第128話 彼女は実は求めていた!?

「それにしても災難だったわね」

「ん? 何のことだ?」


 麻友が当たり前のようにボクの家で食卓を囲んでいる。

 何とも人気すら感じなかったリビングダイニングには、今やボクの他に最近人妻な妖艶さを身に着けてしまった彼女の千尋さん、食事をご相伴しにくる幼馴染の麻友、そして、すでに難易度MAXの入試を悠々と突破してしまった爆乳妹の美優が当たり前のように食事を取っている。

 いやはや、本当に人生というのはどう変化するのは予測不可能なものだ。


「いやいや、なんか、感覚マヒしてきてるんじゃないの? 今日、美優ちゃんが学校に来たんでしょ?」

「え? ああ、そのことか……」

「なんか淡白な反応ね……。本当に大丈夫?」

「いや、もう、最近は何が起きても驚かなくなってきてしまってるかも……」

「それはそれでヤバイんだけどね……」


 いや、普通に今、ボクが置かれている状況の方がおかしいと思わないのかね? この状況下のある意味張本人の一人でもあるのに……。

 改めて言うけど、彼女の千尋さんは始祖の吸血鬼の娘だ。幼馴染の麻友は淫夢魔で、美優は千尋さんに噛まれたことから半吸血鬼ハーフ・ヴァンパイアだったりする。

 この状況下で何を常識と考えるかなんて、もう不可能なのではないだろうか。


「てか、話を戻すけど、ジュニアを連れてきたんだって? 何だか、噂になっていたわよ」

「まあ、そうだろうなぁ……。なにせ、美優が連れてきたんだから……」

「ちょちょちょちょっ!? お兄ちゃん! まるであたしがトラブルメーカーのように言わないでよ」

「とはいえ、美優ちゃんの美貌はさすがに目立つわね」


 麻友が食後のコーヒーを飲みながら、首を横に振る。

 まあ、確かにこのボディならなぁ……。


「その胸の大きさが全校生徒の注目の的なのよ?」

「うわぁ……。言い方がエロい……。確か、あたしの通う学校って、進学校だって思ってたんだけど」

「いや、まあ、それは間違いない。全国有数の進学校ではあるね」

「そうね。そこのところは間違いないけれど、みんな人間なのよ? セックスシンボルを見せつけられたら、理性も吹き飛びそうになるでしょ……」

「別に脱いだわけじゃありません!」

「でも、走ってきたんだから、弾んでいたはずよ」

「あー、それはちょっと引きちぎれるかと思いました」


 その発言に、千尋さんと麻友の周辺の空気がピシリと音を立てて凍り付く。

 あー、まあ、何だか察したけど、敢えて何も言わないでおこう。

 そんな彼女はジュニアに授乳中でリビングのソファに体を預けるように座っている。

 この姿勢が一番楽なのだそうだ。


「でも、あれはナイスジャッジだと思ったんだけどなぁ……」

「ええ、そうですね。私もちょうど母乳で胸が張っていたので、ジュニアに飲んでもらえて少し安心したんですから」

「ほらね!」


 どうしてそこで胸を張る。

 いや、勢いでバルンッ! と弾んでるんだけど……。

 ダメでしょ? ボク、男の子だよ? 下半身が反応しちゃうでしょ?


