気を感じ取る。


「優一さん? 一緒に入りませんか?」


 後ろから聞こえる艶めかしい声に、ボクは身震いを覚えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る