第15話 朝から少女は騙される。

 ボクが朝、目を覚ますと、一緒に寝ていたはずの彼女の姿はなかった。

 それだけで不安になってしまう。

 それがなぜかは分からないのだけれど………。


「彼女はどこかに行ってしまったんだろうか……」


 もしかして、本性を明かしたから家に帰ってしまった?

 それとも、ボクにバレてしまったから、世界から消されてしまった?

 静かな部屋のベッドの上で、ボクは言いようのない焦燥感に襲われる。

 ボクはベッドから飛び降りるように、そのままリビングへ続く扉をスライドさせる。


「あら? おはようございます。まだ、5時半なのに、お早い起床ですね」


 キッチンの方から知っている声がする。ボクはそれだけで安心してしまう。

 何だか、肩の露出が高いような気がしてならないけれど……。


「もうすぐ朝食が出来上がるので、着替えてからもう一度来てくださいね」


 彼女が最高の微笑みをボクに投げかけてくれる。

 何だか、安心した。昨日の強気の少女は、きっと何かの間違いなのではないか……とさえ思わされる。


「考え過ぎだったかな……」


 ボクは自身の部屋に戻り、学生服に身を包み、再び、リビングへの扉を開いた。


「さあ、朝ご飯が出来ましたよ! 一緒に食べましょ!」


 ライニングテーブルの上には、白いご飯とスクランブルエッグ、炙りベーコン、サラダ、そして味噌汁が用意されていた。

 そして、彼女の明るく最高の笑顔が飛び込んでくる。

 本来ならば、ここでボクは「彼女ができて最高!」とか心の中で感じるはずだったのだろう……。服装が普通であれば……………。


「……あ、あのぉ……その服装は?」

「あら? もしかして、お気に召していただけました?」


 いや、お気に召すとかそういう問題じゃなくて、高校生同士の清々しい朝に、この服装はボクのがお盛んに反応してしまいそうなのだけれど!?


「そ、その服装って………」


 ボクはおずおずと視線を少し逸らしながら、話を進める。

 だって、彼女の服装は、服としてはあまりにも肌の露出が多すぎる……というか、一枚しかつけていないというか……。


「これは裸エプロンと言って、最愛の人の前でしてあげると、聞いたんですけれど!」

「……は、はぁ……」


 ボクは微妙な反応をしてしまう。

 いや、ここで「グヘヘ! そうなんだよぉ~!」なんて言ったら、付き合い始めて二日目にして破局が待ち構えているのではないかと、一瞬考えちゃったんだもの!

 しかし、ボクの反応はどうやら間違えだったらしい……。

 千尋さんが不安そうにボクの顔を見つめつつ、キッチンからボクの目の前に来る。

 ああっ!? 歩くたびにお胸を支えている布切れ一枚が揺れる! 揺れる!!

 千尋さんのお胸はEカップ(偶然見つけたブラジャーで確認済み)なのだが、拘束具ブラジャーがないだけで、この破壊力…………。


「この服装はダメでしたか?」


 千尋さんは黒髪をさらりと耳にかけながら、前かがみでボクのほうを見てくる。

 あうぅ!?

 重力に耐え切れず、エプロンという薄い布切れとともにふくよかな果実が、再び揺れる!

 エプロンの隙間から、谷間がガッツリと性欲を刺激してくる。もう少しのところで、ピンクのさくらんぼが見えそうになるが、さすが見えそうで見えない。

 ボクは思わずゴクリと唾を飲みこんでしまう。


「千尋さん? この衣装はどなたから?」

「えっと、麻友ですよ。麻友はこういうコスプレというのですか? そのための衣装をいくつも持っているらしくて、この衣装が最適だと言われて渡されました」


 ニコリと微笑むその表情は、麻友の嘘を見抜けていない清純な顔だった。

 まったく、麻友のヤツは一体、何を企んでいるのやら!


「そ、そのですね……。この衣装は、ごにょごにょ…………」


 ボクは素直に持てる知識をフル活用して、裸エプロンとは何か? どういうときに使うのか? どういう意味・意義を持っているのか? を説明した。

 説明が進むと、「ええっ!?」と驚愕の声を上げつつ、少しずつ絹のような白い肌が朱に染まっていくのが分かる。

 どうやら、本当に純粋なお嬢様らしい。

 麻友は自分がエッチなことは嫌なくせに、人に対しては普通にそれをしでかすとか本当に意地悪な淫夢魔サキュバスだな……。

 すべてを説明終えたとき、彼女の顔はリンゴのように耳まで真っ赤になり、恥ずかしさがさらに乗っかかったのだろう、少し瞳の端には涙が込み上げてきていた。


「も、もう! 麻友ったらぁ~~~~~~~~~~~~!!!」

「まあまあ、ぼ、ボクもまさかこの衣装で朝ご飯を作っているとは思いもしませんでしたから」

「わ、私ってば、そんなに失礼なことを!? あ、あのぉ! 私のことを嫌いになられましたか?」


 彼女はボクに必死に訴えようとしてくる。自分は無実である、と。

 それはボクもよくわかる。どうやら、麻友に騙されて、ボクに喜んでもらおうという純粋な気持ちでこの衣装を着てくれたのだから……。

 少しは恥じらってほしかったけどね………。


「ボクは大丈夫です。このくらいで千尋さんのことを嫌うわけないじゃないですか」

「ほ、本当ですか?」

「本当です。千尋さんはボクに、色んな千尋さんを見せてくれるんですよね?」

「は、はい………」

「じゃあ、これも千尋さんとボクとの思い出のひとつとして記憶しておきます」

「ダメです……。恥ずかしですから」

「ま、まあ、確かにボクにもかなり刺激が強すぎますけどね……」

「そ、そうですよね……。こ、この服装は、できれば夜にご一緒する際に着るようにします」


 いやいやいやいやいや!!!

 夜にこんなの着て寝るとか、絶対に着てないのと一緒だからね!

 寝返りをうつだけで、間違いなくポロリ確定だよ!?


「ね、寝るときは寝間着がいいと思いますよ」

「じゃあ、勝負服として置いておきます」


 うわぁ…………。出来れば捨てておいてほしい。捨てなくても、厳重なカギのかかる場所に保管しておいてほしい。もう、誰も触れないように………。


「エプロンをどうするかは、千尋さんにお任せします。そ、それよりも、朝食を食べないと間に合いませんよ!」

「あ、そうですね!」


 彼女はそう言うと、くるりと振り返り、キッチンのほうへ向かう。

 と、ボクの視線の前には、白く滑らかな曲線を描く背中、そしてそこから続くふっくらとしたお尻………………。

 どうやら、麻友の言いつけに完全にしたがったのか、千尋さんは完全に下着を着けずに、エプロンを装着したようである……。

 ボクは最後の最後でノックダウンされて、床に倒れ伏した………。

 バタンッ!!!


「ええっ!? 優一さん! 優一さん!? 大丈夫ですか!?」

「……う~ん……、刺激が強すぎるよぉ………」


 彼女が本当に心配してくれているのは分かる。けれども、ボクを揺り動かすたびに、ボクの至近距離の何かも揺れ動いて、さらにボクの理性を削り取っていったのだった。

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