第34話 少女は突如、吸いたくなった。(改)

 特急アヴァンの中ではそのあとも、千尋さんからのイチャイチャ攻撃にボクはたじろいでしまった。

 彼女は二人きりになれたことと初デートがこのような旅行になったことに喜びが重なって、テンションが上がっているようだ。

 それにしても、キスはやばかった。いや、何がやばいって、ボクだって陰キャといえども、そちら系ゲームやコミックをおかずにして自慰行為をする青年男子だ。

 え? 18禁じゃないのかって? そこは敢えて触れないでほしい。だってソフトウェア会社に勤める姉から渡されたら、普通テストしてみたくなるものじゃないか? それに感想も聞かれたりするから、的確に返事したりするわけだ。

 つまり、何が言いたいかというと、ボクだって女の子にこんなに攻められたら、過ちを犯しかけてしまうということだ。

 ボクの下腹部が熱くなってきつつある状況のなかで、さらに耳元で――――、


 ―――んふふ♡ 別にいいんですよ? ひと夏の思い出をして、出来ちゃっても……♡


 なんて言われて、スンッとなってしまう男などいないだろう。

 思わずボク自身には、彼女と出会う直前にちょうどクリアしたエロ可愛い吸血鬼との恋を攻略していく美少女エロゲーを思い出してしまう。

 がっちりと彼女と一致してしまう。雰囲気も顔も何だか似ているように思えてきてしまう……。

 そして、そんな彼女と蕩けるような口づけをしてしまった。

 ボクの下半身が大人しいままの状況なんてあるわけがない。

 すでに胡麻化してはいるけれど、正直、あともう何押しかされたら、間違いなくビンッ! と男らしさの象徴が勢いづいてしまう状況だ。

 で、最近、少しずつ分かってきたのだけれど、千尋さんや麻友はそういったエッチな雰囲気に関しては勘づくのが早い。

 というか、ボクの放つフェロモンのような匂いが、理解させてしまうようで、どうしようもなく、バレる。


「何だか、濃厚な香りがしてきます……」

「え!? そ、そうですか!?」

「は、はい……。特に、ここ♡」


 と、言って、彼女はツツゥーッと撫でる。

 あぁ、止めて……………。

 敏感になっているには違いないボクのものを愛おしそうに見つめる清楚可憐な美少女って完全にアウトでしょ!? ポリースメーン! ここにエッチに目覚めた美少女が、今にも喰らいつきそうな瞳をボクに向けているんですが……。


「ちょ、ちょっと!? 千尋さんは吸血鬼であって、淫夢魔ではありませんよね!?」

「あ、はい……。そうなんですが、麻友が先日、を美味しそうに飲んでいるのを見て、私もちょっと気になり始めたというか……」

「気になり始める次元をもう少しまともな世界線でいてほしかった!」

「そ、そんな!? これは種の保存として当然の本能というものです!」

「お願いですから、高校生の恋愛の中に本能を持ち出さないでほしいです……」

「とはいえ、それが男と女というものなのではないでしょうか……」

「はいぃぃぃ!?」

「元来、男は種を生み出し、女はそれを受け止め、子孫を生み出す。常に男と女というものは、種の保存のために命がけで子種を生み出し、そしてそれを放ち、子を孕むのですから……」

「何だか哲学っぽく言ってますけど、それってセックスのことですよね!?」

「あ、バレましたかぁ……。哲学っぽく言えば、優一さんは納得してもらえるかなぁ……って思ったんですけれどねぇ……うふふ♡」


 いや、うふふ♡ じゃないんだわ!

 千尋さんは瞳が微笑んでいるよう一見すると感じる。が、どうやら、目の奥は本気でボクのを狙っているようで、先ほどから、お触りの頻度が上がってきている。

 もはや、体が恐怖を覚えているんですけれど!?


「あのぉ……一度、を飲んでみてもいいですか?」

「はいぃ!?」


 いやぁ、本当にあんた吸血鬼ですか!?


「だ、だって、こんなに明るい場所だと血が見えちゃいますよね……。私、前にも言いましたけど、血を見るのは無理なんで……」

「でも、それがどうして、麻友と同じようなことをすることに繋がるんですか!?」

「え!? あ、まあ、本来、効率的に吸い出すのであれば、吸血した方がいいんですけれど、私もそろそろ限界というか……」


 あ、そういえば、最近は千尋さんに吸血されることがあまりなかったように思える。

 そもそも期末考査で忙しく、それどころではなかった。結果的に、彼女がボクの血を吸う回数が自然と減っていたのである。


「そ、そうですけれど……。いいんですか?」


 と言って、ボクは気づく。彼女の髪の色が紫掛かり始めていることに。

 吸血衝動に駆られている本能の姿に戻ろうとしているのだ。


「もちろんですよ♡」


 蕩けるような甘い声でボクの耳元で彼女がささやく。

 ボクら乗っている車両はほとんど人がいない関係で、ほんの少しいる人もボクらがイチャイチャしているようにしか見えないようで、声は掛けてこない。

 だから、彼女が吸血鬼の姿になろうとしていても、それほど問題ではない。

 とはいえ、こんな公共交通機関でそれはダメなんじゃないかな!?

 ボクはどうしようもない状況に置かれ、どう判断するか悩むが、どうも性欲に上書きされてまとめることができない。

 そんなボクのことを知ってか知らずか、千尋さんはついにボクの最終防衛ラインを突破したのであった。

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