389. ジュネブ子爵家の御用商人について

 サルタス商会のことは一旦棚上げし、私たちはジュネブの街に戻る。

 出発するには微妙な時間になっちゃったからね。

 そのほかにもアリゼさんはなにか話すことがあるらしい。

 一体なんだろう?


「お集まりいただいたのはほかでもありません。この土地の御用商人について商業ギルドで調べて参りました」


「今日はほぼ私と一緒に行動していたよね? 昨日のうちに?」


「はい。調べ上げるのは簡単でしたので。先ほど商業ギルドからの使者も到着しており、いつでも行動に移せます」


 うーん、さすがである。

 アリゼさんを敵に回すのは本当に怖い。

 仲良くやっていこう。


「それで、アリゼよ。どのようなことがわかった?」


「はい、ヴァードモイ侯爵様。彼は孤児院へと寄付をし、その見返りに孤児院の子供たちを労力として譲り受けております。これ自体はなんの問題もない契約ですが、このとき、孤児院を卒園する者たちの中には、奴隷商人に売られている子供たちもいるそうです」


「なんと!?」


 一番に反応したのは、この土地を治めるジュネブ子爵だ。

 自分たちの土地で違法まがいの奴隷売買が行われていたとなれば、黙ってはいられないだろう。

 しかし、実質1日でこれだけのことを調べ出す、アリゼさんって本当に怖いな。


「それで、いかがなさいますか、ジュネブ子爵様?」


「そんなことは決まっている! あの商人は即刻街から出ていってもらうぞ!」


「しかし、それで大丈夫でしょうか? 御用商人となれば街の商店にもそれなりの伝手があります。具体的には、裏帳簿などで金銭のやりとりをしている可能性も」


「む、確かにそれはありますね。どうしましょう……」


 一時は怒りで我を忘れそうになったジュネブ子爵だけど、現状を考えると落ち着いたようだ。

 でも、孤児院の子供たちを奴隷として売り出しているだなんてちょっと許せないかな。

 なにかいい方法はないものだろうか?


「そこで、リリィ様の新設する商会です」


「え、サルタス商会?」


「はい。街の裏帳簿の金額や孤児院に流れている資金も含め、すべて表にさらけ出してもらいましょう」


「そんな簡単にいくかな?」


「そこは商業ギルドにお任せを。すでに裏金に関する証拠はつかんでおりますので」


 なるほど、あとは優秀な後がまさえいればどうにでもなるわけだ。

 それを新興ではあるけど銀商人が手がけるサルタス商会に任せようと。

 うん、いい筋書だ。

 これならキブリンキ・サルタスたちの同意がなくても決められるから、いい感じかな?

 よし、アリゼさんにはその方向で動いてもらおう。

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