394. オクシット男爵領でのキブリンキ・サルタス活用案

 そのあともモイラちゃんといろいろ話をしていると、オクシットに着いたようだ。

 そこでモイラちゃんとは別れ、オクシット男爵家一行は自分たちの馬車に乗った。

 そのあとをヴァードモイ侯爵様の車、私の車、キブリンキ・サルタスの順で続いて行く。

 街の人たちは私たちの車のあとをついて歩く大量の蜘蛛のモンスターに驚いているけど、逆をいえばそれだけだね。

 オクシット男爵が先にお触れを出していてくれたのかもしれない。

 街に馴染むのが早そうでいいことだ。


 さて、オクシット男爵邸に到着して一息ついたら、オクシット男爵と今後のこと、すなわちキブリンキ・サルタスたちの扱いについて交渉だ。

 オクシット男爵なら悪いようにはしないだろうけど、どうなるかな?


「なるほど、これだけの数を街の警備に割り当てたいんですね」


「はい。以前希望したとおり、この街の警備にも数をお借りしたいのです。もちろん報酬のお野菜も用意してあります。いかがでしょう?」


「どう? キブリンキ・サルタス」


『嘘はないな。報酬が約束されているなら我々も喜んで協力しよう。さしあたっては街に馴染むところからだな』


「おお、ありがとうございます。……ええと」


『キブリンキ・サルタスでいい。我々は契約主からも個体名を与えられていない。個体の区別はつかないだろうが諦めてもらいたい』


「わかりました。それで、キブリンキ・サルタス殿。できれば1匹モイラの警護に就いてもらえないでしょうか?」


『モイラ? 先ほどまで契約主やタラトと一緒にいた娘か?』


「はい。以前、夏に開催されたお茶会で伯爵家や子爵家のご令息と親しくなってからというもの、嫌がらせの手紙が届いているものでして……。いまは私が処理していますが、実力行使に出られてはかないません」


『わかった。子は宝だ、喜んで引き受けよう』


 本当にキブリンキ・サルタスって子供がらみだと甘いよね。

 ジュネブ子爵領でも孤児院のことを話すと、喜々としてアンガーチキン狩りに行ったもん。

 悪いことじゃないし、悪意があればすぐに見抜けるから適任なんだけどね。


『リリィ。この地でのサルタス商会はどうするのだ?』


「うーん。キブリンキ・サルタスたちの作った農作物の運搬と売買だけにしようかなって考えてる」


「サルタス商会? サルタス商会とはなんでしょう?」


「あ、はい。ジュネブ子爵領で立ち上げた私の商会です。主な事業内容はキブリンキ・サルタスたちが育てた作物の運搬と販売、それからキブリンキ・サルタスたちの食べる農作物の買い取り。ジュネブ子爵領では将来畜産も行う予定なので、その準備も行います。あと、ジュネブ子爵領の孤児院支援と成り行きで御用商人としてジュネブ子爵家に物品も納めることになりました」


「ほう。畜産もできるのですか」


「そのようです。基本的な知識はあるみたいなので、あとは詳しい知識がある人をサポートに付けてくれれば大丈夫みたいですね。ただ、畜産まで行うとなると牧草地用に広い農地をいただくことになりますが」


「ふむ……我が家もジュネブ子爵領同様冷涼な気候です。もしよろしければ畜産も行ってもらえますでしょうか?」


『それは状況によるな。それに、我々にとって畜産はあくまでついでのようなものだ。それに見合うだけの農耕用用地も用意してもらいたい』


「わかりました。少々遠い場所になりますが、それでも構わなければ用意しましょう」


 よし、ひとまず話はまとまったね。

 オクシット男爵にはまだ考えがあるみたいだけど、これがベースになるだろう。

 さて、オクシット男爵の腹案はなにかな?

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