第151話 何かが違う……。

「て、ちょっと待ちなさい!」


 掛けだそうとしたボクの腕を突如掴まれ、ボクは仰け反る。


「ぐぉっ!? な、何をするんだよ!」

「いや、アンタは本当に彼女のことになったら、冷静になれないのね……」

「はぁ!? 普通に冷静になれるわけないだろ?」

「まあ、それだけ相思相愛になっちゃったってことかぁ……。はぁ~、これならば、あたしももったいぶらずに自分の名器を優一に捧げておくんだった」

「あ! それはずるいですよ! あたしだって、まだまだ最高の締まりが———」

「おい、何の話だよ!?」

「あー、こっちの話……」

「あははは……、今はそんなこと言ってる場合じゃないもんね」


 明らかに怪しい美優と麻友の二人は放置して、一馬を本気でぶっ飛ばしたい。

 だって、目の前の彼女が一馬と愛を交わすかのようなキスをしている。

 その表情は恍惚そのものだ。

 全身の血液が煮えたぎり、今すぐ、ボクは一馬の懐に飛び込んで、一発かましたかった。

 しかし、麻友に腕を握られた状態で、ボクは制止させられている。

 正直ストレスがたまる。


「麻友……。ボクでもさすがに怒るよ……。自分の彼女をあんな状態にされて、冷静になっていろ、なんて言う方がおかしいと思う」

「はぁ……。恋は盲目というけれど、こういうところで盲目なのは良くないと思うわよ……」

「お兄ちゃんは千尋お姉さまのことをまだ分かっていませんね!」


 麻友と美優は二人してボクをバカにしているようにしか思えない。

 いや、本気で怒るよ?


「お兄ちゃんはまだ気づいていないのですか?」

「何をだよ?」

「あの女の人、千尋お姉さまにしては、何だか違和感があるんですけれど……」

「違和感?」

「うん。なんて言うのかな……。見た目は千尋なんだけど、千尋じゃないような感じがするっていうのかな……?」

「何だよ、それ? すごく曖昧な感覚だな……」

「だから、優一が飛びつくのを止めたのよ」

「美優ちゃんはどう思う?」

「うーん……。千尋お姉さまよりはお胸が大きいかな……」

「み、美優ちゃん!? さすがにそれは本人が聞いてたら殺されちゃうよ!?」

「あ、でも、あたしのなかではあの人は、千尋お姉さまではないので……」

「優一はどう思う?」

「胸の大きさか?」

「違うわよ! 全体的な印象!」

「えー!? そう言われても、闇堕ちしているような感じは受けるけど、そもそもあの短時間でそんな洗脳とかできるのかな……って今思えば、理解できるようになってきた」

「そうよねぇ……。そもそも決定打的なものがあれば……。そういえば! さっきまで二人で何してたの!?」

「ええっ!?」


 ま、まさか、久々に出会えて即エッチしてたとか、言えるわけがない……。

 ボクはたじろぎながら、


「そ、それって重要なことなのか……?」

「あったりまえじゃない! だって、さっきまでのあなたとの関係で不満があの子にあったら、闇堕ちもあり得るかと思ったんだけど……」

「い、いや、本人は満足してたはずだぞ!」


 ボクは思わず本音を言ってしまう。

 瞬間、「あ。」と声を漏らし、同時に冷や汗が溢れだすのを自分で感じる。


「ほほう? やっぱり千尋との間で何かあったのね? 千尋が満足するようなことが……。そして、どうしてかしら、あたしがすごく不満に思えてしまうのは………」


 あ、これは絶対にもうバレているっていうやつですよね……。

 敢えて、ボクの口から言わせようとしているパターンなのでは……。


「お兄ちゃん! 何があったの!?」


 瞳を潤ませつつ、心配そうにボクの顔を覗き込んでくる美優。

 いや、それ止めてくれない!?

 罪悪感で心の中がいっぱいになってしまいそうなんだけど!?


「あ、う………。じ、実は、いっぱい………した…………」

「え? 何かなぁ~?」

「……うぐぅ……」


 どうやら、ボクは腹をくくっていうべきのようである。


「さっき、あの部屋で二人で久々にエッチしてました!」

「あらやだ……。緊張感はないの?」

「さすがです、お兄ちゃん!」


 ぐすんっ! それ、褒めてる? それとも貶してる?


「で、何回?」

「ご、5回ほど……」

「うわ。じゃあ、やっぱりあの女は千尋じゃないわよ」

「ど、どうしてそうなるの!?」

「だって、漏れ出してない……」

「はぁ!?」

「いや、だから、あんた、中にやっちゃったんでしょ? それが垂れ流れてないのはおかしいじゃない!?」

「ええっ!? おかしいの!?」

「そりゃそうでしょ……。だって、あんた、もう一週間近く出してないんだよ? 毎日でもすごいのに……。一週間だなんて、さすがの千尋の子宮でも受け止めきれる量じゃないわよ……。てか、受精してないでしょうね……」


 ごめんなさい。そればかりはボクたちは二人とも本気で抱き合っていたので、自信がない……。

 出来ちゃったら……。うう……。それって高校生でボクがパパになるってことだよね!?


「とにかく! その話を聞いて確信できたわ!」

「何をごちゃごちゃ言ってるんだよ……麻友」

「一馬! その偽者を娶って嬉しいの?」

「はぁ? 偽者? 何の話だ?」

「こいつは吸血鬼の始祖の娘である錦田千尋だぞ?」

「それ、本気で言ってるの? 優一を騙そうとしてるだけでしょ?」

「………」

「ほうら、やっぱりね」

「まったく、鬱陶しいよ……お前は……。俺の妹の分際で、俺よりも優秀だと思われてるからな」

「あー、ちょっと違うよ。あたしはね、別に自分自身が優秀だとかどうとか気にしてないんだ。単に、上手く立ち回れてるように見えるだけ。基本的にはやりたいことをやらせてもらってるだけだからさ……」

「それが気に喰わないんだよ! もう、バレてるから変装を解いていいぞ」


 そう一馬が言うと、偽の千尋さんが紫色の煙の覆われる。

 と、その煙が払いのけられると、そこには先ほどの裸とかあまり違いのないビキニアーマー(布地なさすぎ!)を装備した女が立っていた。


「あんたは!」


 麻友が驚愕の表情を浮かべる。

 すると、一馬の横に立つ女は、軽く会釈をして、


「お久しぶりです、麻友さん」

「マハラト……。あんた、何で一馬についてるの……」


 このマハラトという女からも魅了の術が垂れ流れているのだろうか……。

 何やら、不快感を覚える。

 ボクは今思えば、麻友に止められて正解だったと感じた。

 とはいえ、一馬とマハラトは余裕の笑みを浮かべていることには変わらない。

 そう。ボクらは相変わらず不利な立場に立っていることを、認識せずにはいられなかった。

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