379. 開拓村とキブリンキ・サルタス
とりあえずデグサル男爵と息子さんの話が終わったので、今度はヴァードモイ侯爵様と私の出番だ。
思った以上に気さくな人のようだけど。
「ルジオだったな。久しいが、開拓村で指導者をしていたのか」
「お久しぶりでございます、ヴァードモイ侯爵様。私は父のやり方に反発し、男爵家から飛び出してこの開拓村に来ておりました。貴族としての務めを果たさず、申し訳ございません」
「いや、それはよい。民を飢えさせないことも貴族の立派な務めだ。お前も苦労をしたようだな」
「苦労の連続でしたね。決して土地は豊かとは言えず、開墾するにも時間と手間がかかる。住む家を建てるのだって大工経験のある人間を手伝っての作業です。ここに来てから困難の連続でした」
「そうか。しかし、いい顔立ちになっているぞ。立派な経験を積んだようだな」
「ありがとうございます。それで、話にあったテイムモンスターというのは?」
「ここからはテイマーと代わろう。リリィ、こちらへ」
あ、呼ばれた。
よし、行こうかな。
「その少女がテイマーですか?」
「ああ、そうだ。名をリリィという。テイマーではあるが、いまでは銀級商人としての活動が基本だな」
「そうでしたか。ようこそ、私の開拓村へ。歓迎するよ、リリィ嬢」
「ありがとうございます。ご紹介にあずかりました、リリィと申します。リリィで結構ですよ。それから口調もそんなに硬くならずに」
「そうか? ここでの暮らしを始めてから貴族らしい口調が抜けていて大変だったんだ。気楽に話させてもらうぜ」
うん、こっちの方がしっくりくるね。
この次男坊さん、いきいきとしているもの。
そんな次男坊さんに案内されてキブリンキ・サルタスたちと一緒に村の中を見て回る。
秋に入り始めた頃だから麦が実りはじめた頃合いだけど、あまり生育状態はよくなさそうだ。
これで7割も領主に持っていかれていたんじゃ生活も苦しかっただろうな。
この状況をキブリンキ・サルタスはどう分析するんだろう?
『ふむ。全体的に土の掘り返しが足りなさそうだ。あと、養分も足りていない。この土地では痩せた作物しか育たないだろうな』
「モンスターなのに随分と畑作りに詳しいようだ。で、それを改善するにはどうすればいい?」
『今年の収穫が終わったら、すべての畑をもう一度掘り返し直して柔らかい土にする。それからできれば輪作もした方がいいだろう』
「輪作? なんだ、それは?」
『同じ土地で同じ作物を連続して育てるのではなく、複数の作物を回して育てる農法だ。こうすることにより、土地から特定の養分のみが失われることを防げる。また、育てる作物を変えることで害虫も発生しにくくなる。麦だけの収穫量を見れば下がることにはなるが、長い目で見れば効率的な方法だろう』
うーむ、この蜘蛛たち輪作まで知っているのか。
聞けば、混沌の渦を守っていた長から学んだ知識だと言うし、この蜘蛛たちの始まりの知識は本当にどこから来ているんだろう?
ひとまず輪作はキブリンキ・サルタスが新しく開墾する畑で試すことが決まった。
必要な種は私が調達して送ることにする。
それにしても、本当に農業に対する知識が深いな、この子たちは。
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