第97話 きちんと地雷を踏みぬく妹。(モウ、ヤメテ……)

 リビングで平和な夕食。

 うん。いいね。

 と、思った読者は悪いけど、気持ちを改めるべきだと思うね。

 ボクの横には、千尋さんが座り、対面に妹の美優、そしてなぜか幼馴染の麻友までご相伴にあずかっている次第だ。

 なんだか、我が家って大人数な状態になってしまった感が否めないんだけど……。


「そうなんですかぁ~。お兄ちゃんがこちらに残ってからのようすって全然知らなかったんですけれど、すごく真っ当なことをしていたんですね」

「美優? ボクのことをどう見ているんだよ」

「え? エッチなこと目がない陰キャな男の子?」


 ぶばぁ……。思わずご飯を吹いてしまう。

 それを見て、千尋さんが「あらあら……」と言いながら、ティッシュでボクの頬を拭ってくれる。


「いや、まあ、あんなに女の子の裸に興味津々になっちゃったら、そう思っちゃうよねぇ~」


 麻友はいい加減なコメントを述べる。


「いやいや、そもそも考えてほしいんだけど……」

「ん? 何をかね? 容疑者Yくん」

「容疑者って……。ボクはまだ悪いことをしたわけじゃないんだぞ」

「ん~~~~~~~~~~。まあ、そう言うことにしておいてあげるね」

「何だよ……。その信頼のなさは……」

「そりゃ……まあ、ねぇ?」


 と、麻友は千尋さんに同意を求める。

 千尋さんは、はっと気づき、恥ずかしさが込み上げてきたのか、耳まで真っ赤にしながら、お味噌汁の入ったお椀で口元を隠した。

 うーん。これはきっとさっきのことだな………。


「ん? どうして、千尋お姉ちゃんが顔を真っ赤にするの? 今日、何かあったの?」


 純粋無垢っぽい妹は、好奇心だけが上回り、顔を真っ赤にした千尋さんを質問攻めにする。

 千尋さんはそのたびに「あうっ!?」と繰り返しているだけだ。

 さっき……。そうあれは、ボクにとっては地獄でしかなかった。

 今日は麻友の搾精の日だったのだが、ボクが妹のおっぱいに欲情したと思われた(そりゃ、ちょっとは高ぶるよ、あの爆乳にはさ!?)結果、ボクはお仕置きをされることになった。

 しかし、麻友の番の日だから、千尋さんは何もしてもらえない。

 それが癪だったのだろう。

 彼女はボクを使って、自慰行為を行ったのである。

 うーん。厳密に言うと、ボクが色々と舐めさせられて、彼女だけが快楽に堕ちていたと言ったほうが分かりやすいかもしれない。

 結果、ボクは千尋さんの甘い吐息とペロチューに性欲が爆発し、それを大喜びで、最大パワーで吸引している淫夢魔の麻友が下半身にはいるというわけだ。

 結界を張ってあったから、妹は何が起こっているのか分かっていないようだが、ボクにとっては、幾度となく全身を快感が走り抜け、その都度、吸い取られる身にもなって欲しい。

 おかげで、ボクは昼過ぎには干からびるような状態になってしまった。

 その後、彼女の膝枕という最高の柔らかさを味わいながら、回復を待ったわけだが、結局は夕方まで寝込んでしまったのだ。


「うーん。さっきから、千尋お姉ちゃんはずっとこんな調子なんだよね! 昼にお兄ちゃんがずっと千尋お姉ちゃんの膝枕で気持ちよく眠っているのは見たけど……。あ、あと! やたら、午後には麻友ちゃんや千尋お姉ちゃんの肌の艶が良くなっていたんだけど!」

「それはきっとあたしたち、最近寝起きに栄養ドリンクの代わりにコラーゲンを摂取してるんだよ。ねえ? 千尋?」

「え、ええ、そうなの。でも、これって貴重なものをサンプルで麻友からもらったから、美優ちゃんにあげられなくて残念なんだけど……。でも、美優ちゃんの肌艶はすっごく綺麗だから、こういうの要らないよね?」