「とはいえ、美優ちゃんのほうに男どもは目がいっていたから、ジュニアをあんまり見てなかったみたいだけど、女の子たちはちゃんと見てたみたいね」

「うわ。めざといね」

「まあ、女の子は美優ちゃんのおっぱいは敵でしかないから」

「ちょっと!? あたしの胸を何だと思ってるんですか!?」

「「全ての女の敵!」」

「……ひどぃ……」


 どうしてそこは千尋さんと麻友の声がぴったりと合うんだろう。

 まあ、今は母乳が出るからか、千尋さんの胸も普段よりも大きくなっていて、少し喜んでいたみたいだけど……。


「て、また話が反れてるんですけど!?」

「ははは。まさか美優に突っ込まれるとは……」

「で、麻友? どんな噂が立っているんですか?」

「もちろん、その赤ちゃんのお父さんとお母さんは誰かってことよ」

「あー、やはりそうですか……」

「まあ、美優ちゃんが連れてきちゃったから、優一に何かしら関係のある人物、もしくは当人とまで言われているわね」

「何とそこまで!?」


 ボクが驚いて引いてしまうと、麻友はひとつため息をついて、


「当たり前でしょ。女の子はどっちかというとそういう噂話が好きなんだから」

「で、どんな話になっているの?」

「まあ、さすがに美優ちゃんが女子中学生だっていうことは分かっていたみたいだから、美優ちゃんの子どもじゃないだろうってことはみんな言っていた……けど……」

「ん? けど?」

「どうも、千尋に顔が似てるって話になってきていてね」

「非常に問題だ……」


 麻友の曇った表情で言ってきた言葉に思わずボクも表情を曇らせてしまう。


「まあ、ちぃちゃんは可愛いから、それが子どもにも表れていて、分かっちゃったのかもね」

「それは惚気であって、何にも救いにならないわよ」

「あははは…………」


 ボクの指摘に、麻友が愚痴をこぼし、それに千尋さんがあいまいな笑みを浮かべる。

 まあ、確かにジュニアは明らかに千尋さんに似ている。


「で、麻友、その辺に関しては他に何か追加の噂は立ってます?」

「まあ、お相手だけど—————」

「えっ!? 私が生んだ前提なんですね!?」

「まあ、そりゃ仕方ないわよ。でも、みんな懐疑的よ。そもそも妊娠してた様子が見受けられなかったわけだから」

「なるほど……」

「だから、千尋の親戚の子どもだろうって感じで落ち着いてきているのよね」

「それならば、問題になりそうではないですね」

「まあね。でも、さすがに早く事件の真相を解明しないと、このままじゃあ、あんたの身も持たないでしょ?」

「ええ……。さすがに毎日このようにお乳が張ってしまうのは、正直辛いです。本当に体質の変化みたいなものを感じてしまいますから」

「じゃあ、今日はあんたの代わりにあたしが————」

「あ、それは結構です!」


 ん? 何の話だろう?

 今日? 今日って何の日?


「えー、折角、今日は千尋が優一を自由にできる日なんだから、その代わりと思って言い出したのに……。そろそろ溜まってんでしょ? 優一?」


 こら! 指で表現するな! 手で輪っか作って、上下運動するな!

 本当にこの人たちは夜はそっち方面ばかり考えるんだから……。


「実は、こうやって赤ちゃんを見ていると、つい本当に欲しくなってきてしまって……。最近、下腹部のこのあたりが疼いちゃうんです」


 と、そっと手でさすってる場所は、明らかに子宮!?

 いや、それってつまりは………。


「いやいや、ちゃんと避妊はしておきなさいよ? リアルで出来ちゃったら本当に大バカ者よ?」

「そうですね。あ、でも、さすがに私の体も飢えてるようなので、今日は久々に5回戦ほど戦えそうです♡」


 あっ♡ やめて……その微笑み。何だか、エロい。間違いなく誘ってるよね?


「普通は出産したら、性欲は落ち着くっていうのに……。まあ、本当に生んだわけじゃないから、治まらないものなのかもね」

「先日から、優くんが授乳中の私の胸に熱い視線を投げかけられていたので……」


 ち、千尋さん!? なんてことを言い出すんですか!?


「ゆ、優一!?」

「お、お兄ちゃん!?」

「「さすがに授乳プレイはダメだからね!!!」」

「ねえ!? ボクのこと、単なる変態だと思われてない!?」

「いや、否定はできないだろ?」

「そうですよね。まあ、お兄ちゃんの匂いにみんな当てられちゃってますからね」

「ですので、今日は、励みましょうね! 旦那様♡」

「………は、はひっ!?」


 この後のことはみんな想像してくれたまま……いや、それ以上のことだったかもしれない。

 これって本当に結婚した後、ボクの体は大丈夫なのだろうか……。

 そんなことを脳裏に思いながら、お互い火照った体を抱きしめあいながら、その日の夜は終わった。

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