426. 求婚されても困る

「はじめまして、コードル様。結婚の件、丁重にお断りさせていただきます」


「そ、そんな……」


 コードル様が膝からがっくりと崩れ落ちるけど、普通はそうなるんじゃないかな。

 初対面の女性にいきなり求婚だなんて封建制下のこの国でもないと思う。

 ない……よね?


「コードル。あいさつは普通のものだけと言いましたよね?」


「そ、それは……しかし、母上」


「お黙りなさい! リリィ様はヴァードモイ侯爵様の側近でもあられるのですよ!? 確かに平民の商人でしょうが、銀級商人で扱いも伯爵家当主相当。ヴァードモイ侯爵様からの扱いを見れば相当信頼されているはずです。あなたはヴァードモイ侯爵様との関係性に亀裂を入れるつもりですか!?」


「うっ……」


「もういい、下がりなさい。あとのフォローは私の方でしておきます」


「も、申し訳ありません、母上」


 コードル様は肩を落とし、すごすごと出ていった。

 残された奥様方やお嬢様方は頭を抱えている。

 ひょっとしていつもあんな感じなんだろうか。

 いや、それは怖いぞ?


「失礼いたしました、リリィ様。やはり、あいさつをさせるべきではありませんでした」


「いえ、お気になさらず。ところで、あの方って毎回このような感じなのですか?」


「……申し上げにくいのですが、このような感じです。先の混乱で婚約者との縁談を破棄されてからというもの、結婚相手を見つけるのに焦っておりまして」


 なるほど、コードル様も国の分裂による被害者なんだね。


 奥様によると、コードル様の元婚約者は王弟配下の貴族となったらしい。

 争いをやめず平穏を脅かし続けている一派の配下には婿入りすることができず、婚約はなくなったようだ。

 コードル様の年齢はまだ19歳らしいのでそこまで焦る年齢ではないと感じたのだけど、現実にその年頃の女性はほとんど婚約が決まっているらしく、決まっていないのはなんらかの瑕疵がある女性ばかりだそう。

 そのために結婚相手探しに執念を燃やしているとか。

 うん、やりすぎだな。


「あの子も優秀なのですが、何分婚約者との縁談が破綻してからというものあのようになってしまい。私たちは旧国家の中でもどの勢力にも属さない独立した道を歩んでいますし、誰かの結婚を口実に戦争へ加担することがあってはならないのです」


 お嬢様方の振袖を作る理由もここにあるようだ。

 このおふたりも婚約が解消されている。

 そのため、新しい婚約者を見つけるための装いとして新しいドレスを探していたようだ。

 だが、旧王都であるヴィンラウドには腕の立つデザイナーは残っておらず、ドレスの調達が難航していたらしい。

 そこにのこのこ現れたのが私だとか。

 分断された国の関係が正常化されないと嫁げないみたいだけど、それでも準備はしなくちゃいけない。

 貴族って大変だ。

 私は、結婚する気がないので気が楽である。

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