382. クシア子爵

 ポリシア伯爵家にも無事にキブリンキ・サルタスたちを引き渡し終わり、次はクシア子爵家だ。

 ここも私がドレスを納めた家のひとつである。

 確か、弟さんにも服を送った家だよね。

 その子たちは元気にしているだろうか。


 ヴァードモイ侯爵様から事前に教えられた情報だと、クシア子爵家は特に裕福でも貧乏でもない家だそうだ。

 特産品と呼べるものがないが、土地もそれなりに肥沃なために食べる分には困らないのだとか。

 ただ、強力なモンスターが発生する『混沌の渦』が1カ所存在し、そこの対応に苦労しているらしい。

 実際どんな土地なのかは、ついてみてからのお楽しみかな。


「ようこそおいでくださいました、ヴァードモイ侯爵様」


「うむ。クシア子爵も元気そうでなによりだ」


「はい、おかげさまで。それでは、どうぞ中へ」


 クシア子爵は見た限りだと普通のおじさんだな。

 特に武人そうでも優秀そうでもない。

 どんな人かは話してみないとわからないか。


 それでヴァードモイ侯爵様のあとに続き、応接間に入ろうとしたらクシア子爵から止められた。

 一体なんだろう?


「そこまでだ。ここから先は貴族同士の話し合いになる。警護の冒険者は不要だ」


「えっ? 私は……」


「異論は認めん。外で待っていろ」


 それだけ告げると部屋のドアを閉めてしまった。

 失礼だなぁ。


「リリィ、どうするのだ?」


「帰りましょうか、プラムさん。キブリンキ・サルタスたちもいいよね?」


『うむ。無礼者の下で働くつもりはない。この地の民には申し訳ないが、無能な大将をもったと思い諦めてもらおう』


『そうだな。リリィが服を作ったという子供には会ってみたかったものだが』


「私も会ってみたかったけど仕方がないよ。帰ろう」


 私たちは屋敷から出て自分たちの車へと戻った。

 外で待っていたキブリンキ・サルタスたちにも事情を説明し、空へ舞い上がって次の土地へ向かうまで待っていてもらう。

 ふむ、1カ所分キブリンキ・サルタスたちが残ってしまったな。

 ヴァードモイで警備や開拓をしてもらえばいいか。


「おーい、リリィ。ちょっといい?」


 私が車の中で待っていると、コウ様がやってきた。

 用件を聞くと、クシア子爵が私の正体を知り、詫びたいと言いだしたという。

 そんなの私には関係ないけどね。


「わかった。それじゃ、お父様にもそう報告してくる」


「お願いします、コウ様」


「気にしないで。相手の素性も確かめず、護衛がついているのに追い出すなんて真似をしたクシア子爵が悪いんだしね。それに、銀商人であるあなたなら実質的な立ち位置はクシア子爵より上なんだし」


 そういえばそうだった。

 私は身分を振りかざすつもりもないし気にしてなかったけど、銀商人って子爵よりも立場が上なんだった。

 ……まあ、もう終わった話だからどうでもいいけどね。

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