第9話 少女の甘い香りにボクはやられそうになる。

 段ボール箱、5箱というのはなかなかボクにとっては重労働のように思える。

 彼女にさすがに段ボールを持たせるわけにもいかず、部屋で段ボールの開封をしてもらうことにした。

 つまり、何が入っているか分からない重たい段ボールを彼女の部屋まで運ぶのは、ボクの役割となった。

 ものすごく軽いものから、ものすごく重いものまで色々とあり、思わずこの若さにしてギックリ腰でにもなるのではないかという心配すらしてしまいかけた。

 最後の最後に重たい段ボールを運んできて、床にゆっくりと下す。

 ゆっくりと下したとしても、ドスンという重低音が床から響き渡る。

 

「これが最後になるね」

「ありがとう! 優一さんって華奢そうに見えて案外、力持ちなんだね」

「まあ、一応、普段から腕立て伏せと腹筋くらいはしてるからね」

「ええっ!? 筋肉付けようとしているの?」

「いや、別にそんな立派なものじゃなくて、単に運動しても息切れしない程度に……という感じかな」

「どうして? 別に問題ないじゃない」

「いや、小学校の時とかクラスの足を引っ張るようなことばかりしてきたから、さすがにこのままじゃなぁ……って思って、中学に入ってから、部活動には積極的に参加してないけれど、筋トレだけは始めたって感じ」

「そうなんだぁ。じゃあ、こうしたら………」


 ギュッ♡

 千尋さんが急に抱き着いてくる。


「え!? ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと!?」

「あ、やっぱり驚いちゃうよね。急に抱きしめちゃうとダメかな……」

「いや、ダメってわけではないですけれど、脈絡が読めない」

「あのね、筋トレしてるって言ってたから、抱きしめたら、男らしさあふれる肉体を肌から感じ取れるかなって」

「それを急にやります!? さすがに驚きますよ!」

「そりゃそうよね。でも、優一さんって本当に着やせしているんですね。華奢な体つきから想像できないくらい、筋肉を感じ取れちゃったかも」


 ボクは突然、抱きしめられたから、千尋さんの柔らかな膨らみを何の躊躇もなく押し付けられたことに驚きしか感じないのだが……。

 てか、すごく柔らかかった……。

 て、ボクは何を考えてるんだよ! まだ、付き合い始めて初日だというのに……。

 それを言うなら、付き合い始めて初日にいきなり抱き着いてくるものなのだろうか……。

 それも何やら、早いような気がしないでもない。

 彼女も今の状況を悟ったのか、ボクを抱きしめていた手をサッと離し、


「ご、ごめんなさい! 何だか、本当に自然の流れみたいな感じで抱き着いちゃった」


 何とも言えない空気が部屋に充満する。

 別に不快ではないものの、どうしたらいいのか、経験則のない空気を。

 さすがに居ても立っても居られなくなり、ボクから動き始めた。


「こ、この段ボールはどこにおけばいいですか?」

「え? あ、その段ボールは洋服類だから、こっちに置いてくれるかしら」

「はい、分かりました」


 段ボールをクローゼット付近に移動させ、振り返ったときに、作業をしていた彼女のお尻とボクのお尻が運悪くヒットしてしまう。


「きゃっ!?」

「うわっ!?」


 どうしてこうなったのか分からない。もしかすると、振り返り際で反動があったのかもしれない。

 ボクは彼女を押し倒したような感じになる。


「ああっ!? ご、ごめんなさい!」

「別にいいよ。そうだなぁ……。キスでもする?」

「い、いや、それはまだ早いです!」

「あれ? そうなの? 優一さんは純粋だなぁ~」


 純粋、と言われればそうかもしれないが、単に経験がない童貞なんです!

 ボクは恥ずかしくなり、視線を逸らす。


「じゃあ、いつになったら、キスしてもいいかなぁ?」

「ぼ、ボクと千尋さんが、ここって時に――――」

「本当に初心なんだから……。いいよ。じゃあ、私は待ってるね。優一さんからキスを求めてもらえるように……」


 ボクは思わず、彼女の見せた柔らかな笑顔にゴクリと唾を飲みこむ。

 柔らかいけれど、何とも艶やかに見えてしまったのが、原因かもしれない。

 このままじゃあ、ボクが襲っているようなじゃないか!?

 変な空気感が再び、部屋を襲ってくる。

 もちろん、ボクが押し倒したような形になっているのだから、避けるならば、ボクだ。

 ボクは飛び退くようにして、彼女の手をとり、起こしてあげる。

 

「ありがとう」


 彼女はふんわりと笑顔で、そういうと、ボクの鼻腔には何だか甘い香りがした。

 シャンプーかコンディショナーの匂いだろうか。

 な、何だか空気に飲まれているような感じがした。

 ボクは目の前にあった、段ボール箱に飛びつく。


「じゃあ、ボクはこっちの段ボールを開けていきますね」

「え? あ、ちょっと待って!?」


 彼女はボクを制止しようとするが、ボクは気にせずに段ボールを開封し、中身を取り出す。


「……え、えっと……これは………」


 ボクが鷲摑みしているのは、黒の下着パンティーだった。

 いや、普通の下着であるならば良かったのかもしれない。ボクの手に今、握りしめられているのは、布地が極端に少なく、スケスケで焦っている千尋さんが見えるほどのもの……。

 あれ? これって下着でナニを隠すって機能を失ってないか……。


「ち、違うの……! それはお姉ちゃんが勝手に入れたの!」

「お姉さんが!?」

「あ、うん。そう! そうなの……。だから、私の普段着ではないの」

「つまり、勝負下着……と?」

「そ、そうよ! て、違ーう! 私が使ったことはないのよ! 本当だから信じて……。ね?」

「あ……うん………」


 ボクはこんな下着をどこで、どのタイミングで使うのだろうか……と純粋に考えてしまう。

 千尋さんはハッと我に返ると、


「ところで、優一さん、そろそろ下着を返してもらえないかしら……」

「え!? あ、ごめん!」


 ボクは黒のスケスケ下着を慌てて、彼女に手渡した。

 彼女はそれをボクから取り上げると、背中のほうに隠すようにして、


「優一さんのエッチ……」


 ボクの心はドキッとさせられて、一瞬、息をすることを忘れてしまいそうになった。

 だって、その時の彼女は、頬を朱に染めて、ボクから少しだけ目線を外しつつ恥じらった表情だったのだから。

 こんなの可愛いに決まっているじゃないか……。

 ボクは彼女のことが早くも好きになりつつあるのかもしれない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る