388. サルタス商会の立ち上げ

 私たちと代表のキブリンキ・サルタスが話をしている間に畑の拡張は終わったらしい。

 ただ、畑の規模が畑とか農園とかそんな規模じゃない。

 ひとつの村の規模である。

 この子たちは放っておくと、とんでもない規模で農業経営を始めるな!


「ねえ、随分と広い農地を持つようだけど管理できるの?」


『心配にはおよばない。輪作農法と定期的な試験栽培用の畑を作る予定なので最初に広く耕しただけだ。この土地は水分が少ないので可能な限り速やかに水を行き渡らせたかったからな』


 なるほど、きちんと考えている。

 でも、こんなに広く土地をもらってもよかったんだろうか?

 いまさらながらジュネブ子爵に聞いてみると、むしろ耕せる範囲はいくらでも耕して構わないとさえ言われた。

 そこまで深刻な食糧事情なのか。


「正直、食糧については他領からの支援でまかなっている側面も多いです。厄介なモンスターは少ないのですが、切り拓かれていない土地も多く、開墾可能な土地でも村を立ち上げるほどの余力のない場所はたくさんあります。正直に申しまして畑だけでも作っていただければ、人を配置することも可能です」


 ふむふむ、そんな状況なのか。

 手助けはしてあげたいけど、そこまでいくとちょっと関わり過ぎな気もする。

 落とし所はどこだろう?

 こういったところは派閥の長であるヴァードモイ侯爵様と商業ギルドの人間であるアリゼさんの意見を聞いた方がいいね。


「私としては力添えをしてもらいたいところだな。派閥の貴族が力を持つということは派閥全体の安定に繋がる。特に食糧と治安の安定は生活に直結する問題だ。手助けできるなら手伝ってほしい」


「商業ギルドとしての意見ですが、無償協力はこれくらいでとどめるべきでしょう。リリィ様のお力なら開拓もお手の物とはいえ、関わりの薄い貴族にあまり力添えをするべきではありません」


「なんだ、アリゼ。随分と含みを持った言い方をしているな」


「率直に申し上げます。この際ですからキブリンキ・サルタスたちの強みを活かしたネットワークを作り、商会を立ち上げましょう。主な業務内容は畑の開墾と穀物の販売。初期費用として各貴族からは開墾可能な土地をいただきます」


 要するにもらった土地で勝手に農業をするけど余った作物は売ってあげるよ、ってことか。

 あと、対価を支払えば農地の開墾も手伝うと。

 うーん、キブリンキ・サルタスたちの気分次第だけど作ってもいいかな。


「ねえ、どうする?」


『そうだな。人の金銭に興味はないが、契約主に金が入れば我々にも野菜が分配されるのだろう? そういう契約なら我は賛成する。あとはほかの土地に散った仲間たち次第だな』


 やっぱりキブリンキ・サルタスたちの考え方次第か。

 とりあえず、商会設立については今後の課題としておき、この話が各地のキブリンキ・サルタスたちや貴族に受け入れられるかだね。

 各貴族家としていろいろ思惑もあるだろうし、一筋縄にはいかないだろうなぁ。

 説得はヴァードモイ侯爵様とアリゼさんに代表してもらおう。

 私はキブリンキ・サルタスたちに分配する野菜を買えるだけの対価でいいからね。

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