第130話 土曜日の朝……。いや、おかしいでしょ!?
目を開くと、窓からはカーテン越しに優しい日差しが部屋に入り込んでいる。
目の前には優しい微笑みを浮かべる彼女がスヤスヤと寝息を立てている。
あの恐れられる吸血鬼の寝顔とは思えないほどに。
赤ん坊は簡易型のベビーベッドの上でこちらもまたスヤスヤと寝息を立てている。
こちらは本当に天使の方な微笑みだ。
そんな幸せそうな二人の寝顔を見て、ボクはさっき、夢の中で大人の千尋さんに言われたことを思い返してしまう。
ボクの身に一体何が起こるんだろうか……。
「どうしたの? 優くん?」
「え?」
ボクが驚きの声を上げると、目の前には先ほどまで寝息を立てていたはずの千尋さんが心配そうにボクの顔を覗き込む。
「何でもないよ」
「そう……、て、納得すると思った?」
「あれ?」
「何が『あれ?』よ。そんな不安そうな顔をして、『何もない』はないでしょう?」
「ごめん……」
「別に謝らなくていいの。そもそも、優くんが私の彼氏になってからは、お互いで協力していくのが当たり前なんだから、不安なものも一緒に取り除かなきゃならないのよ」
「そんなに不安そうな顔してた?」
「ええ、もうメチャクチャ……。まるでこの世の終わりのような顔をしていたわ」
「そんなに……」
「ええ、そんなに……。で、どうかしたの?」
心配そうな彼女にこれ以上、「何もない」と言い切るのは無理だと悟って、ボクは夢の中であったことをすべて、彼女に話した。
彼女はすべてを聞き終わると、顔色が曇ってしまった。
「そう……。未来の私がそんなことを……」
「ああ。それにこの赤ちゃんもその時間軸が違う別の軸で生きている大人の千尋さんが産んだ子どものようなんだ」
「そうなんだ! じゃあ、私と優くんは将来、めでたく結ばれるのね!」
目を蘭々と輝かせながら、彼女は嬉しそうにボクの手を取る。
「うん……。そうだね」
「あら? 優くん、嬉しくないの?」
「いや、すごく嬉しい! ボクも君との赤ちゃんなら作りたいと思ってる!」
ボクは彼女の目をじっとみながら、語気を強める。
と、同時に彼女の顔が一気にリンゴのように真っ赤になる。
彼女の顔は噴き出るニヤニヤを何とか抑え込んでいるような感じだ。
ボクは瞬時に悟った。自分がなんて恥ずかしいことを言ったのかということに。
「わ、私もお、OKだよ……。あ、でも、だ、大学まではお預けね……」
「わ、分かってる………」
握りしめられた手の温度が高くなっていることをボクも気づく。
いや、お互い色々と恥ずかしい。
「で、でも、優くんは何に心配をしているの?」
「実は、はっきりと言われなかったんだけれど、どうやらボクの命に関わることが何か起こるみたいなんだ……」
「え……。何それ?」
「ボクも詳しいことは分からない。でも、大人の千尋さんは『あの女』って……」
「あの女?」
「ああ、でも、その瞬間にノイズが混ざり始めて、彼女の姿は見えなくなったんだ」
「あの女……。私の知り合いなのかしら?」
「そうかもしれないね。でも、何か恨んでるようでもあったけど……」
「私が恨んでる人……。美優ちゃんかな」
「あたしのこと嫌いなんですか!?」
「うわっ!?」
「み、美優ちゃん!?」
「千尋お姉さま! 私のことなんだと思ってるんですか!?」
「ホルスタイン」
「ひどっ!?」
「いや、見たまんまなんだけど」
「容姿で人を貶しちゃダメなんですよ!」
「わ、分かってるけど……。て、どうして私たちの寝室に入ってきているの!?」
「い、いえ、昨日も激しい夜だなぁ……と思って、見学を……」
「美優ちゃん? お仕置きが必要なようね……。お尻の穴を○○(ピー)して、○○(ピー)されちゃったほうがいい?」
「ち、千尋お姉さま!? あ、あたし、そっちの興味はないので!」
顔面真っ青にしつつ、美優は寝室から飛び出していった。
それにしても、気配を殺しつつ、ボクと千尋さんの情事を観察するとは、なかなかの手練れかと……。
「あとは、麻友……」
「あたしじゃないからね?」
「て、何で、麻友までいるんだよ!?」
「いや、あたしは昨日の夜にジュニアを寝かしつけた時にそのまま寝入っちゃってさ……」
「へぇ……」
青筋を立てながら、拳に魔力を集めている。
いや、普通にこれ、吹き飛ぶやつ!?
「だ、だから、あたしは無実だって……!? 決して、奥に叩き付けられて、若干痙攣しながらの千尋のアヘ顔なんて見てないから! 清楚可憐なんて吹き飛ばしたようなイキ顔なんか見てないから!」
どうやら、ボクの周りの女の子たちは余計なことを言ってしまうタイプらしい。
あー、でも、確かにそんなこと昨日もあったなぁ……。
大人の千尋さんが恥ずかしくて見たくないって言ってたのが、なんとなくわかる。
「それって十分に見ちゃってるわよね?」
怒りで震えているのは分かるけど、同時に今、昨日の夜のことを思い出してるよね?
メチャクチャ顔、真っ赤になってるよ?
「この『優くんスペシャル』の餌食にしてあげるわ!」
「て、ちょっと!? それ何!?」
「あ、優くんは見ちゃダメ♡ ほら、リビングでお着替えしてきてね!」
手に持っているこけしのようなそれについては何も教えてもらえないまま、ボクは寝室をつまみ出される。
と、同時に部屋のドアが閉まり、中からは麻友の嗚咽ともとれる喘ぎ声がこだまするのであった……。
ちょっと……どんな土曜日の朝なんだよ……。
その後、すっきりとした表情で出てきた千尋さんの奥には、ばっちりアヘ顔をキメた麻友が痙攣しながら倒れていたのであった。
いや、本当にどういう土曜日の朝何だか…………。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます