384. アグリ子爵領の村で

 アグリ子爵領ではキブリンキ・サルタスたちへの評価は期待半分、不安半分といったところだ。

 まあ、その辺はキブリンキ・サルタスがいくらでも改善してくれるだろう。

 得意分野だし。


 私たちはそのまま出発しようと思ったんだけど、アグリ子爵は開拓村へキブリンキ・サルタスを配るのを手伝ってもらいたいと申告してきた。

 開拓村ではアグリ子爵もあまりふれあいがないらしく、どう受け取られるかが不安なのだそうだ。

 ヴァードモイ侯爵様次第だけど、どうするのだろう?


「話はわかった。リリィ、旅程が少し伸びるが構わないな?」


「私に異存はありません。それよりも、うちの子たちはちゃんと受け入れられるでしょうか?」


「働くところを見れば、農民なら誰でも受け入れるであろう。行ってみれば早い」


 確かにそうだよね。


 アグリ子爵に案内されてやってきたのは、領都からそれなりに近い開拓村だ。

 アグリ子爵領はモンスターとの兼ね合いもあり、なかなか開拓村を広げられないらしい。

 その分、モンスターの素材で領政が潤っている面もあるので、結果としてはトントンなのだそうだ。

 ともかく、ここを開拓したいんだね。


『ここか。随分と村の周りを囲う壁……いや、石垣が低いな?』


「そこは勘弁してやってほしい。モンスター相手では木の壁など意味がないんだ」


『だが、あの石垣では野生動物も素通りだぞ?』


「むむ……そこも含めて改善を願えるか?」


『お安いご用だ。まずは村のリーダーにあいさつさせてくれ』


 キブリンキ・サルタスたちの言うとおり、この村には木の柵はなく、代わりに石垣を積んである。

 でも、その石垣もあまり高さはなく、垂直に立っていないから野生動物もモンスターも軽々と昇り超えられそうなんだよね。

 ちょっと不安だな。


 アグリ子爵が村のまとめ役として呼んでくれたのは、アグリ子爵の三男らしい。

 ただ、あまり体ががっしりしていないところをみると、あまり自分から率先して動くタイプではないのかな?


「どうしたんですか、父上。急にお見えになるとは」


「ああ、それなんだが。ヴァードモイ侯爵様が配下のテイマーのテイムモンスターを貸し出してくれることになった。戦闘能力はそこそこ止まりのようだが、農業に関する知識は豊富さと聞く。お前の村で使ってやってはもらえないか?」


「モンスターが農業? ヴァードモイ侯爵様もいらっしゃいますし、冗談ではなさそうですが……とりあえず私の村の畑をみて問題点を指摘していただきましょう。話はそこからです」


 実地で見極めるのか。

 自分で鍬を握るのではなく、どんな農法がいいのかを調べて指示を出すタイプなのかな?

 畑も見た限り問題なさそうだけど、キブリンキ・サルタスたちはどのような評価をつけるんだろう?


『よくできた畑だ。麦も豊富に育っているし、一目見ただけでは問題なんてなさそうではある』


「ほう、では実際にはなにか問題があると?」


『連作障害が起きているな? おそらくこれだけの収穫量を維持するために大量の肥料や病害虫対策をしているはずだ。このままではやがて土地が枯れるぞ』


「むぅ。やはりそうなのですね。それで、連作障害というのは、同じ作物を連続で育てることによるなんらかの問題ということでよろしいでしょうか?」


『そうだな。なんだ、お前、博識じゃないか』


「旧王国では農業学について研究を続けておりましたので。ですが、連作障害を回避するための方法が見つからず終いで国が解体されてしまったんですよ」


『その答えなら我々が知っている。どうだ、ともに農業を研究するか?』


「ぜひともお願いいたします。ちなみに、この村の周りにある石垣を高くすることもできませんか?」


『石垣は専門外だが、木の壁を作ってくれればそこを我らの糸で頑丈にすることくらいはできるだろう。すまないな、そちらはそれくらいだ』


「いえ、十分ですよ。では、冬になる前に準備に取りかからせましょう」


 うーん、こちらはこちらで馬が合いそうな組み合わせだった。

 やっぱり、お野菜蜘蛛と農業指導者って波長が合うものなんだろうか。

 まあ、元気に暮らしていけそうでなによりである。

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