第65話 少女たちの密会⑥

 私は今、何を見せられているのだろうか……。

 ドドーンと横長の大きな横断幕には、私が寝そべっている。

 水着の紐が外され、いやらしくもお胸が地面で潰されている。

 が、そこには綺麗に文字がかぶせられるようになっていて、あまり胸が強調されているような感じではない。

 とはいえ、この写真はいささか問題がある。

 それだけではなかった。

 下の階を見ると、駅のコンコースへ向かう人通りの多い場所の円柱には、私が優一さんとのデートで試着したコーデがすべて、ポスターのように色々と貼られているではないか!?

 これはさすがに驚いた。

 もう、盗撮とかそういうツッコミをする気すら失せそうなくらいあれやこれやと撮影されていて、私がこの建物にたくさんいるではないか……。

 それもあってか、私の方をチラチラと知らない人たちが見てくるような気がしてならない。

 あ、はい。広告のモデルは私です。

 彼氏とラブラブにしてもらえるということを引き換えに、こんな恐ろしい写真を盗撮されまくりました。

 この件に関して、訴えるには警察ですか? 公共広〇機構ですか?


「うーん。あんたの可愛らしさが前面に出ているいい広告になったわね」

「これって期間限定だよね?」

「もちろんよ! お盆くらいが最後かしらね。それ以降は秋バージョンに変えたいと思っているから、何だったら、そのくらいの時期にもう一度泊まりに来る?」

「エッチな写真じゃないならいいんだけどね……」

「うーん。どうかなぁ……。選んでるの、男性スタッフが多いからなぁ……」

「うあ。もう、私の体目当てなのね……」

「いや、そんなことないからさ……」


 どう取り繕ってもらっても、実際にこうやって自分の目の前にポスターが並んでいると、心配の種しか増えない。


「あれ? 錦田さん?」

「んんっ!?」


 私は多くの雑踏のなかから自身の名前が呼ばれたことに、驚くと同時に振り返る。

 そこにはクラスメイトの女子が二人立っていた。

 えっと、確か、森さんと上林さんだったわね。


「あら、お二人ともご機嫌よう」

 

 私は笑顔を崩さずに挨拶をする。

 横にはそれをジト目で見つめる麻友がいた。

 余計なこと言うなよ……と私は普段から彼女には釘をさしてある。


「ところで今日はどうしてこちらに?」


 森さんが訪ねてきたので、


「実はこちらの麻友さんとは幼いころから仲良くしていたの。それで学校で再会できたので、今日は一緒に買い物なんかをしようと思って来ているの」

「へぇ~、そうなんですか!」


 私は麻友に対して、目くばせをして状況を合わせろと合図する。


「ところで、森さんと上林さんは一緒にお買い物?」

「ええ、そうなんです! まさか、こんなところで錦田さんに会えるなんて、驚いちゃいました!」

「あら、そう? 私も普通に買い物には行くのよ?」

「そうなんですね。それに服装がとってもオシャレですね!」

「そういってもらえると嬉しいわ。私、あまりこういう普段使いの着こなしが上手くいかなくて、その辺も麻友さんの方が上手いから教えてもらっていたの」

「そうだったんですか……」

「あ、ところで、今日は河崎くんと一緒じゃないんですか?」


 上林さんが恋が気になる乙女といったような雰囲気の表情で私を見てくる。

 私はうぐっ!? と一瞬身を引いてしまいそうになる。

 が、そこはキャラクター設定を崩すわけにはいかないので、いつも通りの女神のような微笑み(吸血鬼なのに……)で二人に返事をする。


「今日は一緒じゃないわよ。そんな、常に一緒にいるわけないじゃない」

「そうですよね! でも、私の部活の友達が言ってたんです。錦田さんってわざわざ朝、川崎くんを迎えに行ってるんですよね?」

「……………え?」

「あれ? 違うんですか? だって、毎日、川崎くんのマンションから仲睦まじく話をしながら出てきているのを見るんですって」

「あ、ああ、そうなの。彼って朝が弱い方だから、私から迎えに行ってあげてるの」

「やっぱりそうなんですね! 素敵ですよねぇ……。河崎くんって今までそれほどクラスでも表立って目立ってなかったですけれど、錦田さんとお付き合いを始められてから、すっごく有名人だよね?」

「うん、そうそう! この間は、斎藤さんとも一緒に歩いているのを見かけたし」

「あ、そうなの?」


 私は麻友に対して、ギラリと鋭い眼光を向ける。

 麻友は、首を激しく横に振る。


「あが何かするわけ、ないでしょ? それにあたしだって幼馴染なんだから、一緒に話をすることだってあるってーの!」

「まあ、それはそうね」


 私は思わず納得する。

 そういわれれば、確かに幼馴染だ。それにお互い協定を結んでいるのだから、それを違反して、搾精するとは思えないし……。


「でも、お二人とも本当に可愛らしいから、色んな人から告白されていそう!」

「まあ、それはそれなりに、ね」


 麻友はウィンクをして、彼女たちに悟らせるような素振りを見せる。

 いや、まあ、確かに私にも告白をわざわざしに来て、玉砕するような連中が多いんだけどね。


「でも、私は優一さんに一途なので」

「ちなみにあたしも優一の妾という立場を希望しているんだけどね」

「め、妾ですか!?」


 森さん、さすがに驚いちゃうよねぇ……。

 私も、まさか、このアホがこんなことをこの場で言っちゃうとは思わなかったわ。


「妾ってのは言葉のあやだよ。単に麻友も優一さんのことが好きってことなの」

「河崎くんってこんな美少女二人に愛されちゃうなんて、すっごいモテ期が来てますね!」

「あ、でも、ほかの女の子には、奪わせる気はないけれどね」

「「さすが、錦田さんですね!」」


 なぜか、彼女たちから私は尊敬されるくらいになっていたらしい。

 彼女からは賞賛の声が上がったのだから。

 それはともかくとして、実は同じマンションに同じ学校の子が住んでいたなんて……。

 これからはもう少し行動を考えないといけないかしらね……。

 私は用心することに今一度、気持ちを新たにした。

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