410. 時間凍結
「ふむ。これはまた、立派に凍ったものだな」
凍りついた敵軍を前に、ヴァードモイ侯爵様はたいして慌てずにいる。
プラムさんやケウコさんたちはこれを見たことがあるから動じてないけど、ほかの人たちは結構動揺しているのにさすがだ。
それで、このあとはどうすればいいのかな?
「リリィ。これはこのまま運べるのか?」
「運べますが、重いですよ? なにに使うんですか?」
「王弟殿への土産にしようかと思ってな」
「構いませんが……生け捕りにしなくていいんですか?」
「なに?」
「え?」
うん?
私、なにか変なことを言っただろうか?
「リリィ、この者たちは凍りづけになって死んでいるのではないか?」
「ああ、それですか。死んではいません。ただ、周囲の時間ごと凍りづけになっているので動けないだけです。仮死状態ってやつでしょうか」
「……周囲の時間ごと凍っている?」
「はい。コキュートスタラチュナトスの能力みたいです。相手を氷の糸の牢獄に閉じ込めて糸の間に張られた氷ごと時間を止めてしまい生け捕りにするんですよね」
「それはまた……」
さすがのヴァードモイ侯爵様でも絶句したか。
私もこの能力をタラトに教えてもらったときは驚いたものね。
試しにモンスターを凍りづけにしてもらったんだけど、解氷したら何事もなかったかのように動き出した。
いや、さすがは地獄の蜘蛛だ。
「それでは、こやつらをよみがえらせることもできるのか?」
「よみがえらせるというか、解氷することはできますね。一種の呪いのようなものなので」
「ふむ、なるほど。ちなみに、ひとりずつ小分けにすることは?」
「可能ですよ。武器だけ解氷して取り上げることもできます」
「わかった。総員、やつらの武装解除に取りかかれ」
タラトによってひとりひとりの氷に分けられた敵軍は、ヴァードモイの軍によって次々と武器を取り上げられていく。
最初は恐る恐るだったヴァードモイの兵たちも、ある程度慣れれば凍りづけになっている敵兵を気にせずに武器を取り上げていける。
慣れって怖い。
あと、騎兵は馬から下ろされた。
馬は別の場所に移動して固めておいておく。
暴れて逃げ出さないようにしてから解凍するそうだ。
そっちはヴァードモイ侯爵様に任せよう。
あとは、主立った貴族や将軍なんかを捕まえることなんだけど、こっちがちょっと面倒くさいんだよね。
みんな均等に凍りづけなので、装備の豪華さで見分けるしかないのだ。
さすがのヴァードモイ侯爵様も将兵の顔までは知らず、とりあえず怪しそうな人間は全員連れて行っている。
これも大変な仕事なんだよね。
暴れられないだけ楽らしいけど。
「豪華な装備を身に付けている連中はこれですべてか?」
「これですべてになります。いかがしましたか、ヴァードモイ侯爵閣下」
「リリィ、ほかの場所にいるキブリンキ・サルタスたちと連絡は取れるか?」
「すぐには無理ですが少し時間をもらえれば。どうしましたか?」
「モロガワード侯爵がいない。やつめ、自分は戦場に出ずのうのうとしていたか」
やっぱり本人はいなかったのか。
でも、キブリンキ・サルタスが見逃してるとは思えないんだよなぁ。
タラトが仕掛けたことを合図に全員が動き始めているはずだから、結果報告を待とう。
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