第193話 幼馴染からの突然の提案。

 ボクはある日の夜、恋人……というかもう子どももいるので、式は挙げていないまでも奥様・千尋さんの前で幼馴染の麻友から、


「ねえ、優一~。エッチしない」


 ガタッ!!!


 夕食の後片付けをしていた千尋さんはさすがに動揺して、ダイニングテーブルがガタつく。

 ボクはすぐさま千尋さんの表情を確認する。

 笑顔を保っているようだが,内心笑っているようには思えない。

 そんなオーラすら感じるのだから。


「ま、麻友!? 何を言ってるんだよ……」


 ボクはあくまで平静を装いながら接する。


「いつも通り、週1でボクの……あ、アレを飲ませてあげてるじゃないか」

「うん。そうだよねぇ。でも、あたしが言っているのは、精液じゃなくて、本番の方をしないかい? ってお誘いなわけ」


 パリ———ンッ!!!


 シンクの方に食器を洗いに行った千尋さんの手元からお皿が落ちてしまい盛大に割れる音がする。

 表情はなぜか目元が見えなくなっていて分からない。

 でも、怒っているのは間違いないと思う。

 そりゃそうだろう。自分の大事な旦那様(自分で言うと何だか恥ずかしい……)を本人曰く、麻友に貸し出しているという状態なのであって、その貸し出している理由が、麻友が生きていくための栄養分として必要なボクの精気を吸収するというものだ。

 それがどうしていきなりエッチにつながるのだろうか……。


「えっと、エッチというのは?」

「いや、あんたたち普段からしてるじゃない? 妊娠しても性欲って衰えないのが凄いと思うわ」

「ま、麻友っ!? 私は性欲からしてるだけじゃないから!」


 動揺しつつも洗い物をし始めているはずの千尋さんが抗議の声を上げる。

 …………………そうだったんだ。

 いやぁ、ボクは千尋さんが妊娠したことによって落ち着くと言われる性欲が、吸血鬼という常人ではないことから、むしろ逆に性欲が増しているのかと思っていた。


「はぁ? 性欲からじゃない? じゃあ、あなたたちの最近のエッチのし始め方を思い出してみなさいよ」

「……お、思い出さなくてもいいの!」


 奥様はそういうが、ボクはつい最近……、昨日の夜のことを思い出す。





 寝室に行くと、そこには窓からカーテン越しに入ってくる月明かりに照らされる白い絹のような美しい身体があった。

 ボクは一瞬目を逸らそうかと思ったが、本能がそうはしてくれなかった。

 彼女は吸血鬼にもかかわらず、ボクはまるで淫夢魔に誘惑の術でもかけられたように、彼女の体を見入ってしまった。


「んふふ。旦那様のエッチ♡」


 ボクは何も言い返せないまま、ベッドに近づく。

 その時には、ボクの来ていたはずの寝間着はいつのまにか、床に点々と脱ぎ捨てられていた。

 ベッドに入る前にボクは少しかがんで、彼女の唇と重ねる。

 すると、彼女はさらに体液を求めるようにボクを両腕で引き寄せ、舌を絡めてくる。


 ちゅぱ、ちゅぱ、ちゅる………


 寝室にいやらしい音が響く。

 むろん誰もいない。いや、隣には妹の美優が寝ている。

 が、部屋にはきっと阻害魔法をかけてくれているはずだ。いつもそうだから。


「……んふっ♡ んふんっ♡」


 千尋さんは貪るように、求めるようにボクの口内から唾液を舐めとる。

 ボクの舌に吸い付き、ちゅぽんっ! とエッチな音と同時に唇が離れる。

 キスだけでもこの状況だ。

 千尋さんは妊娠してから、さらにエッチになった。

 まず、妊娠したことにより、エッチな体になった。

 膨らんでいるお腹は阻害魔法で周囲には気づかれないようにしているが、胸だけはそのままにしている。

 彼女にとってそこまで胸はコンプレックスだったというわけだ。

 少しずつ大きくなる胸を見つめつつ、「ふふふっ。アレをこうしてアレさせることができる……」と不敵な笑みを浮かべながら、何かを妄想している姿をボクは口が裂けても彼女に話し出したりはしない。

 それは間違いなく、自分から罠に飛び込んでいくようなものだと思えたから。


「ねえ、大洪水なの………」


 彼女はボクの手を下腹部に誘う。

 そこはぬるりとした粘液でボクの指を絡めてくる。

 そ、そんなの耳元で言われて、実際の状況確認ができてしまって、落ち着いていられるわけがない。

 ボクは犬の如く、上下左右に舌を動かした。

 そのたびに、彼女は小刻みに痙攣しつつ、気持ちよさそうに吐息を漏らす。

 ピクンピクンッと腰が跳ね上がり、それを合図にボクと彼女はひとつになる。

 もちろん、最初のような絡み合うキスをしながら————。





 と、いう思い出しをしていると、目の前で、千尋さんの艶めかしい声が聞こえてくる。

 ボクはギョッとして、麻友の方を見ると、スマホの画面に、千尋さんとボクとの一部始終がバッチリと綺麗な画像で録画されている。

 こ、これは流出したらまずいヤツでは……?


「ちょ、ちょっと麻友!? 何、録画しているのよ!?」

「何って、美優ちゃんに頼まれたから、あなたたちの動向を一部始終記録しているの。そこで見つけたのがこの動画……。ねえ、千尋? あんた、妊娠してからも勉強は常にトップを取っているけれど、精神的に弱くなってない? 何だか、すぐに優一を求めるようになってきている感じがするし、それに優一のことになると、一気にIQが激下がりしているような気がするんだけれど……」


 そう淡々と言われると何だか、恥ずかしい……。

 ボクは視線を彼女に移すと、千尋さんも耳まで真っ赤になった顔を両手で覆っていた。

 ………て、どういうこと?

 千尋さんはエッチになったんじゃなくて、精神的に弱くなっているって………?

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