第156話 しっぽりと吸い取られたボク。

 ボクが目を開くと、今後は勝手知りたる天井だった。

 だって、自分の部屋の天井なのだから。

 体を起こそうとすると、腰に違和感を感じてしまい、起き上がることができない。

 こういう時はゆっくりとしておいた方がいい。


「知ってる天井だ……」

「んん……。あっ! お兄ちゃん! 目が覚めたのね! 良かったぁ~」

「あ、ああ、美優……。ずっとここにいてくれたのか……?」

「えっ!? あ、う、うん……。ま、まあね……」


 何だか、美優の返事の歯切れが悪い。

 はて、何か起こったのだろうか。

 ま、まさか!? 千代さんとの戦いで千尋さんや麻友が深手を負ったのか!?


「み、美優!? ちぃちゃんは? 麻友はどうしたんだ!?」


 ボクは首だけを動かして、美優を問い詰める。

 美優はバツが悪そうに眼を閉じて、一呼吸置く。

 そして、ゆっくりと目を開けて、おもむろに言い始めた。


「お、お兄ちゃん……。落ち着いて聞いてほしいんだけど……」


 やっぱり何かあったのだろうか!?

 くそっ! ボクが弱いばかりに————。


「千尋お姉さまと麻友ちゃんは今ちょっと動けない状況なんだ……」

「やっぱり重傷を!?」

「えっ!? あ、まあ、ある意味重症かもしれないけれど……」

「くそっ! やっぱりボクが弱かったから……」

「えっ!? いやっ! お兄ちゃんは十分強いと思うよ~! イッツァ ストローング!」


 いやいや、冗談を言っている場合ではないだろうが……。

 どうしてそんなに冷静でいられるんだよ!


「今、ちぃちゃんと麻友はどこなんだよ!? 病院か!?」

「い、いや、今、家にいるよ」

「じゃあ、どうして会えないんだよ!」

「いやぁ……、たぶん元気ならば会えると思うんだけど、今、少し意識が飛んでてね」

「そんな………」

「あのぉ……やっぱりお兄ちゃんって、倒れてからの記憶がなかったりする?」


 美優がボクの顔を覗き込むように言ってくる。

 ボクは「うん」と一言頷き返した。

 すると、美優は「はぁ~」と重たいため息を一つ付いた。


「えっとね、千尋お姉さまと麻友ちゃんは元気なんだけど、今は意識が飛んでるの」

「だから、なんで……!?」


 美優はボクの体を起こしてくれる。

 腰に疲労感があって、起き上がるのが辛い。

 が、目に飛び込んできた情報に無言となった。


「えっと~、言いにくいんだけど、今、意識が飛んじゃってるのはお兄ちゃんの所為なんだって……」

「…………嘘だろ………」

「いや、本当……」


 目の前のカーペットの上に横たわっている裸体の美少女二人。

 それは紛れもなく、千尋さんと麻友だった。


「お兄ちゃん、千代さんの母乳を飲んじゃったでしょ? あれの所為で、その……精力が爆発的な状態でね……。吐き出さないといけないからってことで、麻友ちゃんが『口』でしてくれたんだけど、あまりの激しさに顎が外れちゃってね……」


 ボクが麻友の方に視線を送ると、確かに力なく口が開いたままの状態になっている。

 いや、それだけであんな白目を剥いた状態になるだろうか……。

 その横には千尋さんが倒れている。


「あー、千尋さんはね……。お兄ちゃんを全て受け止めるって言ったんだけど、お兄ちゃんがケダモノ化しちゃっていて、何度も何度も……攻め立てられちゃっているうちに、メス堕ちしちゃったの」


 だから、千尋さんは頬を朱に染めた状態で、ぴくぴくと痙攣しているのか。


「ま、まあ、そのあと、倒れてる麻友ちゃんに追い打ちをかけるように、突きまくって吐き出すだけ吐き出して、倒れたというわけだよ……」

「何だか、自分のことながら、怖いな……」

「まあ、あたし的にはあたしだけしてもらえなくて、ちょっとショックだったってことかな」


 と、言いつつ、腕を組む。ばるんっ! とお胸が躍る。

 それだけでも青年男子の股間には不健全な行為だ。


「まあ、そのうち起きると思うし、あと、出来ちゃいましたってならないように、もうアフターピルは強制的に飲ませてあるから」

「そこは感謝していいところなんだよな……」

「まあ、千尋お姉さまと麻友ちゃんは嫌がるでしょうけどね。今回の件で、より一層赤ちゃん欲しがっていたし」

「あっ! 赤ちゃんと言えば、あの赤ん坊も含めて、どうなったんだ?」


 ボクは思い出したように美優に問う。

 美優はボクのデスクチェアを引っ張ってきて、そこに座る。

 

「じゃあ、説明してあげるね」


 美優はボクが倒れた後のことを話してくれた。

 千代さんには、麻友が千尋さんのバッグの中にあったもうひとつのキューブを投げつけたところ、エロスライム(美優談)が千代さんの全身を覆い、淫夢魔である千代さんがあり得ないくらいにイかされたらしい。

 すると、憑りついていた悪霊が離れたかのように、そこには淫夢魔の気配すら消えてしまった千代さんがいたらしい。

 どういう原理かは分からないが、淫夢魔と吸血鬼が分離したのではないかと、千尋さんは言っていたらしい。

 吸血鬼に戻った千代さんは意識を失い、タイミングよく現れた千尋さんのお父さん(毅さん)が連れ戻ったらしい。

 で、そのあとはボクの処理をどうするか、という話題になったらしい。

 実験場では、再び捕縛される可能性があったので、ひとまず家に戻ることにしたらしい。

 が、そこで待っていたのは、ケダモノ状態のボクだった、と。

 で、結果がこの状況を生んだのだ。


「ま、二人とも幸せそうなアヘ顔しながら、派手にイキ散らかしていたから……」

「いや、そういう問題なのか?」

「そういう問題でしょ。あの二人にとってはさ……」

「そういうもんかね……」

「あ、ちなみに赤ん坊はね、家に帰ってきたら、すでに別次元の世界に戻っていたみたい」

「そ、そうなのか?」

「うん。もう一人の千尋お姉さまが手紙を置いてくれていたの。なんでも私たちのおかげで別次元の世界も少し変化が生まれたんだって」

「そうか……。本当に良かった」

「でね……。お兄ちゃん………」

「ん?」


 すべてを説明し終えた妹の様子がおかしい。

 何やら吐息が荒くなっている。


「お、おまえ……もしかして……」

「お兄ちゃん……。あたしも週一の精気をもらってないんだよねぇ……。それでさぁ、お兄ちゃん助けるために色々と大変だったの……」


 いつの間にか、妹はボクの背中の支えをなくし、そのままボクは再びベッドに戻される。

 いつの間にか妹は胸元のボタンをプチプチと外す。

 勢いよくぷるるんっ! とお胸がボクの目の前に飛び出してくる。

 妹のくせにこの破壊力っ!!


「いただきまぁ~~~~~す♡」


 妹はニタァと微笑みながら、ボクに馬乗りになり—————。


「っあぁぁぁぁ———————————っ!!!」


 もう出ない状況になっているはずの精気をしっぽりと吸い取られたのだった。

 お、お願い……もう、魂が抜けそうなんだけど…………。

 こうして、ボクの誘拐事件から始まった一連の騒動は幕を下ろしたのである……。

 たぶん。

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