383. アグリ子爵家
失礼だったクシア子爵にはキブリンキ・サルタスたちを任せず、私たちは次の貴族家へと向かう。
今度の貴族はアグリ子爵と言うらしい。
土地柄としてそこまで裕福でもないが、健全な運営をしているため民が困っていることもない、そんな地のようだ。
ただ、この土地にも強力な魔物を生み出す『混沌の渦』が2カ所あり、それが目下の悩みみたいである。
困っていたとしても、キブリンキ・サルタスはそっちの戦力として期待してもらうわけにはいかないからね。
我慢してもらおう。
アグリ子爵家に到着すると、私たちは応接間に通されて今後の打ち合わせだ。
ただ、やはりキブリンキ・サルタスを『混沌の渦』対策に使いたいという話が出てきた。
さすがにそれは待ってほしいかな。
「リリィ、随分とキブリンキ・サルタスがモンスターと戦うことに反対するな? なにかあるのか?」
「ええと、キブリンキ・サルタスって単体になってしまうとあまり強くないんです。群れている間はどうにでもなりますが、孤立してしまうとどうにもなりません」
「ふむ、人間相手ならば1匹でも十分に強いが、モンスター相手だとそこまででもないか。得意の読心術は使えないのか?」
「どうやらモンスターって本能的に他者を襲う習性がある種族が多いみたいです。なので、相手の心を読んでも対処しきれないとかが多いらしく。あと、人相手でも集団戦になると事前に罠を張らないと危険です」
そうなんだよね。
キブリンキ・サルタスってタラトみたいに頑丈ではないんだ。
人間相手ならある程度なんとかできるけど、力強いモンスター相手だと一気に不利になってしまう。
前脚は鋭いんだけど、特別力が強いわけでもないからね。
相手の肉が厚かったり、皮膚や鱗が硬かったりするだけで攻撃能力を失ってしまう。
拘束力は強いけど、攻撃が通用しない相手にはとことん弱い、そういう種族なのだ。
「なるほど、それではキブリンキ・サルタスたちを『混沌の渦』に向かわせるのは危険か」
「そうですね。オーガ程度でしたらなんとかなりますが、その程度でしたら冒険者でも抑えが効くはずです。それより強いモンスターってなると、まともに戦えるかが怪しくなってきます」
「意外な弱点だったな。アグリ子爵、どうする?」
「正直、そこを期待していた面もあるのですが、強いモンスターに挑んで返り討ちにあわせるのはテイムモンスターを預かる身として不本意です。大人しく諦めましょう」
「よく言ってくれた、アグリ子爵」
「その代わり、街道警備などはその蜘蛛たちに任せても大丈夫でしょうか? 少しでも衛兵や冒険者の余力を出したい」
その程度だったら構わないかな。
ただ、広い街道を警備するとなると、貸し出し予定だった子たちだけでは足りない。
なので、クシア子爵に預ける予定だった子たちをすべて貸し出すことにした。
開拓組はある程度開拓に適した土地を与えておけば野菜を増産してくれるし、それをほかのキブリンキ・サルタスたちの報酬に充てれば持ち出しは少なくて済むからね。
土地は未開拓の場所があるらしいし交渉もまとまったので、アグリ子爵にはキブリンキ・サルタスたちを多めに預けよう。
うまく共生してくれるといいね。
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