第118話 突如の来訪者と邪な気配のモノ。
ボクは二人の(胸の)間でもみくちゃにされつつ、おみくじを見せる。
「ええっ!? お兄ちゃん、さすがアゲマン……」
「優くんって本当に凄いですね……大吉だなんて」
そう。ボクが引き当てたのは、見事に「大吉」であった。
て、そんなに驚くことだろうか……。
まあ、今思うと昨年は凶だったわけで……。そこからはかなり運気が上昇していると考えると、実は千尋さんもアゲマンになってる?
で、おみくじにはこう書かれていた。
———最高の運気。ただし良い時に邪魔が入りやすし。今が最高潮と心得て、現状維持に努めるべし。
あと、結婚運が「今」とか恐ろしいことが書かれていたが、そこは敢えて、指で覆った状態で彼女には見えないようにしている。
見せてしまったら、「ここで挙式しましょう! 神前式で私は結構です!」とか目の色を変えて言ってきそうで怖い。
「でも、最高潮だと言えども、邪魔が入るんですね、邪魔が」
「あー、またあたしの方を見てる! あたしは邪魔なんかじゃありません。いわばお兄ちゃんにとっての第二婚約者です!」
「ええっ!? そうなの!?」
思わず声を上げてしまう。
「そうですよ! 結婚するときは日本から移住しましょう! 重婚が認められている国に! あ、もし、あたしの人生のことを気にしてるなら気にしなくていいよ。重婚が認められている国でも研究者としてはやっていけるから」
いや、ポジティブすぎないか、妹よ!?
それとさらっと研究者になることを言いのけてる辺り、本当に妹には自信があるのだな、と感じる。
「あ、でも、ここで麻友ちゃんがいるとそれはそれで複雑な問題になりますね」
妹よ、さらに怖いことを言うのではない。
ボクは平穏無事に千尋さんと結婚を……、と考えて少し恥ずかしくなってしまう。
彼女と結婚して、子どもを産んで幸せな家族計画とか……。
結婚すると、千尋さんに耳元で「あなた」とか呼んでもらえるのか!?
そ、それってすっごく幸せなことなんじゃないだろうか……。
と、とにかく、ボクは見捨てられないように何とか男らしくいなくてはならない。
ボクは決意を新たにする。
そう。今年のボクのしたいことと言えば、彼女にボクの男らしさを伝えること。
昨年は何だかイチャイチャしているだけで終わったような恋愛関係だった。
何かあれば、ボクは千尋さんに頼るような……何だかダメ人間にされている? ような気がしなくもない一年だった。
でも、今年はさすがにそれではいけない。
彼女がボクにさらに好きになってもらえるように頑張るしかない!
「お兄ちゃん? 妄想タイム終了で良き?」
「んなっ!?」
「優くん大丈夫? 何やらうわの空でブツブツと呟いていましたけど」
「うーん。まるで魂でも乗り移ったような感じだったね……」
「美優ちゃん、ここは神社なんだからそんなことが起こるわけないでしょ。それは寺院の間違いよ」
「あ、なるほどね」
そんなやり取りをしているのを見ていると、なんだかんだ言って、千尋さんは美優のことをとても大切にしてくれているような気がする。
「まあ、でも、優くんのこのポジションはあなたにはあげませんけどね!」
前言撤回。
なかなか煽るね、千尋さんも。
千尋さんはボクの腕に抱き着いてくる。
「優くん、このおみくじ、結びに行きましょ?」
「え? あ、うん」
「あ、お兄ちゃん! あたしも一緒に行くんだからね!」
そういうと、美優もボクの腕に抱き着く……というより胸で挟み込んでくる。
はぅうっ!?
理性の耐性にも限界というものがあるんだが……。
ボクはきっと千尋さんにとっては若干、香ばしい匂いを溢れ出つつあるのを気づいているのだと思う。
おみくじを括り付けると、そっと首筋にキスをしてくる。
と、同時にチロリと舌で首筋を舐める。
ボクがびくりとして、彼女の方を見ると、千尋さんは意地悪く微笑みながら、
「あとで罰を与えますからね」
「…………ははは。お手柔らかに」
「お兄ちゃん? 何だかべたべたしすぎですよ? 周囲の人に邪魔だと思います」
うおっ。確かに妹がまともなことを言っている。
が、すぐさまボクの腕に抱き着く妹にはあまり説得力の内容に感じるのだけれど……。
「じゃあ、もう少し奥まで行ってみましょうか。確か、鳥居の奥の方もお詣りができるんですよね?」
「うん。まだ、時間があるから行ってみようか」
そうボクが言った瞬間、周囲の音がブツンと消し飛んだ。
マイクのジャックを端子から抜いた時のようなノイズが耳に叩き付けられたような瞬間に、周囲から音が消えた。
別に何かがおかしいということはない。
周囲の人が消えたわけでもないし、動いてもいる。
「な、何だ……これ?」
「ど、どうしたの? これ? 何、お兄ちゃん?」
「何だかいやな予感がしますね……。美優ちゃん、私から離れないでください」
「う、うん!」
妹の美優はすごすごと千尋さんの後ろに隠れる。
その時、「チリン……」という鈴の音が聞こえてくる。
ボクらがその鈴の音のする方を見てみると、そこには小さな背格好の巫女が二人並んでいた。
顔は陰陽道の印が書かれた前掛けで隠され、どのような表情をしているのか分からない。
「なんでしょう……あれは」
「何か御用でしょうか……」
「「あなたたちから邪気を感じます」」
凛とした冷たい声が脳内に響き渡る。
彼女たちが発したものなのかどうかは口元が見えず判断しづらかったが、ふたつの声が響いたことから、どうやら彼女らなのだろう。
「「あなたにとってその邪気が、道を誤った方向へと導くでしょう」」
邪気……。
何を言っているのだろうか。
「どうやら、このお二人は私の素性が見えているのかもしれません……」
「え。ということは……」
「ええ、間違いなく、邪気とは私のことを指しているのかと……」
「でも、ちぃちゃんは何も悪いことをしていないじゃないか」
「ええ。私はただ優くんと幸せになりたいと心から願う者なのですが。どうやら、彼女たちはそう思ってはもらえないみたいですね」
「どういうこと?」
「まあ、邪魔者として処分したいのか、と」
そういうと、彼女はボクよりも一歩前へと歩みだす。
「私は何も悪いことをするつもりはないが、許されないのだろうか?」
「「邪な気配をするものは、その男の道を踏み外させる。だから、殺ス———」」
「どうやら分かっていただけないようですね。とはいえ、私たちから仕掛けたら何かと厄介なので、あなたたちから仕掛けてほしいものなのですが……」
「「殺スノニ 時間イラナイ」」
少しずつ小さな二人の巫女は言葉がたどたどしくなり、まるで電子音のように金切り声に近づいてくる。
耳を覆いたくなるような声—————。
刹那。二人の巫女がこちらに向かって飛んだ———!!
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