第52話 ボクの香りに彼女は正直。
「本っ当にごめんなさい!」
千尋さんはボクに対して、深くお辞儀する。
あのあと、店員さんから見えそうな状況下で、彼女は湧き上がる感情をおさえるために、机の下では一つの戦いが繰り広げられた。
みなまで言わせないでほしいが、彼女の気分の高揚を抑えるために、卑猥に湿った部分を刺激しての気持ちの解放………。ああっ!? 表現を変えてうまく隠そうとすると、むしろ卑猥に聞こえてしまう!!
て、卑猥なことをしてしまったんだけどね……。
とはいえ、解放後は彼女はいつも通りに戻り、おかげでランチのイタリアンは完食に至った。
いや、よくよく考えると、彼女は恥ずかしがっていたから、公衆の面前で何てことをしたんだという気持ちの方が上回っていたのだろう。
まあ、それを言うならば、ボクも同じ気持ちだ……。
そ、その……彼女の熟れたところの柔らかさと温もりは………て、そんなことを想像したら、また————。
「あれ? また、優一さん、何かエッチなこと考えています?」
「千尋さんが原因ですよね!?」
「わ、私は……優一さんとイチャイチャしたかっただけです……。でも、優一さんと密着すると、優一さんの香りがすっごく刺激的になって、私を狂わせようとしてくるんです!」
「うん……。理性、頑張るよ……」
とどのつまり、ボクが理性で封じ込めるしかないということか……。
ボクらはイタリアンの店を出ると、ぶらりとモールストリートを歩く。
千尋さんにとっては、あまりこういったお店を見たことがないらしく、落ち着くなくあれやこれやと覗いている。
「でも、すごいですよね……」
「ん? 何が?」
「あのお父様と話ができるなんて……」
「そ、そう?」
「はい。お父様は私には優しいのですが、親バカなところがありまして、どうしても私のことになると自我が保てなくなることがあるのです」
「あー、なるほどね……。なんとなくわかるよ」
一人娘を大事にする親バカ、か。
まあ、分からなくはない。それにこれほどまでに可愛らしい娘なのだ。
当然、眷属の相手というのは、どこの馬の骨でもいいわけではないだろう。
それは、お父さんが仰っていた通り、真祖の血を継いでいくもの……、ということと同時に、愛娘がどんな男と眷属として繋がるのか、ということも大きく関係していることだろう。
ボクはお父様からかなりの圧を受けていたらしい。
しかし、ボクにはあまり、それを感じることがなかった。
千尋さんが言うには、ボクの血液や体液に含まれる、濃厚な魔力の所為なのではないか、と言っているけれど、ボクはそもそも魔力を持っていたという自覚もないし、それをどうこうしたということもない。
ただ、彼女の言うボクから漂う香りというのは、その魔力が微量ながらも漏れているものらしいのだ。
そんなもの、制御の仕方も分からないから気をつけようにもどうしようもない。
とにかく、その魔力のおかげでお父さんから受けていた“圧”にも耐えていたらしい。
「そんなお父様に認められた優一さんは本当にさすがです! 私にとって、最高の旦那様です!」
「え? あ、はい……」
ボクはその言葉に照れて、少し俯く。
そもそも、ボクらはまだ結婚すらしていないのに、突然の旦那様だ。
いや、まあ、ここでご主人様といわれる方が問題かもしれないけれど、旦那様もさすがにちょっと……という感じである。
「私、本当に嬉しいんです。お父様に優一さんを認めてもらえる自信があまりなかったんです。お父様は私に対してお優しい方ですけれど、眷属候補に関しては本当に厳しかったので……」
「圧を与えるってこと?」
「まあ、あの圧程度で済めばいいんですけれど、少しでも気に入らなかったら、とことん攻撃するタイプなので」
「げっ!?」
それはそれはボクに対して、そういう気持ちを持たれないようにしておいてよかった……。
てか、ボクは実質何もしてなかったから、なんとなくボクが無害そうに見えたのが良かったってことなのかな……?
「だからこそ、お父様に認められた優一さんはさすがです」
「いや、本当にボクは何もしてないって……。本当に普通に話をしただけじゃないか」
「それに、優一さんの香りについても少しわかりましたから」
「ボクの香り?」
「ええ、お父様が言ってたではありませんか。優一さんの香りは、私にとっては最高の匂いなんですけれど、お父様にとっては不快感の高まる香りだ、と」
ああ、確かにそんなこと言ってたなぁ……。
それってどういうことなのか、あまり意味が分からなかったのだけれど。
「つまり、優一さんの香りは私たち女性には届くけれども、男性にとっては不快なもので排除、もしくは近づかないでおこうというものになるみたいですね」
「え……。ボクって人間だよね?」
「ええ、決して、インキュバスとかではないですよ」
「じゃあ、どうしてそんな体質をしてるんだろう……?」
「それは私にはわかりません。でも、こうやって運命的な出会いは存在するんですね。優一さんは、私と出会うために生まれていらっしゃったんですよ!」
「ええ? それは何だか大袈裟じゃない?」
「そんなことありません。この私が保証しますよ」
彼女はニコリと微笑むと、ボクの耳元に顔を近づけ、
「今日の夜は、よろしくお願いしますね♡」
ボクはぞくりと体が震えあがると同時に、なぜか性的にも反応してしまった。
すると、彼女はふふっと微笑み、
「やっぱりいい香りがしますね。優一さんは♡」
その微笑みは、悪魔の微笑みなのか、それとも美少女の微笑みなのか……。
ボクにはその場ではすぐにわからなかった。
ただ、彼女が可愛いとだけ、心が反応してしまった。
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