第51話 少女と父親の会話②
「そ、その……優一さんの香りはいつも媚薬のように来ちゃうんです!」
「千尋ちゃん? その言い方はエッチだと思うよ……パパは……」
「お父様? そういうことをおっしゃるならば、お母様にも仰ってくださいね?」
千尋さんがニコリと微笑んでいるけれど、どう考えても、お母様が凄い人にしか思えなくなっちゃうんだけど!?
「あ、優一さんもお母様のことが気になります? でも、今は知らなくても大丈夫ですよ~。知ると大変なことになりますから……」
「それってボクの体質のこと?」
「もちろんです。今でこそ、私と麻友だけでなんとか維持している状態なんですから……。これ以上、厄介には巻き込まれたくないですよね?」
「あ、麻友ちゃんも絡んじゃってるの?」
「そうよ。でも、お父様、安心してください。麻友はエッチなのが苦手ですので」
「あー……心中をお察しするよ……。あの家庭環境ならね」
「あはは……ウチも大して違いはないような気がしないでもないですけどね」
「こ、こら……千尋ちゃん! ここではそういう話はしないの。家庭にはそれぞれ家庭上の事情ってものがあるんだから……」
お父さんが窘めるが、ボクには果たして、どのような問題があるのかまだ見えてこない。
とにかく、あまり良からぬことがあるということだけは理解できたような気がする。
「それにしても、眷属ねぇ……。このひょろいのが、我が血を絶やさないでくれるというの?」
「お父様? 体の貧相なのは関係ないと思いませんか? 眷属になると、私たちの力を幾分かは利用できるようになるのですから……。それにさすがに人の彼氏をディスるとなると、お父様の命も持ちませんよ?」
そう言いつつ、ふふっと闇の笑みを浮かべている千尋さん。ね、ねえ!? 右手の禍々しい炎は何なの!?
「ち、千尋ちゃん!? あ、安心していいよ! パパはそこを否定しようとしているわけじゃないからね!」
「じゃあ、何が問題なんですの?」
「いや、子どもをたくさん産めるのかなって……」
ボッ!!!
お父さんの言葉に顔を真っ赤にして、再び俯く彼女。
ええっ!? 子だくさんって何の話!?
「あ、あのぉ……それはどういうことで……?」
「え、いや、我々は真祖の吸血鬼だから、下手に血を薄くしていきたくはないわけだよ……。そこで我ら吸血鬼は女の方が力が強いんだよ」
「へえ、そうなんですか」
「うむ。それで、女がこの男の血が濃いと判断したときに、眷属として仲間に取り込むわけだ」
「なるほど。ということはお父さんは千尋さんのお母さんに惚れられたってことですか?」
「うむ。まあ、そういうことになるな。私はどちらかというと体格や力の強さで選ばれたようなものかもしれない。だから、君のような存在が異質に見えたんだよ」
「あはは……。でも、ボクは何が凄いのか分かっていないんですけどね」
「いや、普通に凄いと思うよ。だって、真祖の吸血鬼の娘と淫夢魔の女王の娘に愛されているのだからね」
「へ…………?」
「あれ? 麻友ちゃんが淫夢魔の女王の娘さんで、淫夢魔の嬢王と呼ばれているのを知らなかったのかい?」
「………………」
ボクは目を点にして、首を縦に振る。
そして、そのまま横にいた千尋さんの方に視線を向ける。
千尋さんは、ツゥーッと視線を合わせないように微妙に逸らす。
「ご、ごめん……。不要な情報だと思って、あんまりそういうこと伝えてなかったのよね……」
「いや、かなり重要な情報じゃない!?」
「え、まあ、そうね。確かにそうかもしれない……」
「てことは、今、ボクの周りには、真祖の吸血鬼と淫夢魔のトップがそれぞれいるってこと!?」
「まあ、そういうことね……」
千尋さんは渋々認める。
とはいえ、だから、どうすればいいんだ? ボクにこの状況をどうにかする力なんて何もないような気がするんだけど……。
「そういうわけで、君も頑張りたまえ……。そのうち、麻友ちゃんのお父さんも挨拶に来るんじゃないかな……」
「えっ!?」
いや、来なくていいよ!?
「で、でも、優一さんは私が結婚するんですからね!」
そういって、ボクの腕を引っ張る。
そのまま彼女の双丘に見事に挟まれて、無残にもボクの理性は欠けてしまうのだが……。
あ、ボクのがピョコンッ!って。
「ああっ♡ これですよ、これ! お父様、優一さんは私がこうしてあげると、いい匂いがしてくるんです! 吸えば吸うほど、心の中で何か熱いものが湧き上がってくる。とてもいい香り……」
「うん……。やっぱり、雄にしては不快な匂いにしか感じないな……。でも、きっとこの濃さが千尋ちゃんの心を引くんだろうね」
「はぁ~い♡」
目をとろっとろに蕩けさせて、まるでマタタビを嗅がせた猫のようにボクの体に千尋さんは擦り付けてくる。
ああっ!? そのたびに千尋さんの柔らか凶器がさらにボクの理性を刺激してくるんだけど!?
「ね、ねえ、そういうの、パパのいないところでやってくれないかな……」
お父さんは若干、ゲンナリとしつつ、そう漏らした。
「と、とにかく、優一くん? 千尋ちゃんを悲しませたら、許さないからね……」
「あ、はい……。わかりました。ってじゃあ、眷属の件は!?」
「まあ、認めるよ。とにかく、娘のことを頼むよ。これからという長い部分と今のこの状況をね……」
「え?」
そういうと、お父さんはそのままレジでボクらの分の会計まで済ませて、従者とともに店を後にしていった。
そこに残されたのは…………、
「ゆ・う・い・ち・さ・ん♡ 今日は一段と香りが濃いですねぇ……。もう、私のここ、大変なことになっているんですけどぉ……」
千尋さんは甘えた表情でボクの顔を覗き込んでくる。
そんな彼女の胸の鼓動が高まっているのが、抱きしめられている腕から伝わってきた。
いや、ボクもこのままじゃあ、本当にやばいんだけど……!?
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