第115話 奪いたい女vs奪われたくない女

 正月早々、ボクはどうして妹の美優に睨みつけられているのだろうか……。

 いや、ボクにその原因を知らないのかと言われれば、もちろん分かっている。

 それはボクの横に千尋さんも一緒に座らされていることからわかる。


「いやぁ~、お兄ちゃん、妹は悲しんでいるんだよ」


 腕を組み、自慢の爆乳がたゆんと揺れる。

 思わず目が言ってしまうが、その瞬間に横から冷たい気配を感じて、ボクは視線を逸らす。


「み、美優ちゃん? こ、これには深い事情があってね……」

「千尋お姉さまも共犯です!」

「は、はい……」


 おいおい。眷属にお咎めを喰らう始祖の吸血鬼の娘ってどういう構図だよ……。

 と、ツッコミを入れたくなってしまうが、敢えて、ここは落ち着いておきたいと思う。


「お兄ちゃん? どうして、あたしが怒ってるかわかる?」

「え? ま、まあ、分からないでもない……」

「いや、普通に分かってよ……。今日は誰が担当の日?」


 そう。

 今、美優が怒っているのはそれなのだ。

 実は、ボクの濃厚な精気は今、千尋さん、麻友、美優の3人でそれぞれ曜日を決めて、頂かれているわけである。

 で、何とも悲しいことに1月1日は美優の日だったのだ。

 しかし、ボクらは手を繋ぎながら寝たことで初夢を共有したことで、その勢いでリアルでも新年初エッチへと突入したのである。

 ああ、ボクらって本当に愛し合うの好きだなぁ……。(シミジミ)

 さすがに夢に出てきたイーグル印の避妊具はなかったのだが、千尋さんがお母様から託された小箱から「0.01mm」が取り出され、ボクと千尋さんはお互いを激しく愛し合った。

 で、当然、そんな激しくヤりあえば、声も響くというものである。

 隣室で寝ていた妹が飛び起きて、ボクらの寝室にやってきたのである。

 で、今、こうやって激怒されているわけだ。


「千尋お姉さま……。もう少し、節度を保ってくださいよ! 何だか、最近、お兄ちゃんがセックス好きのサルにしか見えませんし、そんなサルに流されて、ホイホイと肉体を提供していたら、そのうち、避妊具なしで出来ちゃいますよ?」

「うう……。この間、麻友にも言われたわ……」

「吸血鬼は出来にくいとは言いますけれど、これだけ濃厚な精気を持っているお兄ちゃんのことですから、そのうち、千尋お姉さまも体が準備しちゃうと思うんです」

「あ……。そ、それは……」

「それは?」

「実は、最近、優くんので気持ちよくなっちゃうといつも、下腹部がきゅ~ん♡って準備しちゃってるみたい……」

「それ、ダメな奴じゃないですか……」

「やっぱりそうかな……?」

「さすがにボクからもそれは忠告しておきたいかも……」

「優くんまで!?」


 驚きを隠せない千尋さん。

 いや、前にも言った通り、ボクらは学校では優等生として位置づけられているわけだから、さすがに出来ちゃったので退学します、は体裁がまずい。


「とにかく! 今日はべたべた禁止します!」

「ええっ!? 今日、元旦だよ!?」


 批判の声を上げる千尋さん。

 そりゃそうだろう……。だって、この後、初詣に行く予定なのだから。


「ちょ、ちょっと……刑罰が重すぎるよ……。美優?」


 ボクが少し窘める。

 さすがに二人で出かけることは楽しみにしていたはずだし、昨日も今朝も結局、美優の襲来で千尋さんにとっては、ボクとゆっくりと二人きりになれなかったのが、激しい行為に及んだ原因でもある。


「うーん。じゃあ、お兄ちゃんに免じて、初詣の時に、あたしも一緒に連れて行ってくれるなら問題ないよ」

「まあ、それは当然だろう? 兄妹なんだから、別に一緒に行ってもいいんじゃないか」

「——————!?」


 刹那、千尋さんが危機感が表情に現れたのをボクは見逃さなかった。

 あれ? もしかして、ボクはまた何か事件を起こしそうなことを言ってしまったのだろうか。


「あ、あのね……。優くんはやっぱり、おっぱいの大きい女の子の方が好きなのかな……?」

「ええっ!?」


 ボクはさすがにその発言に驚きを隠せないでいる。

 好きか嫌いかで言えば、もちろん好きです。ごめんなさい。おっぱい星人です。

 で、でも、それはそれ、だ。

 千尋さんのお胸だってそんなに小さいわけではない。

 むしろ、スタイルは見た目からして綺麗と言えるものだ。


「ははぁ~ん。千尋お姉さまはあたしのこのおっぱいにお兄ちゃんがメロメロになったら困るってことね?」

「………うっ」


 千尋さんは図星を突かれたようで、ボクの腕をそっとだけ引っ張る。

 ささやかな抵抗といった感じだ。


「こら、美優? ちぃちゃんを困らせたらダメだぞ」

「えーっ。お兄ちゃんを奪う敵なのに?」

「敵だと思うなら、ちぃちゃんと戦って追い出されたい?」

「うっ!? そ、それはキツイ……。折角、お母さんから貰った宿代で私腹を肥やそうとしていた計画が……」


 いや、それダメでしょ。普通に。

 ボクは一つため息をついて、


「はいはい。じゃあ、その宿代もいくらかは家に入れてもらうからね」

「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!? 何でよ!?」

「じゃあ、飯抜きで良いんだね?」

「あ、それはいやです……」

「じゃあ、食費くらい出してもらってもいいよね? そもそも光熱費だってタダってわけにはいかないんだから」

「……………しゅん」


 いや、それ普通に言葉に出すものなんだ。

 初めて見たよ……。


「さ、じゃあ、美優はちぃちゃんに謝って!」

「はーい……」


 美優は立ち上がり、千尋さんの前まで行くと、手を差し出し、


「ごめんなさい。友好の証として、握手してもらえないですか?」

「え? うん。いいわよ。これからも仲良くしましょうね」


 千尋さんは優しい笑みを浮かべながら、美優に手を差し出す。

 と、その瞬間、美優の口元がにやりと歪む。

 あ、しまっ————————!

 バヂィッッッッ!!!!!


「んひぃぃぃぃぃぃぃぃっ!?」

「んふふ! これからもよろしくお願いしますね! 千尋お姉さま!」


 そう。美優は握手すると同時に、手に隠し持っていた、静電気発生装置を稼働させたのである。

 静電気だからそれほど大きな電気が流れるわけではないが、それをもろに喰らった千尋さんの身を考えると、申し訳なく思ってしまう。

 なんて恐ろしい子なの……美優。


「も、もう! 本当にあんた、私の眷属なの!?」

「もちろんです! だから、同じ人を好きになっちゃってるんですよ! あ、これは友好の証ですから~」

「ゆ、友好の証って……」


 ボクは二人の間に入って止めに入る。

 それを狙って、妹は爆乳でボクの腕を挟み込み、逃げ道を塞ぐ。

 が、させるか、と千尋さんはボクの顔を両手で包み込み、そのまま唇を奪う。

 いや、正月からどういうシチュエーションなの!?

 どうやら、ボクの今年一年をある意味占うような元旦の一コマとなったのであった。

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