434. 王弟支配地域への砦
「ふむ。昨夜の襲撃はなしか」
「はい。一切ありませんでした」
出発前の再確認。
そこで、昨夜襲撃があったかを確認したけどなかったらしい。
ヴァードモイ侯爵家の騎士隊より広範囲に警戒網を張っていた、キブリンキ・サルタスたちも怪しげな存在が近づいてきた痕跡は見つからなかったそうだ。
なんというか、こちらからも敵の砦が見えているし、なんなら巨大な氷のかたまりがあるからよく目立つはず。
それなのに、なにも仕掛けてこないなんてむしろ不気味だね。
「報告ご苦労。あれこれ詮索しても仕方がない。先に進むとしよう」
「はっ!」
速やかに進軍の準備が整えられ、再度軍列が動き出す。
すぐそこに砦があるからか、少しピリピリした雰囲気だ。
やっぱり、一戦交える可能性も考えると、怪我人や死者の恐れがあって怖いよね。
先に私が出てすべてを凍らせることができればいいんだけど、それも止められている。
軍として筋は通さなくてはいけないらしいのだ。
さて、どうなるかな?
「止まれ! お前たちはヴァードモイの軍か!?」
砦の上から私たちのことを何者かと聞いてくる声がする。
それに、最前列の部隊長が「そうだ」と応えると、砦の兵士は「少し待て」と言い残し姿を消した。
なにがどうなっているんだろう?
「ヴァードモイ侯爵様、これは一体?」
「私にもわからん。……砦の扉が開き始めたな」
「はい。武装した兵士たちがいますね。あれ? でも、剣を抜いていない?」
「そのようだ。話を聞いてくれる余地はありそうだな」
砦の門を開け、やってきた兵士たちは、最前列の部隊と話し、話を終えた最前列の部隊長が私たちの馬車までやってきた。
彼らには降伏の用意があると。
「降伏だと? それはなぜだ?」
「彼らはプラファード公爵家の兵士たちらしいのです。そして、プラム殿の配下の方は、プラファード公爵家の兵士たちにプラファード公爵閣下からの手紙を配り回ったようですね。その結果、プラファード公爵閣下の助命と引き換えならば、この砦を制圧して通っても構わないと」
「しかし、そんなことをしてばれればプラファード公爵の命が危ないのでは?」
「そのため、ある程度戦った証拠が必要らしいのです。具体的には、彼らが討ち取られたという証拠が」
うーん、主君思いのいい部下だね。
でも、戦って負けたっていう証拠が必要なのか。
じゃあ、いっそのこと私が出しゃばろう!
「ヴァードモイ侯爵様、私とタラトで兵士ごと砦を凍りづけにします。砦を解凍すれば兵士の皆さんも息を吹き返しますし、わかりやすく負けたという証拠にもなります。どうでしょう?」
「確かに、わかりやすく負けたという証拠が必要であればそれが一番早いな。プラファード公爵家の兵たちにもその旨を伝えてやってくれ」
「承知いたしました」
伝令に来ていた部隊長さんが戻ると、敵兵士たちは少し下がった位置で剣を構え始めた。
この状態で凍らせてほしいということなんだろうね。
「タラト。この砦ごと、みんなを凍らせてあげて」
『わかった。ちょっと行ってくる』
タラトが外に出ていき、大量の氷の糸がプラファード公爵家の兵や砦を巻き込んで凍てつかせる。
糸の嵐のあとに残されていたのは氷の彫像となった兵士たちと砦だった。
タラトはちゃんと気を利かせてくれたようで、砦を抜ける門は凍りついていない。
これなら先に進めるね。
ここの兵士たちもすべてが終わったら、ちゃんと解放してあげないと。
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