323. 防具の受け渡し
防具が完成したと連絡をしてから数日後、鳥便に乗ってガレット伯爵領の冒険者たちがヴァードモイまでやってきた。
私のお店は男性厳禁のため装備の受け渡しはできないので、今回も冒険者ギルドの一室を借りて受け渡しを行う。
しかし、赤冒険者が20人もいると圧が違うね。
「おお! これが俺たちの新しい防具か!」
「はい。装飾もお望みでしたので加えてみました。いかがでしょう?」
「革鎧でこれだけの装飾が施されているなんて素晴らしいわ! 早速身に着けてみたいんだけどいい?」
「どうぞ。最終調整が必要な場合、この場でやってしまいますので」
女性陣もこの場で防具を着替えだしたのには驚いた。
どうも素肌を見られるわけではないので、この程度なら男性に見られても構わないそうだ。
私は恥ずかしいと思うから、やっぱり冒険者には向いていないな。
「……着心地もいいな。なにかエンチャントがかかっているのか?」
「標準で『自動再生』と『速乾』を付けておきました。やっぱり、蒸れると聞いたので」
この辺は『山猫の爪』からのアドバイスだ。
鎧というものは革だろうと金属だろうとがっちり体の周りを覆うので蒸れやすい。
ジメジメした状態が続くと鎧も傷みやすくなるし、なにより着心地がよくない。
それなら『速乾』のエンチャントを施しておくことで、着心地も改善されるだろうという話だったのだ。
もちろん、その話を聞いたあとすぐに『山猫の爪』の防具にも『速乾』をかけたよ。
「『速乾』なんてエンチャント、あったのか?」
「私が知っているし、かけられるのですからあるんですよね。これである程度、長時間鎧を着続けていても蒸れることが少なくなるはずです」
「それは細かいことだが気が利くな。やっぱり、防具の中でジメジメしてきたときの感覚は嫌だからな」
みんなジメジメしているのは嫌らしい。
そのあと全員に防具を着けてもらって確認した結果、とくに問題はないとわかった。
というか、魔法裁縫で作ってるおかげで、多少の誤差があっても自動で直るようなんだよね。
なんて便利な技術なんだ、魔法裁縫。
さすがである。
「うし、これで防具の受け渡しは完了だな。代金はこれだ。あとはガレット伯爵領に戻って鎧下探しだな」
「あれ? 鎧下も新調するんですか?」
「ああ、その予定だ。なにかいい品でもあるのか?」
「いい品というか、絹製なので高ランク冒険者向けとなりますがちょうどいいものが」
私はリュックの中からオーガスパイダーシルク製の鎧下を取りだした。
絹1枚では薄すぎるので何重にも重ねて作った自慢の一品だ。
「その服がか? どう見てもきれいな布の服にしか見えないんだが?」
「ちょっと待ってくださいね。この布はこんな風に……」
私が鎧下の袖を思いっきり引っ張る。
すると、それに合わせて布の方も伸びた。
これがオーガスパイダーシルク製鎧下の特色のひとつ目、高い伸縮性だ。
「ほう。面白いな。だがそれだけじゃ……」
「これ、耐刃製もすごいんですよ。試しに切ってみてください」
「いいのか? 俺の剣は赤冒険者が使うような代物だぞ?」
「多分大丈夫です。さあ、どうぞ!」
「あ、ああ。……おおっ! 本当に切れないぞ!」
冒険者さんの剣は勢いよく振り下ろされたけど、鎧下はそれを受けて下に伸び、反発して剣を弾き飛ばした。
鎧下には剣で切った傷痕も伸びたあとも残っていない。
まあ、これくらいの品質チェックはお店で何度もしてるしね!
「すげぇ鎧下だな。いくらするんだ?」
「ちょっとお高めですが、これくらいでいかがでしょう」
「……ふむ、鎧下としては高めだが、並みの鎧よりは防御力が高いことを考えれば妥当か」
「なに言ってるの。命には替えられないんだからここで買っておくべきでしょ」
「それもそうだな。嬢ちゃん、この鎧下をこの場にいる全員に5着ずつ頼めるか?」
「わかりました。3日ほどお待ちください」
よし、追加の受注もゲット!
オーガスパイダーシルク製の鎧下は初めての販売だけど、性能は十分高いしいい宣伝になるといいな!
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