 もう、あからさまにおかしい。

 そのコラーゲンという文字をボクの精子とか、エッチをするときに溢れ出すホルモンとかに置き換えても、内容が通じるんだけど、それはそれで嘘がないってことでいいんだろうか……。


「ふーん。そうなんだぁ……。歳を取ると大変なんだねぇ」

「ぐふっ!?」

「ちょ……」


 あー、たぶん年齢の話はダメなんだろうな……。

 千尋さんと麻友はそれぞれ吸血鬼と淫夢魔なわけだ。今、生活するために高校生という状態で生きているが、そもそもはもう少し(て、ことにしておこう)年齢を重ねているはずだ。

 とはいえ、どういう魔術かは知らないけれど、見た目はボクらと同い年にきちんと見えているのである。


「きっと美優ちゃんも高校生になれば、苦労が増えるから分かるようになるわ」


 千尋さん、笑顔が引き攣っているのと、口の端に血のようなものが見えてます。

 麻友も冷や汗をかいているように思える。

 まあ、美優はこう見えて、天然だから扱い方も大変なんだろうなぁ……。


「あー、それにしても、晩御飯とっても美味しかったです! 麻友ちゃんっていつもお料理上手だよねぇ~」

「ん? まあ、そりゃあたしもずっと一人暮らししてるからね」


 話が元に戻った安心感からか、ほっとしながら、美優に対応する。


「え? 麻友ちゃんって一人暮らししてるの?」

「うん、そうだけど? 両親が仕事で忙しいから、低家賃のマンションで暮らしてるんだけど……? だから、自炊をいつの間にか覚えたんだけど」

「すごぉ~~~~~~~~~~~~~~い!!」

「ええっ!?」

「いやぁ、さすが麻友ちゃん! いいお母さんになると思うな!」

「え? あ、そう? ありがとう」

「でも、何で麻友ちゃんは、お兄ちゃんと一緒に棲まないの?」


 ぶぼぉっ!?!?!?

 思わずお茶を吹き出してしまう千尋さん。

 ボクは慌てて、ティッシュを取って、頬を拭ってあげる。


「え? そりゃ、まあ、優一が千尋と一緒に棲んでるからね~」

「そんなの関係ないよ! まだ、お付き合いじゃないですか!」

「う、うん、そうだねぇ」


 うーん。何やら雲行きが怪しくなってきたな……。

 ボクは早々とこの部屋から立ち去りたい一心であった。


「知ってる? 麻友ちゃん! 最近の世の中はNTRってのが流行ってるんだって!」

「美優!? そんな言葉、どこで学んだの!?」

「あー、お姉ちゃんが言ってた。男性が彼女を略奪するほうが多いらしいんだけど、逆もありよねぇ~って」

「あのバカ姉貴……。何てことを妹の前で話してるんだよ……」

「つ、つまり、美優ちゃんはあたしに優一を奪い取れ、と?」

「うん?」


 いや、その純真無垢な頷きはやめて。

 ほら、ボクの横の人が瞳のハイライトを失ってるから……。


「麻友? 本当に奪い取るのですか? それならば、いつでもお相手いたしますわよ。まあ、今までの戦績は145勝89敗で、私が勝っていますが……」

「千尋!? 勝負するわけないでしょ! あたしたちはちゃんと取り決めを守るって話をしたわよね!?」

「あれ? 麻友ちゃんと千尋お姉ちゃんはちゃんとお約束しているの?」

「うん! そうだよぉ……。簡単に人の恋路を奪っちゃいけないんだよ~。それはとてもとても怖いことになるんだよぉ~」


 何やらトラウマがあるのか、麻友がいつになく本気モードで美優を説得している。

 何だか、素晴らしい。いいぞ、もっとやれ。


「そっかぁ。じゃあ、あたしがやっちゃうね!」

「へ?」


 麻友が気の抜けた声を出す。

 が、次の瞬間、美優はボクの腕を引っ張っていた。


「さあ、お兄ちゃん! 今日は兄妹水入らずなんだから、一緒にお風呂に入ろう!」


 次の瞬間、千尋さんが持っていた菜箸が突如として真っ二つにへし折れたのであった。

 あ、これってもう完全に死亡フラグなんじゃないかな—————?

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