463. 再びキリ様と会談

「サザビー公王様にまで来ていただくとは。まことに申し訳ございません」


 私たちで話し合った結果、キリ様と話した方がいいということになったので再びキリ様と面会である。

 今回は話を持ちかけたらやってきたサザビー公王様も一緒だ。

 さて、本心ではどんなことを考えているんだろう?


「留学を望んでいると娘から話があったからな。だが、八天座の島ではそこまで教育が進んでいないのか? 基本的なことはできると考えていたのだが」


「そのことなのですが、正直に申しまして一般市民まで教育が進んでいるとはいえないのです。教育は裕福な家庭のみが受け、それ以外の家庭では教育の必要性が理解できていません」


「ふむ。しかしながら、そうなってくると意識改革の方が先に必要ではないのか? 教育の意義を理解せぬことには、教育を施そうとしても民がついてこないだろう」


「それはそうなのですが……。そうもいっていられない事情が生まれてしまいまして」


 意識改革よりも急ぐ理由が生まれた?

 一体どうしたのかな。


「ここ最近、外国へと商売に行った商人がだまされ、金品を奪われるばかりか家族まで奴隷として奪われる事案が続いております。八天座の島では、商売を口約束のみですることが多く、契約書を残すという文化があまりありません。そこをつけ込まれ、偽の内容を書かれた契約書にサインをしていることが発生しているのです」


 口約束だけで商売をしているって結構危ない気がするんだけど、八天座の島では普通なのだそうだ。

 八天座の島では八座神の教えが広がっているため、人をだますという行為そのものが天に背く行為であり、もっとも重大な罪となる。

 そのため、口約束だけでも商売が成立するし、口約束だけなら細かい差は大目に見るという文化が根強いそうだ。

 もちろん、公的な取引やかなり大規模な取引は契約書を残しているらしい。


 そのような風習のある八天座の島の商人が外の世界で取引をするとなると、まず商慣習の違いで痛い目をみるとか。

 言葉は通じても契約書を残さないから、不良品をつかまされたりだまされたりすることが多いらしい。

 契約書がない以上、あとからクレームを付けても証拠がないもんね。


 それだけならまだしも、契約書を残さない、つまり他国の文字を読み書きできるとは限らない八天座の島の商人は、口頭の説明と違う内容の契約書にサインを書かされても気付かないわけだ。

 そういう契約書を作る人ほど悪人なわけで、強引な取り立てを行い、すべてを奪っていくみたいである。


 商慣習がまったく違うことが災いしているわけだけど、外の世界では大きな取引になると契約書を残すのが一般的なので、こればっかりは八天座の島の商人をかばえない。

 商業ギルドも契約書がある以上はあまり踏み込めないからね。

 それも踏まえて一般市民に向けて教育をと考えているみたいである。


 理由はわかったけど、話が飛躍しすぎているかな?

 まずは商人に対して教育を施さないといけないね。

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